今月、前半は中南米の神話に登場する鳥、ケツァールの水彩画を制作した。
ケツァールはメキシコ南部からパナマにかけての山岳地帯に生息しているキヌバネドリ科の鳥類で、その名の由来は古代アステカのナワトル語で『大きく輝いた尾羽』という意味を持つ。その名のように♂は長い飾り羽を持ち、これを含めると全長は90~120㎝にもなる。頭から背にかけて光沢のあるエメラルドグリーンで、、腹部がルビーのような深紅である。この派手な色彩から『世界一美しい鳥』の異名を持つ。現在、グァテマラの国鳥に指定されていて国旗の中央にも描かれている。日本では手塚治虫の漫画「火の鳥(不死鳥)」の主人公である伝説の鳥のモデルとなったことでも知られている。近年、我が国のバードウオッチャーが海外ツアーを組んでコスタリカの森林までこの鳥を見に出かける。それほど美しい姿なのである。
神話・伝説の世界では古代マヤ、アステカ・インディアンはケツァールを「大気の神」として崇拝し、その飾り羽は高貴な人しか身につけることができず、王族や聖職者が神聖な儀式の際にその羽毛を身に着けていたという。また自由を奪われると死ぬという伝説のために自由の象徴ともなってきた。1524年スペイン軍と闘って破れ、火あぶりにされたグァテマラの勇士テクン・ウマンの胸が血に染まった時、一羽のケツァールがその胸をかすめて飛び去り、それ以来ケツァールの胸が赤くなったという言い伝えもある。
神話・伝説とは裏腹にその美しさ故に、欲深く心無い人間の密猟の対象とされてきた長い歴史もある。現在では生息地に保護区がもうけられ法的に国際保護鳥として守られているが、現在深刻なのはこの鳥の生息地となる熱帯林の減少、環境破壊であるという。
ネット検索で動画などを見てみると、その長く美しい尾羽をヒラヒラとたなびかせて飛翔する姿は理屈抜きで素晴らしい。古代の人々が神の化身として崇めていたことがうなずけるのである。「ケツァールよ、高く深い密林の上をいつまでもその高貴な姿で飛翔し続けてほしい」そんな願いを込めて絵筆をとった。画像はトップが制作中の水彩画(部分)、下が向って左から19世紀のイギリスの鳥類学者ジョン・グールドの原画をもとに制作された石版画(部分)、古代南米の石板レリーフ(部分)、今回の制作で仕上げに使用したアクリル絵の具。