先月、5月14日。千葉県市川市南部にある行徳鳥獣保護区内で東京蜘蛛談話会主催により行われた「クモ観察会」に参加してきた。行徳鳥獣保護区周辺は新浜(しんはま)と呼ばれ昭和30年代頃までは渡り鳥(主に水鳥)の中継地として世界中の鳥類学者が注目する場所だった。
それが高度成長期に大規模な東京湾岸域の開発が進み、現在までに三番瀬、谷津干潟などと合わせわずかな干潟や水辺の自然が残される形となっていった。そして僕にとっては今から40年前、高校生の頃に野鳥観察を始めた想い出の場所でもある。
今回、「クモ観察会」を主宰するのは東京蜘蛛談話会という生物のクモを研究、愛好する会で全国にプロ・アマ含めた会員がいる団体である。僕は30代の初めに専門的な研究機関である「日本蜘蛛学会」と共に入会し現在にいたっている。入会の動機は住まいの近くである印旛沼周辺の「クモ相・ファウナ」を調べたくてみたくなったのがきっかけだった。学会の方は僕には専門的すぎて10年程前に退会してしまったが、談話会はみんなで楽しく観察会などを行っているところが気に入って続けている。とはいえ東京と名がつくだけあって会員が東京、神奈川、埼玉に集中していて、いつも観察会がそちらの方面のことが多く会員数の少ない千葉県での観察会が少ないので、なかなか参加できず幽霊会員になりつつあった。それが今年は千葉県市川市の保護区内で開催されるというので重いオシリを上げて参加することとなった次第である。
当日の朝、9時過ぎに地下鉄東西線の行徳駅で下車、改札の駅員さんに保護区までの順路を確かめテクテクと歩き出した。20年近く来ていない。ひさびさに訪れた街中のようすは随分変わっている。初めて見るビルや住宅地も拡張されていたりと風景が様変わりしていて途中からどこをどう歩いているのか解らなくなってしまった。結局、保護区の南端まで移動してしまい集合場所までグルリと遠回りした形になった。
どうにか行徳自然観察舎前の集合場所に辿り着くと、すでにボランティア・ガイドの人による保護区内での行動や観察の注意事項の説明が始まっていた。これから入る保護区内は普段は一般の人の入場はできず、今回はこの観察会のため特別に入場させていただくのである。
古くからの談話会の知人で観察会の世話人であるK女史や何人かの顔見知りの人に挨拶し、参加者20名の列の後ろに並んで注意を受けた。
10時過ぎにいよいよ保護区内に出発する。ゲートをくぐってしばらく進むと右手に干潟が現れた。引き潮でトビハゼやヤマトオサガニといった干潟特有の生物が観られた。このあたりまでは40年前の記憶がピタリと重なってくる。さらに進むとうっそうとしたブッシュが広がり始めた。草原、常緑樹の林、笹薮、ところどころ池が現れたりなかなか変化に富んだ自然環境が形成されている。ポッカリと開けた場所に出ると水田が作られ、ため池に水車が回っている場所に出た。ここで世話人のK女史による観察会の簡単な流れの説明があり、あとはおのおの観察へと向かう。それこそ「蜘蛛の子を散らす」ようにテンデンバラバラに保護区内に散って行った。いきなり採集を始める人、じっくりとクモの網を観察する人、奥の方まで移動する人など人それぞれの観察が始まる。僕はというと「採集はしない」と決めているのでカメラ片手に大きな種類を撮影したり、種のわからないクモを同定会用に持参した小瓶に入れたり(後で生きたまま逃がす)ゆっくりと移動して行く。
コガネグモ科のコガネグモの亜成体が多く目につく。コガネグモは平野部では農薬散布なので減少している種類だがここは居心地が良いらしい。それから太平洋岸で北上傾向のあるアシナガグモ科のチュウガタシロカネグモも多く観察できた。
あっという間にお昼の時間。元来た道をもどり観察舎前まで戻り昼食を兼ねて「クモ合わせ」と呼ばれる同定会。参加者全員が種名の解らないクモを小瓶に入れて持ち帰ったものをベテラン会員(若い生物系大学院生)がルーペで除きながら次々に同定していく。今回、カニグモ科の「ワタリカニグモ」という珍しいクモの雄雌の成体が採集された。僕も初めて聴いた種名で出版されたばかりの最新の図鑑には掲載されているということだった。
午後の観察会も同じルートで保護区内に入り、それぞれに観察行動をする。おもしろかったのはk女史が捕まえたハエトリグモ科のネコハエトリ数頭をノートの上に放して「ホンチ(ハエトリグモによる相撲)」を始めたことだった。周囲にはギャラリーも増えヤンヤヤンヤと結構楽しめた。
楽しい時間はアッと言う間に過ぎて行く。再び元来たルートを戻り、出口付近の草地に集まると二度目の「クモ合わせ」。同定できたもので今回74種のクモ類が記録された。名残惜しいが午後4時過ぎに解散となり保護区をあとにした。
今回の参加による収穫はクモの個体数の多さもさることながら40年の歳月の中で保護区内の植生が豊かに繁茂し、まるで欧米の自然保護区のように発達し、管理されていたことだった。40年前の何もない埋立地の状態を知るものとして再生された自然環境はまるで「創世記」を現実で見せられているような感覚になった。これもひとえに「行徳野鳥観察者友の会」を初めとしたボランティアの人たちによる地道な保護活動の成果なのだと納得し感動した。友の会の皆さん、お世話になり感謝します。この観察会は7月、10月、2月とシーズンを変えて開催される。今後もできるだけ参加してみようと思っている。
画像はトップがチュウガタシロカネグモの♀成体。向かって左からコガネグモ♀、ナカムラオニグモ♀、コゲチャオニグモ♀、ゴミグモ♀、イオウイロハシリグモ♀亜成体、クサグモ幼体、観察会のようすと保護区内の風景。
それが高度成長期に大規模な東京湾岸域の開発が進み、現在までに三番瀬、谷津干潟などと合わせわずかな干潟や水辺の自然が残される形となっていった。そして僕にとっては今から40年前、高校生の頃に野鳥観察を始めた想い出の場所でもある。
今回、「クモ観察会」を主宰するのは東京蜘蛛談話会という生物のクモを研究、愛好する会で全国にプロ・アマ含めた会員がいる団体である。僕は30代の初めに専門的な研究機関である「日本蜘蛛学会」と共に入会し現在にいたっている。入会の動機は住まいの近くである印旛沼周辺の「クモ相・ファウナ」を調べたくてみたくなったのがきっかけだった。学会の方は僕には専門的すぎて10年程前に退会してしまったが、談話会はみんなで楽しく観察会などを行っているところが気に入って続けている。とはいえ東京と名がつくだけあって会員が東京、神奈川、埼玉に集中していて、いつも観察会がそちらの方面のことが多く会員数の少ない千葉県での観察会が少ないので、なかなか参加できず幽霊会員になりつつあった。それが今年は千葉県市川市の保護区内で開催されるというので重いオシリを上げて参加することとなった次第である。
当日の朝、9時過ぎに地下鉄東西線の行徳駅で下車、改札の駅員さんに保護区までの順路を確かめテクテクと歩き出した。20年近く来ていない。ひさびさに訪れた街中のようすは随分変わっている。初めて見るビルや住宅地も拡張されていたりと風景が様変わりしていて途中からどこをどう歩いているのか解らなくなってしまった。結局、保護区の南端まで移動してしまい集合場所までグルリと遠回りした形になった。
どうにか行徳自然観察舎前の集合場所に辿り着くと、すでにボランティア・ガイドの人による保護区内での行動や観察の注意事項の説明が始まっていた。これから入る保護区内は普段は一般の人の入場はできず、今回はこの観察会のため特別に入場させていただくのである。
古くからの談話会の知人で観察会の世話人であるK女史や何人かの顔見知りの人に挨拶し、参加者20名の列の後ろに並んで注意を受けた。
10時過ぎにいよいよ保護区内に出発する。ゲートをくぐってしばらく進むと右手に干潟が現れた。引き潮でトビハゼやヤマトオサガニといった干潟特有の生物が観られた。このあたりまでは40年前の記憶がピタリと重なってくる。さらに進むとうっそうとしたブッシュが広がり始めた。草原、常緑樹の林、笹薮、ところどころ池が現れたりなかなか変化に富んだ自然環境が形成されている。ポッカリと開けた場所に出ると水田が作られ、ため池に水車が回っている場所に出た。ここで世話人のK女史による観察会の簡単な流れの説明があり、あとはおのおの観察へと向かう。それこそ「蜘蛛の子を散らす」ようにテンデンバラバラに保護区内に散って行った。いきなり採集を始める人、じっくりとクモの網を観察する人、奥の方まで移動する人など人それぞれの観察が始まる。僕はというと「採集はしない」と決めているのでカメラ片手に大きな種類を撮影したり、種のわからないクモを同定会用に持参した小瓶に入れたり(後で生きたまま逃がす)ゆっくりと移動して行く。
コガネグモ科のコガネグモの亜成体が多く目につく。コガネグモは平野部では農薬散布なので減少している種類だがここは居心地が良いらしい。それから太平洋岸で北上傾向のあるアシナガグモ科のチュウガタシロカネグモも多く観察できた。
あっという間にお昼の時間。元来た道をもどり観察舎前まで戻り昼食を兼ねて「クモ合わせ」と呼ばれる同定会。参加者全員が種名の解らないクモを小瓶に入れて持ち帰ったものをベテラン会員(若い生物系大学院生)がルーペで除きながら次々に同定していく。今回、カニグモ科の「ワタリカニグモ」という珍しいクモの雄雌の成体が採集された。僕も初めて聴いた種名で出版されたばかりの最新の図鑑には掲載されているということだった。
午後の観察会も同じルートで保護区内に入り、それぞれに観察行動をする。おもしろかったのはk女史が捕まえたハエトリグモ科のネコハエトリ数頭をノートの上に放して「ホンチ(ハエトリグモによる相撲)」を始めたことだった。周囲にはギャラリーも増えヤンヤヤンヤと結構楽しめた。
楽しい時間はアッと言う間に過ぎて行く。再び元来たルートを戻り、出口付近の草地に集まると二度目の「クモ合わせ」。同定できたもので今回74種のクモ類が記録された。名残惜しいが午後4時過ぎに解散となり保護区をあとにした。
今回の参加による収穫はクモの個体数の多さもさることながら40年の歳月の中で保護区内の植生が豊かに繁茂し、まるで欧米の自然保護区のように発達し、管理されていたことだった。40年前の何もない埋立地の状態を知るものとして再生された自然環境はまるで「創世記」を現実で見せられているような感覚になった。これもひとえに「行徳野鳥観察者友の会」を初めとしたボランティアの人たちによる地道な保護活動の成果なのだと納得し感動した。友の会の皆さん、お世話になり感謝します。この観察会は7月、10月、2月とシーズンを変えて開催される。今後もできるだけ参加してみようと思っている。
画像はトップがチュウガタシロカネグモの♀成体。向かって左からコガネグモ♀、ナカムラオニグモ♀、コゲチャオニグモ♀、ゴミグモ♀、イオウイロハシリグモ♀亜成体、クサグモ幼体、観察会のようすと保護区内の風景。