長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

385. 本棚の蔵書の整理をする。

2019-10-19 17:39:27 | 日記・日常
僕は今年6月に還暦を迎えた。特別何かが変わったという訳ではないが、気持ちを切り替えようと身辺の整理を少しずつ始めている。僕より上の世代は『断捨離ブーム』といって身の周りの物を整理し捨てる活動を進めている。

まだ『断捨離」というレベルではないのだが、我が家も御多分に漏れず物で溢れているのだ。仕事に使う画材などは別として特に多いのは衣類、書物、レコード(CD)など。書物は特に多く20代から読書好きでいろんな分野に興味を持ってしまうせいか蔵書が多い。僕だけではなく連れ合いも文学部出身の読書好きである。だが僕よりも早く整理を始めて随分と減らした。女性の方が捨てっぷりが良いというのだろうか、ポイポイ捨ててしまって大分スッキリしている。何にせよ男の方が未練がましいのである。

僕も今月に入り中断していた蔵書整理を再開し始めた。文庫や雑誌のバックナンバーなどは少し前にかなり整理したのだが、書棚をザッと眺めて見ると単行本や豪華本はまだまだ多い。「こだわりを持って購入したものはなかなか捨てられないんだよねぇ…」。ジャンルは何かというと、文学書、詩集、エッセー、歴史、宗教、音楽書、美術書、画集、展覧会図録、自然科学、博物学、図鑑、写真集etc.etc.…。自分で言うのも何だがけっこう多彩な内容となっている。

僕らの世代はまだ「活字世代」なんだなぁ。30代、20代の子供たちはほとんど書物で活字を読まない。スマホやタブレットから「Kindle」などと言ったアプリを開いて好きなものを読んでいる。漫画でさえスマホで読むし音楽も好きな曲を選曲してスマホから聴く。「活字離れ」が進むわけである。出版不況、印刷不況と言われ始めてから久しいけれど、出版・印刷関係企業はたいへんな時代に入っているのがよく理解できる。
僕個人は少し試してはみたのだが、まだまだ書物はスマホで読む気持ちにはなれない。子供のころから紙の質感とそこに印刷された文字を読むことに目の方が慣れ親しんでいるのである。こう書くとまた若い世代からは「昭和生まれの価値観」と言われてしまうのかもしれないが。

最近、少しショックなことがあった。携帯電話からスマホに換えたのだが、サービスセンターに行って手続きを進める中でスタッフの若い男性から「今後、スマホにまつわる当社からの通知ですが紙媒体でもお出ししますか?」と尋ねられた。この「紙媒体・かみばいたい」という言葉が聞き取れなかったのだが、聞き直してゆっくり言ってもらっても意味が解らなかった。つまり「ハガキや印刷物」ということらしい。「メールなどのデータ以外にハガキでも連絡しますか?」ということだったのである。初めて聞いた日本語である。まるで科学者が使う単語のようでもある。若い世代にとっては「紙」そのものが古臭い物質ということになっていくのだろうか。このサービスセンターでの出来事を思い出しながら自分の本棚を整理していて自分たちの世代の価値観というものが、いかに古くなりつつあるのかということをシミジミと感じてしまったのである。

禅の言葉に「少欲知足・しょうよくちそく」という言葉がある。「欲望を少なくして足ることを知る」という意味である。確かにこれまでの我々の生活というのは子供のころから物質に埋もれ過ぎてきた。これから先の時代の世の中は物質がさらにデータ化されミニマルな生活空間へと向かっているのかも知れない。屁理屈はともかくとして今から読まない書物、使わないものを整理し捨てることにしよう。

画像は我が家の2階に大工さんに特別に頼んで造ってもらった本棚(家の本棚の極1部)。