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まだ誕生から10億年以内の初期宇宙なのに… 大きく成長したクエーサーや長さ300万光年のフィラメント構造を発見! 宇宙論と矛盾する結果に…

2023年09月25日 | 宇宙 space
初期宇宙に存在する天体は赤外線で観測できますが、その性質によりこれまで観測は困難でした。

今回、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の観測プログラム“ASPIRE”では、約138億年前の宇宙誕生から10億年以内に存在したクエーサーを分析。
長さ300万光年に10個のクエーサーが固まっている集団と、クエーサー中心部に太陽の6億倍から20億倍の質量を持つ超大質量ブラックホールが存在する証拠を発見しています。

初期宇宙に非常に成長したクエーサーや、高密度のフィラメント構造が存在することを示した今回の観測結果は、初期宇宙の理解をさらに深めるとともに、現在広く共有されている宇宙論を書き換えることにつながるかもしれません。
今回見つかった10個のクエーサーからなる長さ約300万光年のフィラメント構造。画像右側の白丸で示された3つの天体のうち、ひときわ明るく見えるものが“J0305-3150”。(Credit:  NASA, ESA, CSA, Feige Wang (University of Arizona) & Joseph DePasquale (STScI))
今回見つかった10個のクエーサーからなる長さ約300万光年のフィラメント構造。画像右側の白丸で示された3つの天体のうち、ひときわ明るく見えるものが“J0305-3150”。(Credit: NASA, ESA, CSA, Feige Wang (University of Arizona) & Joseph DePasquale (STScI))

遠方の宇宙を観測

現在の宇宙には、銀河が数千億個も存在しています。

その銀河は、宇宙誕生後にどのようにして形成され、どれくらいの時間をかけて進化したのでしょうか?

中心部に強大なブラックホールを持ち活発な活動をする“クエーサー”は銀河の初期の形態とされていて、その性質を観測することは謎を解明するための大きな手掛かりになります。
クエーサーは、銀河中心にある超大質量ブラックホールに物質が落ち込む過程で生み出される莫大なエネルギーによって輝く天体。遠方にあるにもかかわらず明るく見えている。
でも、これまでは宇宙の膨張にともなって光の波長が引き伸ばされる“赤方偏移”という現象が、観測の妨げになっていました。

初期の宇宙、つまり遠方の宇宙を観測すると、クエーサーの光の波長は赤外線にまで引き伸ばされてしまいます。

赤外線は地上と宇宙の両方で観測が難しい波長なので、これまで初期宇宙に存在する天体の観測データは非常に限られたものでした。
膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになる。110億光年より遠方にあるとされる銀河は、赤方偏移の度合いを用いて算出されている。

初期宇宙で見つかった高密度なクエーサー集団

赤外線の観測に特化したジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の観測プログラム“ASPIRE”は、今回初期分析結果を公表しました。

直訳すれば“再電離時代の偏ったハローの分光分析(A SPectroscopic survey of biased halos In the Reionization Era)”を意味するこの観測プログラムは、初期宇宙の再電離時代におけるクエーサーの分布や性質の観測を目的にしています。

ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡は、一度に複数のクエーサーについてスペクトル(光の波長ごとの強度分布)のデータを得ることができるので、このような研究を可能にしています。

今回の初期分析では、宇宙誕生から10億年以内の宇宙に存在する合計25個のクエーサーのスペクトルデータが得られています。

アリゾナ大学のFeige Wangさんをたちの研究チームは、“J0305-3150(J030516.92-315056.00)”というクエーサーの周辺部に、同じようなスペクトルデータを示すクエーサーを複数発見。
分析の結果、全部で10個のクエーサーが、長さ300万光年のフィラメント状に集まっていることを確認しました。

これは、初期宇宙で見つかった最も高密度なクエーサー集団の1つ。
将来的には、かみのけ座銀河団のような銀河団に成長する可能性が高いと推定されています。

今回の研究結果は、宇宙誕生から8億3000万年後(今から129億6000万年前)の時点で、このような高密度なクエーサーの集団が存在していたことを示しています。

一方で、アリゾナ大学のJinyi Yangさんたちの研究チームでも、“J0305-3150”を含む8個の銀河を分析しています。

この分析で得られたのは、クエーサーの中心部に太陽の6億倍から20億倍もの質量の超大質量ブラックホールが存在する観測的証拠。
この結果は、クエーサーの中心部に非常に巨大(進化した)なブラックホールが存在するという1つの証拠になります。

こられの分析結果は、誕生から10億年以内の初期宇宙に、大きく成長したクエーサーや、クエーサーで形成された非常に高密度なフィラメント構造が存在することを意味しています。

ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の観測によって、初期宇宙の進化が非常に速かったことを示す証拠が続々と見つかっています。

でも、現在最も支持されている宇宙論では、宇宙が誕生した初期の段階では、薄いガスしか存在していなかったと考えられているんですねー
そのガスが重力によって高密度に集まって恒星や銀河が形成されるまでには、数億年の時間がかかったはずです。

そう、「進化が非常に速かったことを示す観測結果とは矛盾が生じる」っという問題が浮上することに…

ひょっとすると今回の観測結果は、宇宙論の書き換えにつながる重要な証拠の1つになるのかもしれません。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の観測は始まったばかりなので、今後行われる観測にも注目ですね。
ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、NASAが中心になって開発した口径6.5メートルの赤外線観測用宇宙望遠鏡。ハッブル宇宙望遠鏡の後継機として、2021年12月25日に打ち上げられ、地球から見て太陽とは反対側150万キロの位置にある太陽―地球間のラグランジュ点の1つの投入され、ヨーロッパ宇宙機関と共同で運用されている。名称はNASAの第2代長官ジェームズ・E・ウェッブにちなんで命名された。


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表面の組成が異なる“2つの顔”を持つ白色矮星を発見 磁場の影響かも

2023年09月24日 | 宇宙 space
カリフォルニア工科大学(Caltech)の博士研究員Ilaria Caiazzoさんを中心とする研究チームは、表面の片側は水素、もう片側がヘリウムでできている白色矮星を発見したとする研究成果を発表しました。

研究チームによると、この発見は一部の白色矮星が辿る進化の途中段階をとらえた可能性があるようですよ。
白色矮星“ZTF J203349.8+322901.1”のイメージ図。表面の片側は水素、もう片側はヘリウムでできていると考えられている。(Credit: K. Miller, Caltech/IPAC)
白色矮星“ZTF J203349.8+322901.1”のイメージ図。表面の片側は水素、もう片側はヘリウムでできていると考えられている。(Credit: K. Miller, Caltech/IPAC)

白色矮星の表面は片側が水素でもう片側がヘリウムでできている

今回の研究で報告されたのは、はくちょう座の方向約1300光年彼方に位置する白色矮星“ZTF J203349.8+322901.1”です。
最初の3文字はパロマ天文台の掃天観測システム“Zwichy Transient Facility(ZTF、ツビッキー・トランシェント天体探査装置)”で発見されたことを示しています。

研究チームを驚かせたのは、ケック天文台のケック望遠鏡を使って実施された分光観測(※)の結果でした。
※ 分光観測を行うことでスペクトルを得ることができる。スペクトルは、光の波長ごとの強度分布。スペクトルに現れる吸収線や輝線を合わせた呼称がスペクトル線。個々の元素は決まった波長の光を吸収したり放出したりする性質がある。その波長での光を吸収し強度が弱まると吸収線、光を放出し強まると輝線としてスペクトルに現れる。光の波長ごとの強度分布スペクトルに現れる吸収線や輝線を調べることで、元素の種類を直接特定することができる。
この観測データが示していたのは、約15分周期で自転している“ZTF J203349.8+322901.1”の片側が地球に向いているときには、水素が検出されて(ヘリウムの兆候はなし)、その反対側が地球に向いているときには、ヘリウムだけが検出されたことでした。

つまり、この白色矮星の表面は片側が水素、もう片側がヘリウムでできていることになります。
白色矮星“ZTF J203349.8+322901.1”のイメージ図(アニメーション画像)。表面の片側は水素、もう片側はヘリウムでできていると考えられている。(Credit: K. Miller, Caltech/IPAC)
白色矮星“ZTF J203349.8+322901.1”のイメージ図(アニメーション画像)。表面の片側は水素、もう片側はヘリウムでできていると考えられている。(Credit: K. Miller, Caltech/IPAC)

磁場が物質の混合を妨げている

白色矮星は、超新星爆発を起こさない比較的軽い恒星(質量は太陽の8倍以下)が、赤色巨星の段階を経て進化した姿だとされている天体です。

赤色巨星に進化した恒星は、周囲の宇宙空間に外層からガスを放出して質量を失っていき、その後に残るコア(中心核)が白色矮星になると考えられています。

一般的な白色矮星は直径こそ地球と同程度ですが、質量は太陽の4分の3程度もあるとされる高密度な天体。
誕生当初の白色矮星の表面温度は10万℃を上回ることもありますが、内部で核融合反応は起こらず余熱で輝くのみなので、太陽のように単独の恒星から進化した白色矮星は長い時間をかけて冷えていくことになります。

研究チームによると、形成されて間もない白色矮星では軽い元素が上へ、重い元素が下へと移動するので、大気の上層には水素が浮かび上がることに。
やがて、白色矮星の温度が下がると別れていた物質が混ざり合い、一部の白色矮星では水素に代わってヘリウムが多く現れるようになります。

今回、発見された“ZTF J203349.8+322901.1”は、表面が水素主体からヘリウム主体に移り変わっていく段階にある白色矮星なのかもしれません。

それでは、なぜ“ZTF J203349.8+322901.1”の表面はまるで“2つの顔”のように非対称なのでしょうか?

研究チームが考えているのは、謎のカギを握っているのは磁場ではないかということ。
天体周辺の磁場は非対称か、片側が強くなる傾向にあります。

磁場は物質が混合するのを妨げる働きをするので、白色矮星の片側の磁場が強ければ物質は混ざりにくくなり、結果として表面に水素が多く現れるというわけです。
白色矮星“ZTF J203349.8+322901.1”とその磁場を描いたイメージ図。表面に現れた二面性は磁場の影響ではないかと考えられている。(Credit: K. Miller, Caltech/IPAC)
白色矮星“ZTF J203349.8+322901.1”とその磁場を描いたイメージ図。表面に現れた二面性は磁場の影響ではないかと考えられている。(Credit: K. Miller, Caltech/IPAC)

また、別の可能性として、研究チームは白色矮星の大気の圧力と密度の変化も挙げています。

磁場によって大気中の気体圧力が低下する可能性があり、その結果として磁場の最も強い場所にまるで“海”のように水素が集中する可能性があると考えることもできます。

どちらが正しいにせよ、“ZTF J203349.8+322901.1”の二面性には磁場が関わっている可能性が高いようです。

“ZTF J203349.8+322901.1”の謎を解くためには、同様の白色矮星をさらに多く見つけ必要があります。

そこで、期待されるのが、現在南米チリで建設が進められている“ヴェラ・ルービン天文台”です。

この天文台の大型シノプティック・サーベイ望遠鏡“LSST”は、口径が8.4メートルもあり非常に広視野・高感度なので、観測が開始されるのが楽しみですね。


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磁気圏における電子の振る舞いを理解するために! 探査ミッション“ベピコロンボ”が1回目の水星スイングバイで降り込む電子を直接観測!

2023年09月23日 | 水星の探査
2021年10月1日のこと、JAXAがヨーロッパ宇宙機関と共同で推進する水星探査ミッション“ベピコロンボ”が、第一回水星スイングバイ観測を実施しました。

観測データは国際研究チームによって詳細に解析され、磁気圏中で加速された電子が惑星へ降り込む瞬間を初めてとらえていたことが分かっています。

太陽風の変化によって、様相が変化する磁気圏内では、様々な物理過程が生じていて、プラズマの加速や輸送が観測されます。

これらのプラズマの加速や輸送によって引き起こされる現象の代表例がオーロラです。

これまでの研究から、水星磁気圏は地球磁気圏と比べて、はるかに速く磁気圏が太陽風の変化に応答・変化することが分かっています。
でも、その中でプラズマ、特に電子の振る舞いは過去にほとんど観測例がなく、あまり理解が進んでいませんでした。

今回のスイングバイでは、これら電子を惑星近傍で直接観測することに成功。
さらに、磁気圏内で加速された電子が水星の表面に降り込み、地表面がX線で発光する現象“X線オーロラ”を引き起こすことが示唆されました。

この結果は、太陽系内における各惑星の磁気圏構造や環境の違いがあるにもかかわらず、オーロラを励起するプラズマの降り込みが普遍的に存在することを示しているようです。
この研究は、JAXA宇宙科学研究所をはじめ、フランス宇宙物理惑星科学研究所、プラズマ物理学研究所(フランス)、マックスプランク太陽系研究所(ドイツ)、スウェーデン宇宙物理学研究所、京都大学、大阪大学、金沢大学、東海大学からなる国際研究チームが進めています。
(Credit: 相澤紗絵)
(Credit: 相澤紗絵)

岩石惑星で弱いながらも固有磁場を持つ惑星

太陽系内の惑星は、太陽から吹き付ける太陽風と呼ばれる高速のプラズマ流にさらされています。

惑星が地球のように全球的な固有磁場を持つか否か、また厚い大気を有するか否かは、太陽風と惑星環境間の相互作用を決定づける大事な指標になります。

水星は地球のように岩石惑星で、弱いながらも固有磁場を持つ惑星として知られています。
また、太陽風と相互作用することで形成される水星磁気圏は地球磁気圏と似た振る舞いをしていることが、過去の研究から示唆されてきました。

一方、水星の固有磁場は地球と比べて100分の1程度と弱いので、磁気圏のサイズが小さく、水星近傍での物理現象は地球のものと比べて速く、また小さいスケールで起こると考えられています。

そのような中で、どのようにプラズマが加速され輸送されるかの詳細は、これまで分かっていませんでした。

水星磁気圏は、太陽系で唯一地球磁気圏と直接比較できる絶好の環境を持っています。
なので、私たちが良く知る地球近傍でのプラズマの加速および輸送が、水星でどのように変化するのか? 一方で共通点は何か?
これらを理解するために、水星は非常に重要な惑星といえるんですねー

水星磁気圏における電子の振る舞い

太陽風と磁気圏の相互作用、そして太陽風の変動に伴う磁気圏環境の変化は、地球において長い間様々な手法を用いて研究されてきました。

特に、地球の夜側磁気圏尾部における磁力線の繋ぎ替わり現象“磁気リコネクション”や、それらによって加速・輸送されるプラズマの振る舞いは大きな研究テーマになっています。

地球では、これらのプラズマが降り込んだ際には、大気と衝突してオーロラを励起することが良く知られています。

一方で水星磁気圏は、過去に水星を訪れた“マリナー10号”や周回観測を行った“メッセンジャー”のミッションによって、磁場の中心が惑星中心から北にズレているものの、その構造は地球磁気圏と非常に似通っていること、また磁気圏尾部では地球と同様に磁気リコネクションやタイポラリゼーション(磁気圏磁力線形状の急激な変化)などが起き、プラズマが加速されていることが明らかになっています。

水星磁気圏は地球と比べて小さく、太陽風の変化に敏感に応答することが分かっています。
でも、このような環境下で、どのようにどれだけ加速が起き、どれほどプラズマが磁気圏内で輸送されるのかは分かっていませんでした。

特に、加速されて惑星に向かって降り込むプラズマは、地球においては大気と衝突してオーロラを引き起こします。

一方、水星はごく薄い大気しか持たないので、プラズマが惑星に降り込む場合、大気と衝突することなく地表まで到達し、水星表面の物質と衝突して蛍光X線を出すことが予測されています。

この水星における発光現象は、しばしばX線オーロラと呼ばれています。

過去の観測からX線オーロラを励起する電子の降り込みの存在が、間接的には議論されてきました。
でも、“マリナー10号”および“メッセンジャー”では直接的な観測ができていないので、どのように加速された電子がどのように輸送されその場に降り込むのか、そしてどれくらいのエネルギーで降り込むのかは分かっていませんでした。

2つの周回探査機を同時に送り込む画期的なミッション

国際水星探査計画“ベピコロンボ”は、JAXAとヨーロッパ宇宙機関のそれぞれの周回探査機で、水星の総合的な観測を行う日欧協力の大型ミッションです。

2018年10月にフランス領ギアナより打ち上げられ、2025年12月の水星周回軌道投入に向けて、現在惑星間空間を減速するように航行しています。

これは、地球よりも内側の惑星に行くには、加速ではなく減速が必要なため。
水星の周回軌道に入るのに必要なエネルギーを、もし地球の外側にに向けて使ったとすると、太陽の重力圏を脱出できてしまうぐらいになってしまいます。

そう、距離としては近い地球と水星ですが、到達するためのエネルギー的には遠い存在になります。

このため用いられるのが、燃料消費の無いスイングバイという飛行方式です。
探査機が、惑星の近傍を通過するとき、その惑星の重力や公転運動量などを利用して、速度や方向を変える飛行方式。燃料を消費せずに軌道変更と加速や減速が行える。積極的に軌道や速度を変更する場合をスイングバイ、観測に重点が置かれる場合をフライバイと言い、使い分けている。
水星までの航行には、探査機の軌道を変える惑星スイングバイが全9回予定されていて(地球1回、金星2回、水星6回)、2021年10月1日に“ベピコロンボ”は1回目の水星スイングバイを実施し、その最中に搭載装置による科学観測を実施しました。

探査は、日本の水星磁気圏探査機“みお(MMO : Mercury Magnetospheric Orbiter)”とヨーロッパ宇宙機関の水星表面探査機“MPO(Mercury Planetary Orbiter)”の2機で行われる予定。
史上初めて地球以外の惑星に2つの周回探査機を同時に送り込むという画期的なミッションになります。

水星では史上初めて行われた電子とイオンの同時観測

この2機の探査機は、水星周回軌道投入までの飛行を担当するヨーロッパ宇宙機関の電気推進モジュール“MTM(Mercury Transfer Module)”に積み重なった状態になっています。

ただ、“みお”は太陽光シールドによって覆われてしまうので、視野が限られるなど科学観測には大きな制約を受けてしまうことに…

でも、惑星スイングバイ中には搭載装置の多くを立ち上げて観測を試みるんですねー
第1回水星スイングバイでは、最接近高度200キロの距離まで探査機が水星に近づき、磁気圏のプラズマ観測に成功しています。

これまでの“マリナー10号”や“メッセンジャー”では、その軌道制約から水星磁気圏の南半球を低高度から観測できませんでした。
なので、今回の“ベピコロンボ”による観測が史上初めての試みになっています。

観測で用いられたのは、“みお”に搭載された電子観測器“MEA”、イオン観測器“MIA”、中性大気観測器“ENA”。
これらの装置により、水星では史上初めて電子とイオンの同時観測が行われました。

データ解析の補助として磁気圏モデル(KT17)が用いられ、加速された電子が南半球磁気圏の朝側で惑星表面へと降り込む様子が直接観測されました。

過去に観測されていたものとは異なる現象

水星スイングバイ中、“ベピコロンボ”は水星の夜側北半球から接近し、南半球朝方付近で水星に最接近したのちに南半球昼側磁気圏を観測して、太陽風へと抜けていく軌道をとっています(図1は、軌道と“みお”によるプラズマ観測結果になる)。
図1.“ベピコロンボ”の軌道(北から見下ろした図)及び“MPPE”センサーによる観測結果。マグネトポーズ(MP:ピンクのマークおよび線)およびバウショック(BS:青のマークおよび線)通過が同定されている。(Credit: Aizawa et al., 2023)
図1.“ベピコロンボ”の軌道(北から見下ろした図)及び“MPPE”センサーによる観測結果。マグネトポーズ(MP:ピンクのマークおよび線)およびバウショック(BS:青のマークおよび線)通過が同定されている。(Credit: Aizawa et al., 2023)
このスイングバイでは、様々な運用上の制約によりデータに時間的な空白が生じているものの、“みお”は磁気圏の構造を示す境界(磁気圏界面およびバウショック)をとらえることに成功。
スイングバイ当時の水星磁気圏は、平均よりも圧縮されてコンパクトな状態であったことが確認されました。

この圧縮された磁気圏内において観測されたのが、様々な物理過程です。
特に、最接近後に朝側の磁気圏で、高エネルギー電子(1~10keV;キロ電子ボルト)のフラックスの増強が準周期的(30~40秒程度の周期)に観測されています。(図2)

これらは“マリナー10号”および“メッセンジャー”によって測定された、高エネルギー(10~100keV)の電子バーストと呼ばれる現象に類似していました。

でも、詳細な解析によって1~10keVの電子フラックス増強の周期が過去報告されたものと一致しないこと、また電子フラックスの増強が高エネルギーから始まり低エネルギーに移行する挙動(図2(B)、(D)中の黒い線)を示していることが分かりました。

これらの結果から示されたのは、この観測がとらえたのが過去に観測されていたものとは異なる現象であること。
また、磁気圏モデルを用いて電子がどこから輸送されてきたかを調べることにより、今回の電子の挙動は特に、朝方の磁気圏尾部で起こるプラズマ過程(磁気リコネクションやタイポラリゼーションなど)に起因する電子の加速・輸送によって引き起こされたものである可能性が高いことを発見しています。
図2.水星磁気圏朝側で観測された電子のフラックス増強(#1-#6)と、それに伴って観測された高エネルギーから低エネルギーへ移行する電子の振る舞いの様子。(A)、(C)はそれぞれMEA1、MEA2の観測結果であり、(B)、(D)はその期間全体の平均で各観測を規格化したもの。平均との比較によってフラックスが高エネルギーから低エネルギーへと移行していることが分かる(黒線によって表示)。(E)及び(F)は、それぞれMEA1,MEA2のカウントであり、フラックスが増強しているところでカウントが増えていることが明らかに示されている。(Credit: Aizawa et al., 2023)
図2.水星磁気圏朝側で観測された電子のフラックス増強(#1-#6)と、それに伴って観測された高エネルギーから低エネルギーへ移行する電子の振る舞いの様子。(A)、(C)はそれぞれMEA1、MEA2の観測結果であり、(B)、(D)はその期間全体の平均で各観測を規格化したもの。平均との比較によってフラックスが高エネルギーから低エネルギーへと移行していることが分かる(黒線によって表示)。(E)及び(F)は、それぞれMEA1,MEA2のカウントであり、フラックスが増強しているところでカウントが増えていることが明らかに示されている。(Credit: Aizawa et al., 2023)

オーロラ生成過程として普遍的なメカニズム

今回のスイングバイでは、水星における磁気圏尾部のプラズマ過程に起因しうる、高エネルギー電子(1~10keV)フラックスの増強が確認されました。
この場所は、“メッセンジャー”によって観測された水星表面からのX線オーロラの発生位置と一致しています。

準周期的に変化するフラックスの増強とエネルギー依存を持った電子の特徴は、電子観測機“MEA”が磁気圏尾部で起こる磁気リコネクションやタイポラリゼーションによる加速・輸送を経て、最終的には惑星表面に降下する電子を観測したことを示唆しています。

地球では、磁気圏尾部におけるプラズマの加速・輸送は、地球大気への降り込みを起こしオーロラを生成します。

“ベピコロンボ”の観測結果は、地球と比べて小さい水星磁気圏においても、地球と非常に良く似た機構で電子が加速・輸送され、惑星に降り込むこと、そして地表からX線オーロラを生成しうることを示していました。

この研究によって分かったのは、水星の小さな磁気圏において電子は惑星に近い位置の磁気圏朝方側尾部で加速され、それらが惑星近傍まで輸送されること。
さらに、太陽系内の磁化惑星(海王星を除く)は各固有地場の強度や大気の有無、放射線帯の有無などに違いはあれど、どの惑星においても加速された電子は惑星近傍まで輸送され、降り込むことが可能であり、これらがオーロラ生成過程として普遍的なメカニズムであることを証明しました。

水星磁気圏における電子の振る舞いの解明は、該当する観測機器を初めて搭載する“みお”が担う重要な科学課題の一つになります。

長らく水星環境において議論されてきた物理過程について、大きな制約があるスイングバイ中の観測にもかかわらず一つの結果を出せたことは、水星周回軌道投入後の本格観測への期待を大きくするものになりました。

今後のスインバイから水星周回軌道への投入へ

今回の研究で取り上げた水星スイングバイを終えた“ベピコロンボ”は、2022年6月と2023年6月にすでに2回目と3回目の水星スイングバイを実施しています。

各スイングバイ時には、様々な科学観測が実施され、チームによって鋭意解析が進められています。
これまでになかった科学観測機器パッケージとスイングバイ軌道を併せて、これまでの“マリナー10号”や“メッセンジャー”では得られなかった新しい成果が生まれつつあるんですねー

2025年12月に予定される水星周回軌道投入後には、2機の探査機でそれぞ観測を行いますが、例えば“みお”が太陽風を観測する間“MPO”が水星環境を観測するといった、2機協働観測計画も綿密に検討されています。

加えて、ヨーロッパ宇宙機関の太陽探査機“ソーラーオービター”やNASAの太陽探査機“パーカー・ソーラー・プローブ”といった内部太陽圏を探査する探査機との協働観測も多く議論されていて、広く太陽圏と惑星圏・惑星磁気圏観測をつなぐ太陽圏システム探査の推進が期待されています。


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金属の雲が大気中に漂いチタンの雨が降っている? これまで発見された中で最も高い反射率を持つ系外惑星“LTT 9779 b”

2023年09月22日 | 系外惑星
2020年に発見された太陽系外惑星“LTT 9779 b”が金属の雲で覆われていて、これまで発見された中で最も高い反射率を持つ系外惑星だということが明らかになりました。

このことは、ヨーロッパ宇宙機関の系外惑星観測衛星“ケオプス”による観測から分かったこと。
“LTT 9779 b”は主星からの光の80%を反射しているようです。
系外惑星“LTT 9779 b”と主星のイメージ図。(Credit: Ricardo Ramírez Reyes (Universidad de Chile))
系外惑星“LTT 9779 b”と主星のイメージ図。(Credit: Ricardo Ramírez Reyes (Universidad de Chile))

すでに発見されている系外惑星の観測

系外惑星観測衛星“ケオプス(CHEOPS:CHaracterizing ExOPlanets Satellite)”は系外惑星を観測するための衛星なんですが、その主目的は新たな系外惑星の発見ではなく、すでに発見されている系外惑星のフォローアップです。

NASAの系外惑星探査衛星“ケプラー(Kepler)”やトランジット惑星探査衛星“TESS(Transiting Exoplanet Survey Satellite)”などの探査衛星とは違い、主目的は発見済みの系外惑星を詳細に観測することになります。

地球から見て系外惑星が主星の手前を通過(トランジット)するときに見られる、わずかな減光から惑星の存在を探る“トランジット法”という手法により、“ケオプス”は高精度で惑星のサイズを測定します。

“トランジット法”による測定結果と、すでに別の手法によって得られている惑星の質量の情報とを組み合わせると、惑星の密度が分かってきます。
そこから系外惑星の内部構造や組成、ガス惑星か岩石惑星か、大気や海に覆われているかなどが判断できるんですねー
さらに、雲の存在やその組成なども明らかにできるかもしれません。

“ケオプス”の高い精度で、すでに発見されている惑星が恒星の手前を通過するタイミングのわずかな変動を測定することにより、まだ見つかっていない惑星を発見する可能性もあります。

また、一部の惑星については衛星や環の探査にも利用できるそうです。
観測中の系外惑星観測衛星“ケオプス”のイメージ図。(Credit: ESA / ATG medialab)
観測中の系外惑星観測衛星“ケオプス”のイメージ図。(Credit: ESA / ATG medialab)

金属の雲が大気中に漂い、チタンの雨が降っている惑星

鏡のように光を反射する“LTT 9779 b”のサイズは海王星ほど。

惑星全体を覆う雲は、主に砂やガラスと同じケイ酸塩でできていて、チタンなどの金属が混ざっています。

“LTT 9779 b”では、金属の雲が大気中に漂い、チタンの雨が降っていると見られています。

系外惑星のほとんどは、大気が光を吸収したり、表面が暗かったりするので反射率(アルベド)が低くなります。

反射率が高くなるのは、氷で覆われた天体や、金星のように反射する雲に覆われた天体なんですねー

“LTT 9779 b”は、主星の周りをわずか19時間で1周していて、昼側の表面温度は最高で約2000℃にも達すると推定されています。

金属やケイ酸塩の雲を形成するには大気が高温すぎるように思われますが、“LTT 9779 b”の大気では、ケイ酸塩と金属の蒸気が過飽和の状態なので、非常に高温にもかかわらず金属の雲が形成される可能性があるそうです。

主星の近くを公転しているのに大気が存在する理由

“LTT 9779 b”の半径は地球の4.7倍(海王星の1.2倍)ほどです。

そのサイズと温度から、“LTT 9779 b”は“ウルトラホットネプチューン”と呼ばれています。

これまで主星を1日未満で周回する惑星は、すべて“ホットジュピター”か地球の2倍より小さな半径の岩石惑星のいずれかでした。

ただ、“LTT 9779 b”のような惑星は、恒星によって大気が吹き飛ばされて岩石部分のみ残ると予想されています。

それでは、なぜ“LTT 9779 b”の大気は吹き飛ばされずに存在するのでしょうか?

この論文の筆頭著者であるマルセイユ天体物理学研究所のSergio Hoyerさんによれば、“LTT 9779 b”が海王星のような惑星でいられるのは、雲が光を反射することで惑星が高温になりすぎて蒸発するのを防ぐ一方で、金属によって大気が重くなり吹き飛ばされにくくなっているとのことです。

主星の背後に“LTT 9779 b”が隠れる様子を観測

“LTT 9779 b”は、“TESS”や地上望遠鏡による追観測により2020年に発見された系外惑星で、今回“ケオプス”によりフォローアップ観測が行われました。

“ケオプス”は、系外惑星が主星の手前を通過(トランジット)することだけでなく、“LTT 9779 b”が主星の背後に隠れる様子も観測していました。

それは、惑星がどれほどの光を反射しているかを知るため。
惑星が見えている間は、主星と惑星を合わせた明るさがとらえられますよね。
一方、惑星が主星の背後に隠れると、主星だけの明るさになるからです。

その明るさの差から、惑星の光の反射率を知ることができ、“LTT 9779 b”が主星からの光の80%を反射していることが分かったわけです。
これまで発見された中で最も高い反射率を持つ系外惑星“LTT 9779 b”(Credit: Ricardo Ramírez Reyes (Universidad de Chile))

数千個の系外惑星が見つかっている現在、その研究は系外惑星の発見から、惑星のサイズや性質を調べるといった特徴付に変わりつつあります。
惑星がどんな物質からどのように形成されたのかを知ろうとしているんですねー

そのおかげで、“LTT 9779 b”が高い反射率を持ち、公転周期が短いにもかかわらず大気を持っていることが分かりました。

“ケオプス”の観測によって系外惑星の研究がさらに進むと、いろんな系外惑星の発見が期待できますね。


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初期の宇宙に予想よりも早く進化した銀河や銀河団は存在していなかった? 1つの銀河に匹敵する明るさを持つ天体“暗黒星”が謎を解決する

2023年09月21日 | 宇宙のはじまり?
天文学の進歩によって、誕生から間もない頃の宇宙を観測できるようになると、これまでの宇宙論との間には様々な矛盾があることが分かってきました。

その1つは、観測されている初期の銀河が、理論上の予想に反して進化し過ぎているという問題です。

今回、発表された研究成果は、“ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡”で観測した初期の銀河の一部は“暗黒星(Dark Star)”と呼ばれる巨大な天体ではないかとするもの。
このことが正しい場合、“進化し過ぎた初期銀河”という存在そのものが幻だったことになり、矛盾が解消される可能性があるようです。
この研究は、コルゲート大学のCosmin IlieさんとJillian Paulinさん、テキサス大学オースティン校のKatherine Freeseさんたちのチームが進めています。

予想以上に進化した初期宇宙の銀河や銀河団

現在最も支持されている宇宙論では、宇宙が誕生した初期の段階では、薄いガスしか存在していなかったと考えられています。

そのガスが重力によって高密度に集まって恒星や銀河が形成されるまでには、数億年の時間がかかったはずです。

でも、実際に初期宇宙を観測してみると、宇宙論の予測よりも早く進化した銀河や銀河団が発見されているんですねー

最近のジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による観測では、宇宙誕生から3億年後の時点で、すでにかなり進化していた銀河が見つかっています。

さらに、観測を進めれば、より遡った時代にも進化した銀河が見つかる可能性もあると考えられています。

ただ、現代の宇宙論は、宇宙誕生からこれほど短い時間で、このように進化した銀河や銀河団が形成・成長する理由を説明できず…
大きな謎になっています。

1つの銀河に匹敵する明るさを持つ天体

この謎を解明するために、今回の研究ではジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で観測された初期の銀河のいくつかが、実際には“暗黒星”という天体ではないかと推定しています。
図1.暗黒星のイメージ図。暗黒星本体の大部分は非常に巨大な水素とヘリウムの雲でできていて、恒星のような一塊の天体のように見えない。(Credit: University of Utah)
図1.暗黒星のイメージ図。暗黒星本体の大部分は非常に巨大な水素とヘリウムの雲でできていて、恒星のような一塊の天体のように見えない。(Credit: University of Utah)
暗黒星は、研究チームが2007年に提唱した仮説上の天体。
“暗黒”と言っても真っ暗な星というわけではなく、非常に明るく輝くそうです。

驚くべきことは、暗黒星は直径が約30億キロ(※1)にも達し、大きなものでは太陽の100万倍以上の質量と100億倍以上の明るさを持つと推定されていること。
これは、1個の暗黒星だけで、1つの銀河に匹敵する明るさになり得ます。
※1.約30億キロは約20天文単位に相当する。これは太陽の直径の2000倍、地球の公転軌道の10倍であり、土星の公転軌道とほぼ同じになる。
研究チームでは、大きな暗黒星であればジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で十分に観測可能だと考えています。

暗黒星の大部分は、薄い水素とヘリウムの雲でできていますが、0.1%の暗黒物質(ダークマター)(※2)を含んでいます。
※2.“ダークマター”は暗黒物質とも呼ばれ、銀河の性質を説明するために考案された仮設上の物質。宇宙の全質量・エネルギーの約27%を占めていると考えられている。ただ、ダークマターは質量を持っているものの、光をはじめとする電磁波と相互作用しないので、直接観測することはできない。銀河を構成する星がバラバラにならず形をとどめている原因を、光を放射しない物質の重力効果に求めたのが“ダークマター説”の始まりになっている。
暗黒星は暗黒物質の崩壊(※3)による熱で輝くと同時に、水素の核融合反応が起こる小さな塊、すなわち恒星になることが防がれていると考えられています。
※3.研究チームは、暗黒星に含まれる暗黒物質は、マヨラナ粒子であるニュートラリーノ(自身が反粒子な性質を持つ、ニュートリノとペアな存在である非常に重たい仮説上の粒子)だと仮定し、ニュートラリーノ同士の対消滅によって熱が発生するとしている。
このため、暗黒星は放射量こそ非常に大きいものの、表面温度は約1万℃と、その巨大なサイズにしては低い温度に留まると推定されています。

初期宇宙の銀河候補天体から暗黒星を探す

研究チームは、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で観測された初期の宇宙に存在すると見られる数百の銀河候補天体の中に、暗黒星が含まれているのではないかと予想。
特に詳細な観測データが揃っている4つの天体“JADES-GS-z13-0”、“JADES-GS-z12-0”、“JADES-GS-z11-0”、“JADES-GS-z10-0”について分析を実施しています。

これらの天体は、宇宙誕生から3億2000万年~4億年の時代に存在していたと推定されています。
図2.ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した初期の銀河とされる天体。上から“JADES-GS-z11-0”、“JADES-GS-z12-0”、“JADES-GS-z13-0”。今回の研究が正しい場合、これは銀河ではなく暗黒星の画像になる。(Credit: NASA & ESA)
図2.ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した初期の銀河とされる天体。上から“JADES-GS-z11-0”、“JADES-GS-z12-0”、“JADES-GS-z13-0”。今回の研究が正しい場合、これは銀河ではなく暗黒星の画像になる。(Credit: NASA & ESA)
分析の結果、4つのうち“JADES-GS-z13-0”、“JADES-GS-z12-0”、“JADES-GS-z11-0”の3つについては、暗黒星と考えても矛盾しないことが分かります。

例えば、暗黒星からの放射で予測されるスペクトルデータは、今回分析された3つの銀河のスペクトルデータとよく一致していました。
また、“JADES-GS-z12-0”の分析結果は、表面温度が約1万7000℃の暗黒星で予想される観測データと一致します。

さらに、今回の研究で明らかになったのは、3つの天体が点状に見える、つまり銀河と比べて非常に小さな天体から光が放射されていると考えても矛盾しないことです。

地球から観測した初期の銀河は、ある程度の広がりを持つ天体として見えるはずですが、暗黒星であれば点にしか見えないはずです。
それは、暗黒星は普通の恒星と比べれば巨大とはいえ、銀河に比べればはるかに小さな天体だからです。

以上の結果を根拠に研究チームでは、“JADES-GS-z13-0”、“JADES-GS-z12-0”、“JADES-GS-z11-0”の観測データは、3つの天体が銀河ではなく暗黒星だと考えても矛盾しないことを示していると考えています。

このことが正しい場合、3つの暗黒星は太陽の50万倍から100万倍の質量を持ち、太陽の数十億倍もの明るさで輝いていると推定されます。

いまのところ、暗黒星を構成する物質の一部であり、活動のエネルギー源でもある暗黒物質は未発見です。
暗黒物質が暗黒星を形成できるような性質を持っているかどうかも判明してません。
なので、暗黒星が実在するかどうかは、はっきりと分かっているわけではないんですねー

でも、研究チームでは、今回見つかった暗黒星の候補が本当に暗黒星なのか、それとも初期の銀河なのかを観測で判別することができると考えています。

暗黒星には、初期の銀河では見られない特徴が、スペクトル線として現れると考えられます。
なので分光観測を行うことで、もしもそのような観測データが得られれば、暗黒星が実在する可能性は高まります。
スペクトルは、光の波長ごとの強度分布。スペクトルに現れる吸収線や輝線を合わせた呼称がスペクトル線。個々の元素は決まった波長の光を吸収したり放出したりする性質がある。その波長での光を吸収し強度が弱まると吸収線、光を放出し強まると輝線としてスペクトルに現れる。光の波長ごとの強度分布スペクトルに現れる吸収線や輝線を調べることで、元素の種類を直接特定することができる。
誕生したばかりの宇宙に、なぜ進化した銀河が存在しているのでしょうか?

この理由は現代宇宙論の大きな謎になっています。

でも、仮に暗黒星が実在したとすれば、そのような銀河は存在しないことになり、大きな謎が解決されることになります。
さらに、謎に包まれている暗黒物質の正体に迫ることにもなるので、これからの研究が期待されますね。


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