東にはうす曇りの灰色の空が広がっている。太陽がお月様のようにかすんで見える。天気予報では昼からは晴れるとある。
しばらく山に登っていない。久しぶりだが、遅咲きのサクラを見ることができるかもしれないと、家の近くの海抜約150㍍の立田山に出かけることにした。緑の木々に囲まれ、青草の上でいただく弁当の味は格別だろう。まずは国道3号線ぞいの弁当屋で、弁当とお茶を仕入れる。
立田山には春、夏、秋、冬の4つの森と野鳥の森、雑草の森がある。いつも登るのは山の中腹にあるお祭り広場で食事をとり、秋の森を通って頂上に向かうのだが、今日は全く初めてのコースを取った。
細川ガラシャ夫人のお墓のある泰勝寺を通り過ぎ、森林総合研究所を抜けて、春の森、冬の森を経て頂上へと向かうコースだ。森林総合研究所に通じる道路の両脇には、まるでギリシャの神殿を思わせるかのように銀杏の木が整然と並んでいた。
構内のいたるところにたくさんの木が植っている。その木の1つ1つに名前が書いた札が下がっている。シャシャンボ、いすの木、ハンカチの木、あぶらちゃんなど、知ることとなかった珍しい木の名がたくさんある。樫の木もその種類の多いことを初めて知った。
大きな石楠花が真っ赤な花をつけている。提灯にも似た小さな白いドウダンの花も今が満開。育成林を囲むフェンスの際に、ここならではの数種類の満開に近いツツジがきれいに並んで咲いている。
森林総合研究所だが、そこは樹木や植物を学習するための学校だろう。あまりにも木の種類は多く、初めて知る木も多いことに驚き、老人夫婦はポカンと口を開けた。
期待していたしだれざくらには少し遅かったが、それ以上に薄緑いろの若葉が山全体を覆う森の景色は見事なものだ。立田山の入り口にある五高の森の若葉も負けてはいない。
この日、老人夫婦は心行くまで山行きを楽しんだ。また登りましょうね。と〝うちの奥さま”の明るい笑顔が返ってきた。