電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

山形弦楽四重奏団第23回定期演奏会を聴く

2007年04月19日 20時26分00秒 | -室内楽
昨晩、山形市の文翔館議場ホールで行われた、山弦こと山形弦楽四重奏団(*1)の第23回定期演奏会に行ってきました。これまで何度も機会を逃し、今度こそ!と出かけたものです。18時の開場後、18時15分からアンサンブル・ピノ(*2)のプレコンサートがあり、タネーエフの弦楽三重奏曲ニ長調、作品21の第3楽章と第4楽章を聴きました。アンサンブル・ピノは、山形交響楽団員の黒瀬美さん(Vn)、城香菜子さん(Vn)と田中知子さん(Vla)の3人が結成した珍しい編成の弦楽トリオです。5月20日(日)18時30分から、この曲を含む第1回定期演奏会を、同じ議場ホールで開催するということです。

本番の山弦第23回定期のほうは、中島光之さんのプレトークから。今日のプログラムは、

F.J.ハイドン 弦楽四重奏曲ニ短調、作品103「遺作」
佐藤敏直 弦楽四重奏曲のための「モルト・アダージョ」
L.V.ベートーヴェン 弦楽四重奏曲第8番ホ短調、作品59-2「ラズモフスキー第2番」

となっています。ハイドンのほうは、このカルテットが68曲全曲演奏を目指しているもので、毎回プログラムに取り上げています。佐藤敏直さん(1936~2002)は、山形県鶴岡市の生まれで、疎開時に鶴岡に過ごし、音楽三昧の生活を送ったもよう。鶴岡三中時代に出会った音楽の三井直先生の影響が大きく、慶応で電気工学を専攻しながら作曲を志したとのこと。日本音楽コンクール作曲部門審査員等を歴任した方だそうで、合唱曲などでお名前を拝見したことはあるような気がしますが、室内楽作品を聴くのはもちろん初めてです。今回は、夫人のご協力で楽譜を入手したとのこと、初演したイソ弦楽四重奏団もそうですが、作曲家の郷里で地道な活動を続けるカルテットが取り上げる、意義ある演奏会と思いました。

さて、ハイドン「遺作」は、駒込綾さんが第1ヴァイオリンをつとめ、第1楽章はゆったりしたアンダンテでいかにもハイドンらしい音楽、しかし第2楽章は悲しげな緊張感もある作品です。ハイドンの弦楽四重奏曲が大好きな私には貴重な実演に接する機会です。嬉しい。

続いて佐藤敏直さんの作品。中島光之さんが第1ヴァイオリンをつとめます。倉田さんのヴィオラが静かに始まり、茂木さんのチェロがバゥンと入ります。民謡の歌いだしのようです。ヴァイオリンが入ってくると、厳しい不協和音やチェロの激しい力強い音なども展開され、訴える力の強い音楽です。内面の激しさが感じられます。
解説によれば、「ニューヨークでピカソの『ゲルニカ』を見たときの驚きが丸木夫妻の原爆の図と重なって、一つのレクイエムとして発想された」曲とのこと。統一地方選挙で選挙カーが走る中、核兵器廃絶を訴えた市長が撃たれ亡くなるという事件に哀悼の意を捧げる音楽のようにさえ感じました。

実は、この演奏会には佐藤敏直さんの奥様が参加されており、演奏のあと中島さんが紹介すると、会場から大きな拍手がおくられました。この曲は、来月の藤島での演奏会でも取り上げる予定とのことです。



写真は休憩時の様子ですが、この後の3曲目はベートーヴェンの「ラズモフスキー第2番」です。
第1楽章、アレグロ。始まりの「ジャッ・ジャッ」というたたきつけるような和音が厳しい緊迫感を感じさせ、続く音楽も、なにか荒々しい印象です。
第2楽章、モルト・アダージョ。バッハのコラールのような息の長い旋律がたっぷりと奏されます。技術的なことはわかりませんが、たんに歌っているだけではなくて、何か作曲上の複雑なことをやっていそうな雰囲気です。
第3楽章、スケルツォ、アレグレット。中間部の主題にロシア民謡が取り上げられているのだそうです。依頼者のラズモフスキー伯へのサービスでしょうか。
第4楽章、プレスト。ギャロップのような速い快活な音楽。とにかくエネルギッシュで、スタミナを要求される音楽のようです。演奏の四人も真剣な表情で、第2ヴァイオリンとヴィオラのかけあいなど、第1ヴァイオリンやチェロなどの「歌う」パートだけでなく、アンサンブルの面白さを満喫できました。

アンコールは、再び駒込さんが第1ヴァイオリンに代わり、ハイドンの作品77の1の弦楽四重奏曲の第1楽章を。次回の予告にもなっているのかなと思ったら、番号が1つ違いました。

実はこの演奏会、聴衆のほうがなんとも国際的で、あちこちで英語がとびかうのが聞こえました。たいへん落ち着いた雰囲気で、年配者も多いのですが、見たところ若い人も少なくないようです。もっとも、若いといっても30代以上ですけれど。
実際、ホールの入口からお手洗いに通じる途中の部屋に託児所が設けられており演奏家の人たちだけでなく、、若いお母さんも室内楽を楽しめるようになっているようでした。このあたりも、スゴイなぁ、と思います。

その次回の予定は、

7月8日(日)、14時開演、文翔館議場ホール、全席自由、1000円。
【曲目】
スメタナ 弦楽四重奏曲第1番ホ短調「わが生涯より」
モーツァルト 弦楽四重奏曲第1番ト長調K.80(73f)「ローディー」
ハイドン 弦楽四重奏曲ト長調、作品76-1

となっているそうです。今から楽しみです。

(*1):山形弦楽四重奏団の公式ページ
(*2):アンサンブル・ピノの公式ページ
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