電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

宮城谷昌光『呉越春秋・湖底の城(九)』を読む

2019年03月29日 06時01分57秒 | -宮城谷昌光
講談社刊の単行本で、宮城谷昌光著『呉越春秋・湖底の城(九)』を読みました。2018年9月刊ですから、ほぼ半年遅れ、前巻を読んでからはほぼ一年ぶりです。

呉に捕らえられて忍従生活を送る越王勾践が解放される日を望みながら、范蠡と諸稽郢の二人は呉王への贈り物を満載した船を届けますが、楚王が急死し安心した呉王・夫差は越王・勾践を返し、代わりに范蠡と諸稽郢を人質とします。呉での生活の中で色々なことが判明しますが、范蠡は伍子胥と呉王夫差との間に間隙が生じており、これが呉の弱点となることを見抜いています。

このような范蠡の才能を邪魔で危険と感じた呉の大宰・伯嚭は、范蠡をひそかに暗殺することを命じます。策略はなんとか回避しますが、人質生活に終止符を打つことができたのは、牙門と名を変えた阮春が後宮に手を回し、呉の正夫人が王を動かしたのでした。范蠡と諸稽郢が帰国を許されると同時に、西施もまた側室の立場を離れて帰国することになります。越の敗戦時に身を挺して正夫人を守ったとはいえ、西施の帰還はなかなか微妙な事態となりますので、越王勾践も頭が痛いことでしょう。しかし、囚われの時間は勾践にとり有意義な時間となったようで、困難を処理し、国民を十年間無税とし、自らは質素倹約につとめて国力の回復と増強を図ります。そのポイントは人口の増加、今風にいえば「子育て優遇政策」でしょう。

越王の政策と実践を知った呉の伍子胥は、その意味するところを呉王夫差に伝えようとしますが、感度の悪い側近に阻まれ、警告は王に届きません。それどころか、夫差は伍子胥を疎んじ、ついに自害せよと剣を与える始末です。



以下、あらすじは省略しますが、なるほど、このあたりが『楽毅』において伍子胥の運命を嘆き、生き方としては「范蠡がよい」と言わせた所以なのでしょう。物語は呉越の決戦と越の勝利へ、そして范蠡がすっと身を引き、商賈の道に入るという鮮やかさを描いて、後味の良い終わり方となります。

コメント