文春文庫で、藤沢周平著『海鳴り』の下巻を読みました。重苦しい上巻の伏線が一気に展開されていく物語は、当初のイメージの「不倫もの」というよりもむしろ江戸のラブ・サスペンスというほうが正解かと思います。
紙問屋の組仲間で、仲買人や紙漉人たちの意向に反し、大手の問屋だけが利益を得るような決議が強行されますが、小野屋を潰そうと仕掛けられてきた一連の動きに、なんとか五分五分まで持ちこたえている頃、小野屋新兵衛は丸子屋のおこうと密会を重ねます。丸子屋の中ではおこうは不遇な立場ですが、新兵衛の家でも不協和音が絶えません。ただ、放蕩息子と思われた幸助の心中騒ぎで、相手の薄幸な娘おゆうの事情を知れば新兵衛も解決に力を尽くします。どうやらそれが息子の心を開いたようで、ショックで寝込んだ女房も、頼りになるのは夫新兵衛だと痛感したことでしょう。しかし、紙問屋仲間の寄り合いの後で、塙屋彦助が小野屋新兵衛と丸子屋おこうの密会をネタにゆすりをかけてきたとき、事態は破滅の方向へ転がりだします。こうなると、あとは二人が死ぬ結末しか見えませんが、どうやら作者は違う結末を考えていたようです。下巻の始まりの頃に、こんな記述がありました。
塙屋彦助は悪役ですが、いわば実行犯の役回り。裏にいる本当の悪役は、実は…。でも、新兵衛が窮地に立っているのは明らかで、二人はどうなるのか、思わずハラハラドキドキします。とりわけ、岡っ引きが訪ねてきてからの緊迫したやり取りは刑事コロンボを彷彿とさせますし、まさに江戸のサスペンス・ドラマです。おもしろいです。
ところで、小野屋新兵衛が一時おちいった中年の危機というものに、残念ながら当方は心当たりがありません。なにしろ我が家には、30代で失明し全盲となった妻を支えて生きた祖父と、原爆症で何度もがんを患いながら84歳まで生きた夫を支え続けた母がいましたから、妻をよそに他の女性と不倫をするという発想がそもそもありません。作者には苦笑されそうですが、小野屋新兵衛さんの本性は実はけっこう浮気で助平だったんじゃないかと疑っておりまする(^o^)/
紙問屋の組仲間で、仲買人や紙漉人たちの意向に反し、大手の問屋だけが利益を得るような決議が強行されますが、小野屋を潰そうと仕掛けられてきた一連の動きに、なんとか五分五分まで持ちこたえている頃、小野屋新兵衛は丸子屋のおこうと密会を重ねます。丸子屋の中ではおこうは不遇な立場ですが、新兵衛の家でも不協和音が絶えません。ただ、放蕩息子と思われた幸助の心中騒ぎで、相手の薄幸な娘おゆうの事情を知れば新兵衛も解決に力を尽くします。どうやらそれが息子の心を開いたようで、ショックで寝込んだ女房も、頼りになるのは夫新兵衛だと痛感したことでしょう。しかし、紙問屋仲間の寄り合いの後で、塙屋彦助が小野屋新兵衛と丸子屋おこうの密会をネタにゆすりをかけてきたとき、事態は破滅の方向へ転がりだします。こうなると、あとは二人が死ぬ結末しか見えませんが、どうやら作者は違う結末を考えていたようです。下巻の始まりの頃に、こんな記述がありました。
「新兵衛さん、これからどうなるのでしょうね」
どうなるのか、新兵衛にも定かにはわからなかった。だが新兵衛はいま、必ずしも暗い行先きだけを見ているのではなかった。
それとは逆に、おこうと結ばれる前には見えもしなかった、かすかな望みのようなものが行く手に現れたのを、新兵衛はじっと見つめている。見えているのは、いま二人がいる部屋を満たしている光のように、ぼんやりとして心細いものだったが、少なくとも暗黒ではなかった。やはり光だった。(p.29-30)
塙屋彦助は悪役ですが、いわば実行犯の役回り。裏にいる本当の悪役は、実は…。でも、新兵衛が窮地に立っているのは明らかで、二人はどうなるのか、思わずハラハラドキドキします。とりわけ、岡っ引きが訪ねてきてからの緊迫したやり取りは刑事コロンボを彷彿とさせますし、まさに江戸のサスペンス・ドラマです。おもしろいです。
ところで、小野屋新兵衛が一時おちいった中年の危機というものに、残念ながら当方は心当たりがありません。なにしろ我が家には、30代で失明し全盲となった妻を支えて生きた祖父と、原爆症で何度もがんを患いながら84歳まで生きた夫を支え続けた母がいましたから、妻をよそに他の女性と不倫をするという発想がそもそもありません。作者には苦笑されそうですが、小野屋新兵衛さんの本性は実はけっこう浮気で助平だったんじゃないかと疑っておりまする(^o^)/
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