ワキ「仰はさる御事なれども。ただ志を受け給へと。夫人は酌に立ち給ひ。仙人に酒を勧むれば。
と、ワキはツレ旋陀夫人の方を向き酌を促し、シテも「げに志を知らざらんは」とツレへ向きます。そして続く地謡で酒宴の場となります。
地謡「夕べの月の盃を。夕べの月の盃を。受くるその身も山人の。折る袖匂ふ菊の露。打ち払ふにも。千代は経ぬべき。契は今日ぞ初めなる。
地謡となってツレはすぐに立ちますが、この時にはすでに酒の瓶を携えている心です。持ち物が扇であれば扇を開いて平らに持ち、また唐団扇であればそのまま平らに持ちます。ツレはシテの前へ行き下居、このときシテも葉団扇を平らに持って左手を添えますが、これは酒を受ける盃の心。ツレはシテの葉団扇の上に唐団扇(または扇)の先を付け、団扇を次第に縦にしながら高く上げて、瓶の中の酒をシテの盃に注ぎます。お狂言でもよくある型ですが、いや実際に酒瓶を持ってこのやり方で酒を注いだなら、バケツ一杯分ぐらいありそう。その点お狂言では床几の蓋を盃代わりにして受けることがあって、酒を注ぐこの型とは妙にマッチしていたります。
酒を注がれたシテは葉団扇を口に当てて、それから縦に団扇を上げて、左手を離して両手を下ろします。これで酒を飲んだ、という意味です。このあとシテはもう一度ツレの酌を受け、今度は飲み干さずに、両手で葉団扇を平らに持ったままツレの面を見ています。ちょっとほろ酔い加減で美人に見とれちゃうんですね。
このところ、微妙な差異ながら、いろいろな演じ方があるようです。一つ目をガバと飲んでしまって、すぐお代わりを催促するようにシテが葉団扇を平らに持って、それを見てツレが二度目の酌をする、とか、一度目を注がれてからツレを外しやや正面の方へ向き、しげしげと盃の中を見てからゆっくりと飲む、とか。面白いやり方としてはその一度目の酒を飲んだら正面の方へ向きながら安座してしまって、それから面のみ ゆっくりとツレへ向け、シテとツレとのどちらからともなく再び向き合うと、シテはおずおずと葉団扇を前へ出し、ツレはそれを見て二度目の酌をする型で、酒なんて飲んだことのない仙人は、一度目の酌ですでに酔いつぶれそうになりながら美人を うっとりと見つめて、ツレも まんざらでもない様子で、二度目の酌は夫婦のように しみじみと酌をする、という感じでしょうか。
やがて夫人は酒の肴に舞を見せます。
まずツレは立ち上がって正面に向きツレ「おもしろや盃の」と謡います。ちなみに『一角仙人』の能でツレが声を出すのはこの一句のみ。続いて地謡がそれを受けて美女の舞を描写します。
地謡「面白や盃の。巡る光も照り添ふや。紅葉襲ねの袂を共に翻し翻す。舞楽の曲ぞおもしろき
この地謡の間にツレはごく簡単な舞を見せます。型としては中にてヒラキ、サシ分ケ、ヒラキという程度。そして大小前で立拝して<楽>という舞を舞い始めます。
この<楽>がこの能の前半部分のクライマックスです。
と、ワキはツレ旋陀夫人の方を向き酌を促し、シテも「げに志を知らざらんは」とツレへ向きます。そして続く地謡で酒宴の場となります。
地謡「夕べの月の盃を。夕べの月の盃を。受くるその身も山人の。折る袖匂ふ菊の露。打ち払ふにも。千代は経ぬべき。契は今日ぞ初めなる。
地謡となってツレはすぐに立ちますが、この時にはすでに酒の瓶を携えている心です。持ち物が扇であれば扇を開いて平らに持ち、また唐団扇であればそのまま平らに持ちます。ツレはシテの前へ行き下居、このときシテも葉団扇を平らに持って左手を添えますが、これは酒を受ける盃の心。ツレはシテの葉団扇の上に唐団扇(または扇)の先を付け、団扇を次第に縦にしながら高く上げて、瓶の中の酒をシテの盃に注ぎます。お狂言でもよくある型ですが、いや実際に酒瓶を持ってこのやり方で酒を注いだなら、バケツ一杯分ぐらいありそう。その点お狂言では床几の蓋を盃代わりにして受けることがあって、酒を注ぐこの型とは妙にマッチしていたります。
酒を注がれたシテは葉団扇を口に当てて、それから縦に団扇を上げて、左手を離して両手を下ろします。これで酒を飲んだ、という意味です。このあとシテはもう一度ツレの酌を受け、今度は飲み干さずに、両手で葉団扇を平らに持ったままツレの面を見ています。ちょっとほろ酔い加減で美人に見とれちゃうんですね。
このところ、微妙な差異ながら、いろいろな演じ方があるようです。一つ目をガバと飲んでしまって、すぐお代わりを催促するようにシテが葉団扇を平らに持って、それを見てツレが二度目の酌をする、とか、一度目を注がれてからツレを外しやや正面の方へ向き、しげしげと盃の中を見てからゆっくりと飲む、とか。面白いやり方としてはその一度目の酒を飲んだら正面の方へ向きながら安座してしまって、それから面のみ ゆっくりとツレへ向け、シテとツレとのどちらからともなく再び向き合うと、シテはおずおずと葉団扇を前へ出し、ツレはそれを見て二度目の酌をする型で、酒なんて飲んだことのない仙人は、一度目の酌ですでに酔いつぶれそうになりながら美人を うっとりと見つめて、ツレも まんざらでもない様子で、二度目の酌は夫婦のように しみじみと酌をする、という感じでしょうか。
やがて夫人は酒の肴に舞を見せます。
まずツレは立ち上がって正面に向きツレ「おもしろや盃の」と謡います。ちなみに『一角仙人』の能でツレが声を出すのはこの一句のみ。続いて地謡がそれを受けて美女の舞を描写します。
地謡「面白や盃の。巡る光も照り添ふや。紅葉襲ねの袂を共に翻し翻す。舞楽の曲ぞおもしろき
この地謡の間にツレはごく簡単な舞を見せます。型としては中にてヒラキ、サシ分ケ、ヒラキという程度。そして大小前で立拝して<楽>という舞を舞い始めます。
この<楽>がこの能の前半部分のクライマックスです。