ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

愛してる

2014-12-03 04:34:06 | 能楽
この週末、静岡県・伊豆の国市で ぬえが指導する「子ども創作能」『ぬえ』の公演がありました。
この街が誇る能楽公演「狩野川能」の第一部、入場無料の催しとして、仮設とはいえ本格的な能舞台に子どもたちを上がらせての上演は じつに5年ぶりの快挙でした。まさに悲願の達成。

そうして22人の子どもたちもノーミスで演技を完了、15年間に渡る「子ども創作能」の歴史の中で、間違いなく輝かしい1ページを築きました。

愛してる。努力に努力を重ねて、泣きながら、がむしゃらに ぬえが出した課題を乗り超えて ここに到達した君たちを。

思えばこの夏、「。。良くなかった」と公演後のミーティングで、これも ぬえとして15年目で初めて発したかもしれない言葉を聞いてショックを受けた小学生たち。その後の稽古でも決して機嫌がよいとも言えない ぬえでしたが、まさかここまでの完成度を ぬえに見せつけるとは。「どうだ」「これでも良くない、って先生は言うの?」と言わんばかりでしたねー。

こちら、1年生と新入会員6人による仕舞『玄象』。はじめて上る能舞台に緊張。。はあまりしてなかったみたいだなー。ママさん方5名も地謡でサポート。これ、ときどきやるのですが、ママさんは我が子の動作に目を奪われて、自分が謡うどころではないのですって。ま、賑やかしに。





こっちは3年生のきっぺの仕舞『屋島』。これは同じ年齢の小学生の中では、能楽師の子どもを除けば彼が日本一上手だろうと思います。子ども能とは別に個人的に古典の曲を稽古してくれているのですが、興味は深いようだし、ちょっとした工夫も自分なりに加えているようだし。あと稽古で直されたところは同じ間違いを絶対にしないね。これは大したもんだ。



ナオコちゃんと よっち(5年)の母娘による舞囃子『小袖曽我』。男舞は短く詰めましたが、ママの方はお稽古を始めてまだ半年くらいじゃないだろうか。ああ、それなのに仕舞も難しい『小袖曽我』を舞囃子で課すなんて、なんて非道なの? ぬえ。だってぇ伊豆が舞台の曲なんだもん。



さてお待ちかねの子ども創作能『ぬえ』です。今回の大臣はまさかのケイゴ(4年)が立候補して役を射止めました。。が、謡はしっかりしているけれども、その身長で狩衣が着れるのだろうか。着れました。なせばなる。



頼政役は ゆっきー、猪早太役はウレシ、鵺役はリカちゃんの6年生コンビで、こちらは慣れた配役で安心して見ていられます。むしろ小ぬえ役の5人、ケイゴ、ソオ、コウミ、アッコ、よっちのほぼ5年生チームは、橋掛リで舞働を舞うなど、はじめての能舞台で、その特殊な形状の舞台で舞うのは大変だったろうと思います。













しかし。。中学生が勤めた地頭、後見はさすがの風格でした。地謡は。。かつて15年前は ぬえが地頭を勤めて、子どもたちは口パクでかろうじて ぬえに従って謡う、という程度でしたが、いつの頃からかもう地謡は子どもたちに任せるようになりました。プロの囃子の演奏に合わせて子どもたちだけで地謡を謡う。。これも全国でここでしか出来ないことだと思います。それどころか地謡を彼らに任せた当初、謡い方はいわゆる「雨だれ拍子」といって緩急のない のっぺりした謡い方にして囃子に合いやすくしていたのですが、段々とレベルが上がってくるにつれて ぬえもハードルの高さを上げていって。。専門的になりますが「トリ」の間であっても、さらにその間で謡い出すのが難しい幸流小鼓がお相手でも間をはずさないレベルにまで到達しています。今回は久しぶりに地頭の大役をサラ(中1)が見事に勤めました。



後見。。ときどき子どもにやらせている役目ですが、今回は能舞台での上演ということで、幕揚げからすべての仕事をやらせました。舞台上での物着もあり大役だったと思いますが、さすがずっと子ども能に携わってきた中学生。居ずまいからして決まっていました。



トップ画像は今回ママさんたちに撮って頂いた画像の中で最も ぬえが好きなものです。幕を出る直前の頼政役の ゆっきーと猪早太役の うれし。幕を揚げる用意をしているのが ぬえとともに後見を勤めた ゆかべー とイチイ(中1)です。この緊張感は ぬえたち能楽師が幕を揚げて出る直前となんら変わらなかったです。

終演後のミーティングでは市長さんに激励のお言葉を頂き、またこの日のためにわざわざ駆けつけてくださった気仙沼の村上緑さんが震災のあとの気仙沼の復興について 子どもたちに話をしてくれました。





緑さんは「子ども創作能がこれほど素晴らしいとは思っていなかった」「この街だけで上演しているのはもったいない」「気仙沼の人々にも見せてあげたい」と言ってくださいました。またこの日 第二部の有料の能楽公演のために集まって来られた能楽師の先生方からも「子どもたち、すごいですね~」「どれくらいお稽古すればこんなに出来るようになるのですか?」なんて ぬえに感想や質問を頂きました。子どもたちのおかげで ぬえも鼻が高かったです!

まあ。。間違いなく小学生が出演する能楽公演では全国トップのレベルでしょう。みんな、お姉ちゃんが主役やってる姿に憧れて参加したり、来年は6年生だから主役をやるぞ、と自宅でひそかに稽古を積んだり、そうして15年間の切磋琢磨と、そういう向上心が伝承され続けて、彼らはここまで上ってきました。

次回は2月に市内の神社で行われるイベント「梅まつり」への参加に向けて、また楽しいお稽古の時間が再開されます! これは年度の最後の公演だというので、恒例として子どもたちは学年に関係なく、誰でも主役に立候補できることにしています。その代わりお役に決まったら責任は全うすることを条件に。以前、誰でも主役やって良いと言ったら1年生が「はい!」と手を挙げてしまって。予想外の展開で ぬえもドキドキしましたが、なんと当日は無事に大役を勤め果たしたのでした。

可能性には終わりはないですね。限界なんてそう簡単に見えるものじゃない。そもそも能の型というものは、少しマジメに勉強すれば誰でも舞えるように作ってあるのです。楽しむだけでもちゃんと成立するし、そこより奥に進むにはコツもあって、それはずっと奥深いところまで続いている。そこが能の素晴らしいところだと思います。彼らはそこにすでに気づいているんじゃないかな。こうして舞台を勤める責任ということを感じて、ちゃんと全うして見せた姿に ぬえは惜しみない拍手を贈ります。