小田原周辺のマイナースポットや些細な出来事を少しずつ
小田原の端々



あまりジャンルを問わずに書評や受賞作などを参考に手当たり次第小説を読んでいるが、気に入った作家が見つかると10作品くらい連続して読むことがある。昨年読んで気に入った作家の一人が絲山秋子で色々と読み進める中に小田原が舞台の中編小説があった。絲山秋子の「妻の超然」は2010年に刊行された中編小説集。そのなかの表題作である「妻の超然」は文庫で90ページほどの中編小説。主人公は小田原在住の夫婦で市内各所が舞台となって物語が進む。先日、作中に描かれた場所へ出かけた。詳しい内容は割愛するが「妻の超然」は倦怠期の夫婦の日常と夫の浮気について書かれた小説。主人公の妻は小田原駅近くの中高層マンションに暮らしており、夫は小田原市内の製薬会社で働いている。作中で小田原の印象については「小田原は幕の内弁当のような街だ。ごま塩をふったご飯を真っ白な壁の小田原城に見立てるならば、商店街は色とりどりのおかずのように立ち並ぶ」とある。その商店街についての描写もあるが商店街名までは書かれていない。しかし作中には「魚屋のすぐ先に布団屋があったり…」との記載があってそれらにぴったりと合うのは錦通り周辺。おそらく魚屋は魚國で布団屋はナカヤマのことだと思われる。主人公の妹の旦那の叔母である舞浜先生なる人物も小田原在住で、作中では箱根板橋の旧内野醤油店近くのログハウスに住んでいる設定。箱根板橋の旧東海道沿や住宅街についてはしっとりとした描写で書かれている。箱根板橋周辺は立原正秋の小説「舞いの家」の舞台にもなっている。主人公の買い物先として何度か登場するのが川東地区のロビンソン百貨店。そのロビンソン百貨店は2013年の3月に西武小田原店へと変わってしまった。なにもすることがない日に主人公が訪れるのが小田原城址公園の動物園。主人公とウメ子とのやりとりがほのぼのした描写で書かれている。残念ながらウメ子は2009年の9月に亡くなっている。「妻の超然」の初出は新潮の2009年3月号なので、半年間は作中に描かれた諸々の風景が揃っていたが残念ながら現在はそのいくつかが失われたり変わっている。地元が舞台なのでやはり親近感を持って読み進められてなかなか面白かった。ストックしてある何冊かの小説の中にも小田原が登場するのでまた機会があればブログで紹介したい。

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