
昨日出来上がったばかりのこの豆本は、広重の「東海道五十三次」ではなく、長谷川貞信(初代)という幕末の上方の浮世絵師の作品である。この「貞信」は現在も五代目として継承されているほどの由緒ある絵師である。しかしながらこの作品、オリジナルな作品ではなく、初代広重の蔦屋版「東海道」の模写なのである。


上の「日本橋」(左広重東海道)を比べてみると図柄はほとんど同じながら、書き込まれている文字が違っている。落款が違うのは当然として、特に注意するのは右上タイトル部分で、広重は「東海道 一」、貞信は「東海道五十三次 大尾」となっていることである。この「一と大尾」の違いから判るとおり、普通「東海道」を描く場合は江戸から京へ向かっていくのだが、これは逆の京から江戸への東下りになっているのである。それと「○○へ何里何丁」というふうに、次の宿場までの距離が記されていて、最終の日本橋のこの図には「京都まで凡百廿五里半余」となっている。
単なる自分の勉強のための名画の模写ならば、そっくり模写すればよいはずだから、これがどのような事情で描かれたものかわからない。
しかし東海道関係の作品を集めて豆本を作っている自分にとっては、貞信という絵師の新作品かと思っただけに、かなりがっかりしたのであった。