朝日新聞に2006年から2012年3月まで月1回連載された大江健三郎さんの随筆が単行本になった。
連載中は、簡単に読み流すようなものではないので、1冊の本になるのを待っていた。
長男の光さんのことから書き始めている。
「南仏エク=サン=プロヴァンスの、『本の祭り』に行ってきました。1995年にも免れていたのですが、シラク大統領の南太平洋での核実験に抗議して、出席をとりやめました。『十分に無礼な態度』と非難する作家クロード・シモンのル・モンド紙の記事が、駐仏日本大使からファックスされて来て、・・・。」
『沖縄ノート』をめぐる裁判で、被告として国と争っていることも、丁寧に書かれています。渡嘉敷島で、「集団自決」が「日本軍によって矯正された」という記述が、文部科学省の2006年度教科書検定で取り去られたこと。そのことで、高校生たちが、この修正された教科書でまぬことになったことを危惧している。
曽野綾子氏が、渡嘉敷島の戦跡碑に、《・・米軍の攻撃に追いつめられた島の住民たちは、・・・自らの手で自決する道を選んだ。一家は或いは、車座になって手榴弾を抜き或いは力ある父や兄が弱い母や妹の生命を絶った。そこにあるのは愛であった。》と刻ませたことに、「愛という言葉はこのような言葉か?」と問いかけている。
様々な日常と、日本の歩んでいる道を見つめ、問いかける大江健三郎さんの生き方が現れている