わたしは絵巻物という日本の文化ジャンルが大好きです。
絵師、という職業は、一般的にあったのかどうかと思うのですが、
たぶん、日本人のコミュニケーション活動の中で
書かれた文章は読めない人が多くいた状況のなかで、
ものを伝えていくということについての具体的手段として、
きわめて重要な存在だったのではないかと思えてなりません。
現代で言えば、カメラマンに存在自体は近く、
しかし、職業的鍛錬は絵画の描き方に多くの情熱が注がれたことと想像します。
それは、「どうしたら、わかりやすく描けるか」ということを
突き詰めて研究開発してきた結果だったのではないか。
そういった研鑽の結果、たとえば寺院などの縁起ものの制作というような
大きな、後世に残っていくような仕事のチャンスがあって
そういった仕事でかれらの消息をわれわれは感受することになる。
そういうのが「絵巻物」としてわれわれが見ているものなのですね。
で、現代のマンガに繋がってくるような
コミュニケーションツールとして、日本人には
こういった絵画表現の優れた文化が伝わっていると思うのです。
万言を費やすよりも、瞬時にさまざまなことを伝えきってしまう。
絵師たちの残したそういった痕跡を観賞するのが楽しい。
ただし、こういった絵師たちにはほとんど名前を残したようなひとがいない。
職人の一種として、
名もなく、市井に埋没して、文化の底辺を支えてきた。
まぁ、そういったところも好ましく思える部分ではあるのですが・・・。