令和6年最初のブログです。年が明けてほぼ1ヶ月半が過ぎてしまった。この間いろいろあったのも事実だが、書くペースも遅くなっていることを自省します。
さて、先日小澤征爾氏が亡くなったそうだ。私がこの世界的に有名な指揮者の名前を知ったのは、1973年に発売されたYESの3枚組ライブアルバムYESSONGSのオープニングで聞かれるストラヴィンスキーの「火の鳥」によってである。小澤征爾・指揮、ボストン交響楽団*による「火の鳥」がここで使われていると知った。プログレ大好き高校生が聞いた初めてのYESのライブでは、クラシックの音楽が流れ、その終わり部分にリック・ウェイクマンの弾くメロトロンが重なり、間髪入れずに1曲目のシベリアン・カートゥルが始まる。何てカッコいいんだ!高校生の私はそう思ったに違いない。
ロックを聴く前はクラシックや映画音楽、イージーリスニングを好んでいたが、YESSONGSをきっかけに改めてクラシック音楽にも興味を持つようになった。EL&Pが取り上げた「展覧会の絵」は知ってはいたが、ストラヴィンスキーは全く知らなかったし、その後ラヴェルやドビュッシーなども聞くようになっていった。こうして振り返ってみると、小澤氏の演奏が私の音楽嗜好を拡げてくれたきっかけになったのかもしれない。
(小澤征爾指揮、パリ管弦楽団による「火の鳥」。)
ちなみにアルバムYESSONGSについては12年前にこのブログで紹介しているので、もしよろしければご覧ください。
*YESSONGS 日本盤ライナー、立川直樹氏の解説による。
50年前の1973年は高校に入学した年だった。その年、ピンク・フロイドの「狂気」とキング・クリムゾンの「太陽と戦慄」という2枚のアルバムが発売された(英国発売はどちらも3月)。プログレ大好き少年の私としては当然のことながら注目をしていた。だが、どちらのアルバムを購入するかということは大問題であった。高校生の小遣い程度では両方を手に入れることは難しいからである。
結局私はクリムゾンの新作の方を買った。デビューアルバム「宮殿」に衝撃を受けロックに目覚め、「リザード」に夢中になった私にとってクリムゾンは変わらず神秘的で別格の存在だったのだ。そして、フロイドの「狂気」はNHK-FMの番組で全曲を放送しタイミング良くカセットテープに録音することができたという状況もあった。(当時はそのようなラジオ番組があった。イエスの「海洋地形学の物語」やEL&Pの「恐怖の頭脳改革」も全編オンエアされた記憶がある。)
しかし、そのクリムゾンの新作を聴いた時、何か違うなという感覚を持ってしまった。1曲目の「太陽と戦慄パート1」の攻撃的な音は私が期待したサウンドではなかった。確かに「放浪者」のようにフリップのアコギが入り、フルートやピアノの音が重なる叙情的な曲もあったのだが全体的には激しいロック・サウンドという印象だった。結果としてお気に入りのアルバムとはならなかった。
それに比べて、「狂気」の方は一部激しいサウンドや前衛的な部分もあるが、全体的には叙情性が豊かな印象だった。トータル・アルバムとしての存在感もあった。結局、「狂気」の方が好きになった。だが、カセットテープでいつでも手軽に聴ける「狂気」をレコードで入手することはなかった。レコード盤で購入したのは2011年のことである。
思い起こせば、1972年のイエスの「危機」に始まり、私にとって73年はプログレッシブ・ロック全盛の時であった。ジェネシスのFoxtrot(72年リリース)を高1の時の同級生から借りて初めて聴いたのはこの年であった。また、イギリス以外のヨーロッパのバンドが盛り上がった年でもあった。72年に発表されたオランダのバンドFocusの「Ⅲ」が73年に日本でリリースされ、その後ライブアルバムを発売。その彼らの2作目Moving Wavesは素晴らしい出来だった。またイタリアのP.F.M.が「幻の映像」を秋に発売。このアルバムはプログレのほしいところを全て網羅した傑作だったと思う。とにかくこの年は夢中になるバンドがありすぎて、翌年には高校でプログレバンドを作るまでになってしまったのである。
50年前、1973年はそんな思い出深い年であった。
(左下は50周年記念盤CD "LIVE AT WEMBLEY 1974"。右下はDOLBY ATMOS MIXなどが収録されたブルーレイ盤)
(本ブログにて以前「狂気」について記したことがあります。→ 思い出のプログレアルバム#11「狂気」)
11月3日はレコードの日である。アナログ盤の魅力を多くの人に知ってもらいたいという目的で8年前から開催されているイベントだ。今年は12月3日にも設定されているとのこと。それにちなみ、今回はイタリアのプログレ・バンドP.F.M.(プレミアータ・フォルネリア・マルコーニ)の72年リリース、イタリア盤ファースト・アルバム LP、Storia Di Un Minuto(1分間の物語)〜邦題「幻想物語」について。
PFMは日本で紹介された時から大好きなバンドで、日本でのファースト「幻の映像」(こちらで紹介済み)はもちろん、その後も立て続けに買い続け、一度も期待を裏切られたことのない素晴らしいバンドであった。本国イタリアでの2枚目オリジナル・アルバム Per Un Amico (友のために)は高校生の頃に購入したのだが、1枚目の方はCDの紙ジャケ盤などは別にしてLPはとうとう買う機会がないまま今に至ってしまった。そんな時見つけたのがこの復刻「赤盤」である。これは珍しい、これを買うために今まで待ち続けたのだ!と勝手に理由を付け購入してしまった。シリアルナンバー(手書きだが)もついていて、なかなか希少価値があるのではないか(700枚らしい)。それに、何よりもファーストは曲が良い。サウンドもメロトロンが多用されていてプログレの王道を行く内容だ。これを針をとおして改めてじっと聴く。久しぶりに至福の時となった。
ちなみに76年発売のChocolate Kings も発売当時イタリア盤で購入した。ヴォーカル担当の新メンバーが加入し、サウンドが少しフュージュン的になった印象で、この辺から私のPFM熱は冷めていったと思う。だが、高校時代の我がバンドでは彼らの曲をたくさんコピーして演奏した熱い思い出がある。このアナログ盤を聞きながら、またあの頃のことを思い出してしまった。青春だった、、、。
イタリア盤セカンド・アルバム PER UN AMICO(72年)
Per un amicoの内ジャケット
イタリア盤 Chocolate Kings (76年)
国内盤3枚のLP(幻の映像〜甦る世界〜クック)
昨日9月23日の夜、NHK-FMにて「プ」はプログレの「プ」という番組が放送された。「今日はプログレ三昧」以来の長時間プログレ特集番組でそれなりに楽しめたのだが、番組中でイエスのアルバム「危機」がイギリスでリリースされたのが1972年9月13日だった、今年で50周年です、と説明されていた。そうだ、すっかり失念していた。72年というのは私にとっても重要な年で、キング・クリムゾンの「宮殿」を聞き衝撃を受け、イエスの「危機」に熱中した年であった。中3の頃である。それから50年が経ってしまったのだ。このブログでも「危機」については10年前に詳しく記載していた(ここ)のだが、改めて思うところを述べてみたい。
恐らく複数枚持っているひとつのアルバムとしては「危機」が一番多いと思う。確認してみたらLPが4枚(米国盤2枚、英国盤日本盤各1枚)、CDが6枚(6種類)あった。次点のクリムゾンの「宮殿」がLP1枚、CD5枚なので圧倒的である。「危機」の発売はリアルタイムで経験していてよく覚えている。魅力的な緑色のジャケットで音楽雑誌の広告には「イエスはメリハリの音楽である」のようなコピーが見られた。ラジオでも18分強の「危機」がノーカットで放送されていた(確かNHK-FM)。その後自分もLPを購入して何度も何度も聴いていた。(A面のみならずB面の2曲も素晴らしいのである。)難解な歌詞(もちろん和訳の方)に感動して自分でもそのような詩を書いてみた。中3だったから高校受験の勉強もあったはずだが、歌詞の中の英語を調べて記憶したことはあまり役には立たなかったと思う。(余談だがシンセサイザーやメロトロンにも多大な興味が沸いていた。将来はそれらの楽器を全て所有する人になりたい、と思ったことを覚えているが今それはソフトシンセの形で実現している。)こうしていくつかを羅列してみると、思春期の青春の1コマは、このアルバムの緑色で染められていたのだなと思う。
A面全体を構成する組曲「危機」について、「1970年代のプログレ」著者の馬庭教二氏はその本の中で、5人のメンバーがああでもないこうでもないとスタジオに籠もって演奏を繰り返し、プロデューサーのエディ・オフォードが録音した数多くのテープの中から良い出来のものを編集し、自然に聞こえるようにつなぎ合わせたものだ、ということを記している(ワニブックス p.86)。全く信じられない話だが、もし本当だとしたらロック・ミュージック名盤誕生の陰には名プロデューサーありの秘話として語り繋がれていくべきだろう。
「プ」はプログレの…でも番組最後に「危機」がオンエアされた。それも英国オリジナルアナログ盤を再生しての放送である。プログレッシブ・ロックの一つの典型がこの曲なのだ。50周年おめでとう、Close To The Edge!
(国内盤。帯も解説も緑で統一されていた。)
(USA盤裏ジャケット。上に曲目がクレジットされている。)
(UK盤の裏ジャケット。日本盤もこちらと同じで曲目表示はない。)
久しぶりにアルバムの紹介を。スティーヴン・ウィルソン率いるポーキュパイン・ツリーの13年ぶりの新作アルバムが6月に発売された。私は輸入盤のCDと前作(ウィルソンのソロ作THE FUTURE BITES)同様カセットテープの2種類のメディアを購入した。
スティーヴン・ウィルソンについてはここ数年のソロ作は必ず購入してきたし、ポーキュパイン・ツリーのアルバムも数枚持っている。プログレファンの私としては目の離せない存在である。ということで今回も楽しみにしていた。一聴して思ったのは、バンド作品ではあるが、彼のソロ作とあまり違いが感じられなかったということ。これは良い意味で言うのであるが、安定した裏切らないサウンドを聞かしてくれている。彼の音楽はとてもメロディアスな部分と、まるでホラー映画のサントラのような緊張感を感じさせる展開が絶妙にミックスされているように感じるのだが、今回もまさにそのような雰囲気。特に、4曲目のDignityは2013年ソロ作 The Raven that Refused to Sing (And Other Stories) に収録されていたもの悲しい名曲 Drive Homeを彷彿させる名曲だ。あるいは最終のChimera’s Wreckはエスニックなメロディの繰り返しが頭に突き刺さるような印象的な曲である。その他も長めの曲が多く、久しぶりにロックバンドのアルバムに没頭することができた。
今回の新作は6月下旬の発売であったがそれまでにかなり待たされ、実は忘れかけていた(笑)。CDの予約をしたのが昨年の11月頃で、カセットテープの方は国内のストアで扱っていなかったためPorcupine Treeのサイト・ショップへ1月に注文。価格は10ポンド+送料3ポンド(追跡なし)。こちらはCDに遅れること2週間後の到着だった。どちらも通常盤7曲の構成で時間としては約47分。だからカセット版もリリースできるのかなと思うのだが、私としてはテープで聴くのが実は楽しみ。ウィルソン氏には今後もカセットでの作品リリースを続けてほしいと願っている。
ピンク・フロイドが87年に発表したA Momentary Lapse of Reason(邦題「鬱」)のリミックス&アップデート・ヴァージョンが単体でリリースされた。19年に発売されたThe Later Years のボックスセットに含まれていた音源の単独発売である。
このオリジナル版が発売された当時はまだレコードが主流で、私も輸入盤を購入していた。ロジャー・ウォーターズとの別離を経て残り3名がクレジットされた(厳密にはリック・ライトはゲスト参加)新生ピンク・フロイドのアルバムということで大変期待していたと思う。針を落として1曲目のSIGNS OF LIFEからフロイドらしいオープニングで、また全体的にギルモアの独特のギターサウンドが聴かれ充分に満足したことを覚えている。LEARNING TO FLYのような地味だと思われた曲も、後のライブ映像を見て改めて好きになったりしたものだ。
今回のヴァージョンではニック・メイソンの新たなドラミングが加味され、またリック・ライトの使われていなかったキーボード・サウンドを復元したのが「アップデート・ヴァージョン」の意味らしい。実際どこがどのように変わったのか?これを判断するのはなかなか難しいと思ったのだが、試しにアルバム最終の曲で、私の大好きなSORROWを新旧で比較してみた。
まず気がついたのはドラムのスネア音である。旧ヴァージョンでは深くリバーブがかけられており、これは80年代のロックサウンドでは必須な音処理であった。が、アップデート版ではそれが無くなり、生音のようなサウンドである。また、曲の終盤のキーボードが旧ヴァージョンではデジタルシンセがメインに聞こえるが、アップデートではオルガンがメインになっており、これは間違いなくリック・ライトの奏法である。ここだけで判断すると、80年代の打ち込み+デジタルサウンドが本来のバンドサウンドに変わった(戻った)処理をしていると思われる。実際、ニック・メイソンのインタビューを読むと、「リックの仕事の一部を改めて取り入れる機会を得たのも良かったね。(中略)バンド感を圧倒的なものにしてくれた気がする。このリミックスのメリットの1つがそうであるといいね!」と語っている。(SONY MUSIC https://www.pinkfloyd.jp/artist/PinkFloyd/info/532843)
アルバム・ジャケットの写真も変更されている。今ならこの砂浜に置かれている無数のベッドはCGだろうと思うかもしれないが、本物を使ったヒプノシスの作である。旧バージョンでは右奥に数匹の犬がいるが、新バージョンでは海水が流れ込んでいる別ショットが使われている。これもリアルな場面なのだそうだ。そして飛行機が大きく写し出されているのだが、旧作のジャケットをよく見ると奥の方に小さく飛んでいる。だが、今回使用されたのはそれではなく新たに撮影された機体とのことだ。オリジナルのアートワークを大胆に変えたことで、まさにアップデートの意味合いが深まっていると思う。
なお、私が今回購入したのは輸入盤の1CDと2枚組のLPである。LPの方は180g重量盤でハーフスピード・カッティングの45回転仕様。当然のことながら音は抜群に良い。そして付属のブックレットも大きく見応えのあるものとなっている。
一番好きなロックバンドであるジェネシスが先月末からとうとう復活コンサートThe Last Domino? Tourを開始した。延期に次ぐ延期があったが、まずは開催を祝したい。そして、YouTubeのサイトではそのライブの模様をアップしてくれている人達がいて、全容がつかめる。何と有難いことか!それにしてもイギリスでは普通に客が入り、普通に盛り上がっている。もうそんな状況になっているのかと、まずはそちらに驚いた。
ジェネシスのライブは、バリライトの開発に関わった経緯もあり照明にはいつも凝っている。今回もドミノ風のオブジェが天井に設置され、そこから縦横無尽に光が飛び交う。動画を通してもその様子はわかるが、やはり会場内で経験してみたかった!
オリジナルメンバーのマイケル・ラザフォードやトニー・バンクスは70歳を超えているだろうが、昔と変わらないスタイルで楽器に向かっている。フィル・コリンズは脊髄手術の後遺症?からほぼ椅子に座ったままヴォーカルに専念する。サポートギタリストのダリル・スターマーは割と元気にギターを弾きまくり、そして今回はフィルの息子であるサイモン・コリンズがドラムで参加。彼のドラミングは父親とは違って重たい感じのトーンだが、複雑なジェネシスの曲をこなしているのはさすが父親譲りだ。
ところで動画を見ていてオープニングのBehind The Lines でマイクが手にしているベース・ギターに目が行った。驚いたことにどうもYAMAHAのモーションベースなのではないかと思われる。私が持っているベースギターが古いヤマハMB-40なのだが似ている。いわゆるP/Jピックアップ(プレジション型とジャズベース型の両方を備えている)であり、ヘッドのデザインがYAMAHA、というかその丸形ロゴマークでほぼ間違いないだろう。私が所有するのは安価なものでコントロール用ツマミの数などが違うのだが、調べてみるとMBベースは90年前後の時代に発売されていて、高価な方ではMB-1やMB-75というモデルがあったようだ。マイクが弾く個体にはゴールドに輝くブリッジが見られ、MB-75と似ている。今このデザインと同じモデルは出ていないので、マイクはセミビンテージのヤマハを使ったのでは、と思われる。それもオープニングで。そういえば、ジェネシスとして初来日した78年の雑誌取材記事で、持ちこまれたアコースティック12弦ギターがAlvarez 製と紹介されていたことを思い出す。これは日本のK.YAIRIの輸出仕様である。実はマイクは日本びいきなのかもしれない。
ちなみに私の持つMB-40はミディアムスケールのベースギターで、体が小さい私にはちょうど良いかと思って数年前に購入した。だが最近こちらの練習はサボっている。この機会にスラップ弾きの練習を再開しよう。
ジェネシスの祝!復活コンサートが私のベースギターの話しになってしまった。ライブの写真はYouTubeのこちらから。もちろん、今後もジェネシスの活動に注目していきたい。
本日届いたFROST*5年ぶりの新譜、プログレファンである私を久しぶりに興奮させる素晴らしいアルバムだ。例えば1曲目のDAY AND AGEは12分の大作。2コードが繰り返される疾走感あるイントロの後、転調気味に歌が入り、早速その世界に引き込まれる。奥行きのあるサウンドにやがてドラムのソロが続き、これぞプログレという展開。ギターもシンセもテクニカルなフレーズやソロが出てこないのだが、アンサンブルと不思議なサウンドコラージュで充分聞かせてくれる。そして歌が再開しシンセのソロが聞こえ出しながらフェードアウト。凄い、この1曲だけでプログレを堪能できる。
FROST*はメンバーがジェム・ゴドフリー(key)、ジョン・ミッチェル(g)、ネイサン・キング(b)の3人となった。ドラマーのクレイグ・ブランデルがスティーヴ・ハケット・バンドに加入したためである。そして本アルバムでは3人のドラマーが参加している。その中の一人は、キング・クリムゾンのパット・マステロットだ。18年12月のクリムゾン札幌公演後にそれについてインスタグラムに投稿したら like をくれたことを思い出す(こちらの記事)。
同氏はアルバム終盤の2曲でドラムをたたいているが、その2曲を含む3曲は切れ目無く続きまるで20分にわたる組曲のようで、曲調も壮大かつ緩急ある構成でアルバムのハイライトとも言える。終曲のドラマチックな展開の中での重たいドラムサウンドが心地よい。
今回久しぶりに国内盤(Blu-spec CD2)で購入したのだが、ボーナストラックと詳しい解説付きだったのが良かった。ということで、ほんの第1印象の紹介であるが、当分ヘビーローテーションとなりそうな1枚だ。
この作品は1969年10月10日に発売されたそうなので、まさに今が50周年。クラシックや映画音楽好きだった私がロック・ミュージックに目を(耳を)向けるきっかけとなったアルバムであることはこちらで述べたので、今回は別の話題を。
まず「レコード・コレクターズ」2002年3月号にドラマーだったマイケル・ジャイルズのインタビュー記事が載っている。
バンド名の由来は「クリムゾン・キングの宮殿」という曲名から取ったそうだ。「だれもいいバンド名が思い浮かばなかったから曲名から持ってきた。」と言っている。私はバンド名を曲に盛り込んだと思っていたが逆であった。そしてインタビュアーが「日本では長いことビートルズの『アビーロード』をチャートの1位から引きずり下ろしたアルバムとして有名です。」と振ると、「いや、イギリスのアルバムチャートの最高位は5位だったと思う。我々自身もとても驚いたくらい自分達が必要としていた以上の成功だった。」と答えている。国内盤LPの帯にその記述があった「宮殿」のひとつの神話として信じられている話しだったが、無名のバンドがそこまで名を馳せたという事実はたとえ5位であっても変わらない。
そして今日のメインの話題はこれ。
クリムゾンのオフィシャル・サイトでクリムゾン誕生50周年を記念する貴重音源の公開を今年1月から行っている。(「ここ」)私がそれを知ったのは恥ずかしながら最近である。音源は週一回新たにアップされていて、当時の話題にも触れられていてとても興味深い。「1991年当時の所属レーベル、ヴァージンが企画したボックス・セット『フレーム・バイ・フレーム』のラジオ・プロモーション用に制作された「21世紀のスキッツォイド・マン」の幻のラジオ・エディット・ヴァージョン」と記載された第1回目の音源は曲の中間のソロ部分がカットされコンパクトにまとめられたバージョン。そして#40として聴くことができるのが何と幻のトニー・クラーク・プロデュース版"21st Century Schizoid Man"なのである。クリムゾンのメンバーは当初ムーディ・ブルースを担当していたクラークとアルバムのレコーディングを進めていたが、意見の対立で中止し、それまでの音源も破棄されたという話しを聞いたことがある。サイトの記載によると、実はエンジニアが倒れて作業が進まなくなったとあるが、それよりも驚いたのは長年残っていないと思われていた音源が見つかったということ。それをここで聴くことができるのだ。バッキング・トラックのみで、そのためレイクのヴォーカルは移植され、ギターとサックスのソロはジャッコとメルがオーバーダビングしたとのことだが、荒々しいけれど完全に土台ができあがっていることがわかる。本当に貴重だ。
クリムゾンの「宮殿」といえば、長年マスター・テープが紛失して最初のCD化はマスターのコピー版で行われたということだったが、後年そのマスターが見つかり、04年に改めてオリジナル・マスター・エディションとして発売された経緯もあった。アナログ・レコーディングの時代にマスター・テープと呼ばれるものはミュージシャンや音楽業界にとって大きな財産であるはずなのに「紛失」とはどういうことなのか、ちょっと腹立たしい気もするが無事見つかって良かったと遅ればせながら思う。今回紹介したこの音源も超貴重なものである。しかも無料で聴かせてくれるなんて、ありがとうキング・クリムゾン(ロバート・フリップ)!
(最初に買った2004年オリジナル・マスター・エディション盤。ピンクレーベルが模されている。)
“The Lamb Lies Down On Broadway” Tourのライブ音源は遙か昔から聴いているが、当初はオーディエンス音源のものが多かった。その後1998年にリリースされた「Genesis Archive 1967-1975」でようやくサウンドボード録音による演奏を聴くことができたものだ。それはまるでスタジオ録音であるかのように演奏も音も良かった。しかし、その音源は最終曲のItがテープ切れ?で収録されず、そのためメンバーが集結してその曲だけを再録したという嘘のようなおまけトラックが付いていた。それもとても素晴らしい演奏だったので文句のつけようはないのだが、ステージの完全ライブ収録という点では不完全だった。そして本アルバムにはラジオ番組 King Biscuit Flower Hour 用に12月17日のニューヨーク州ロチェスターにて演奏された Broadway全曲+The Musical Boxが収録されている。
以前ここで紹介したように、私はThe Lamb Lies Down On Broadwayというアルバムのクオリティの高さ、素晴らしさを評価している。それをステージで再現するのは大変な作業だったことだろう。何せ1974年は5月まで前作アルバムのツアーをしていて、そして11月からラム・ツアーが開始されたのだから。それにもかかわらずその間にニュー・アルバムを完成させ、3枚をシンクロさせ映し出される千枚以上に及ぶスライドやピーターのコスチュームを準備し、レーザーをも用いた本番での演出や語り、それらがトータルに重なり合ってこのツアーが成り立ったのだろう。ぜひとも映像で見たかった。しかし、それは叶わないからこの音源を聴きながら想像力を働かせよう。そうするに充分な演奏をこのCDでは聴くことができる。
だが、こうした音源が出されると、実は個人的にはBBCで放送された音源が最高だと思っている。今後それの全曲版がリリースされないものだろうか!?
(↓写真家アーモンド・ギャロ氏発行の写真集からブロードウェイ・ツアーのショット)
1973年10月13日に6thアルバム「月影の騎士(原題:Selling England By The Pound)」をリリースしたジェネシスは9月からの8か月間、ヨーロッパ、イギリス、北米で115公演の“Selling England By The Pound”ツアーを行った。その中、74年4月21日のカナダ・モントリオール公演が地元のロック専門のFM局CHOMでの放送用としてライヴ・レコーディングされる。セット・リストはアンコールを含めて全10曲なのでこのライヴ・アルバムはコンサートを完全収録している。(以上、付属の解説より抜粋)
本盤は録音の音質が大変良い。それは即ち演奏の迫力をほぼダイレクトに伝えているということ。「Genesis Archive 1967-1975」収録の73年のレインボー・シアター・ライブ音源も良かったが、こちらの方はより臨場感に溢れている。ツアー終盤ということで演奏も力強く自信に満ちているように聞こえる。ゲイブリエルがフランス語でMC。適宜歓声が聞こえる観客のノリも良い。Firth Of Fifthではスタジオ録音同様にピアノのイントロがある。そしてアンコールのザ・ナイフの演奏が凄い!やはりこの曲は中盤のフルートが欠かせない。ハケットの終盤のギターソロも弾きまくっている!
と思って聴きながらふと自分の棚を見ると同日のライブによるブート盤があるのを発見(「Horizons Part1 / Part2」)。随分前に買ったもので忘れていた。少し聞き比べてみると、今回購入盤の方は放送前の音源を編集したようで開演前の音が入っていたり、何といっても番組では放送されなかったThe Knifeが含まれているのが違う。この一曲だけでも本アルバムの価値はあると思う。
ちなみにオープニング・アクトを務めたヴァン・ダー・グラフ・ジェネレーターのフロント・マン、ピーター・ハミルのパフォーマンスも本CDには収録されている。
リッケンバッカー・ベースを弾くフィンランド在住のイタリア人Marco Bernardを中心に、フィンランド人ドラマーKimmo Porsti、アメリカ人ギター・ヴァイオリン・フルート・ヴォーカルのSteve Unruhによるトリオ・バンド。特にSteve Unruhという人が美しく叙情的で時にはクラシカルなヴァイオリンやフルートを奏で、そして劇的なギターとヴォーカルを聞かせるというマルチ・プレイヤーぶりを発揮。フルートとヴァイオリンといえば、PFMのマウロ・パガーニを思い出すが、ここでのヴァイオリンは時にはチェンバー的、時には王道のプログレ的と、実に素晴らしい。全体的に壮大な曲が多く、メロトロン・サウンドも聞かれプログレッシヴ・ロックとしての完成された構築美が感じられる。
OMUNIBUSというタイトルのボックスセットには初期3作+アルファを収録。Roine StoltやJon Davisonなど多彩なゲストを迎え、プログレの有名曲が多数カバーされている。例えば、THE LAMIA/DANCING WITH THE MOONLIT KNIGHT(GENESIS) STARSHIP TROOPER/TIME AND A WORD(YES) JERUSALEM/ KARN EVIL 9 2nd IMPRESSION (EL&P) DOGS(PINK FLOYD) JACOB’S LADDER(RUSH)など。実に選曲が素晴らしいではないか!演奏もオリジナルに忠実なものもあれば、独自にアレンジされたものもあり聴き応え充分である。また、3作目のオリジナル作品の方も、スリリングで起伏に富んだシンフォ・ロックから叙情的な美しい曲まで様々な展開があり思わず魅了される。
そして、19年作Toki No Kazeは宮崎駿・ジブリ作品へのオマージュとのこと。ピアノ、フルート、ヴァイオリンによるクラシカルでオーケストラ的なアプローチがあるかと思えば、エレキギターが絡むプログレ調まで実に多彩。ここでもゲスト・ミュージシャンが参加し、日本のシンガー富山優子が日本語の歌詞でヴォーカルを披露している。(M6 REALITY。この曲の仕上がりはボックスセットで聴かれた楽曲とは全く異なる雰囲気である!)加えてインストゥルメンタル部分では時々CAMELやHAPPY THE MANの演奏を思い出させて、総じて「静」と「動」が混在した名作アルバムだと思う。
彼らの作品は各CDとも74分の収録であるため、時間的にもしばらくは充分に楽しめそうである。そして、今月は久しぶりにプログレCDをたくさん買い込んだ。今後順に紹介しようと思う。
キング・クリムゾンは私にロック・ミュージックへの道を開かせてくれたグループとして思い出深い。しかし、正直言うと80年代クリムゾンのBeatの頃から興味が失せてしまった。従って最近の再始動にもさほど関心を抱くことはなかった。だが、2015年のRadical Action 3CDs & 1Blu-Rayと2017年のLIVE IN CHICAGO 2CDsは手元にある。それは最近のライブで彼らが初期の楽曲を演奏しているからだ。何と言っても初期のアルバム「宮殿」から「アイランズ」までが私は好きなのだ。特に3枚目の「リザード」が最高に気に入ってる。そしてLIVE IN CHICAGOでは「サーカス」や「リザード組曲」が収録されている。そのような時に、結成50周年のクリムゾンが札幌に来る、それもこの10月に新たにオープンした札幌文化芸術劇場hitaruで行われるというニュースが。これは行くしかない。高額な入場料ではあったがチケットを購入し、12月2日を楽しみにしていた。
まずhitaruについて。複合的施設札幌市民交流プラザの一つであるこの芸術劇場は4階に入り口がありエスカレーターか階段で上がる。こけら落とし公演はオペラ「アイーダ」で、クラシックの演目を多く開催しているようだが、ゴスペラーズや玉置浩二のコンサートなどポピュラーの公演も行われている。会場の造りも北海道初の他面舞台劇場とされ、来年にはレ・ミゼラブルの上演も予定されている。その中本格的なロック・ライブはクリムゾンが最初のようである。私は価格の安い2階席の横側だったが、前方にせり出しているので距離的にはステージに近く、バンド全体の動きを座りながらじっくり見ることができた。
ステージ前列にはドラムが3人分セットされている。トリプルドラムがどのような事態になるのか、Radical Actionで画面を通して見てはいたのだが改めて目の当たりにした。パートを分けたりやフィルインを順番に回すなどの場面も見応えがあったが、3人が同時演奏する時が大迫力であった。前方にあるから他の楽器が聞こえないほど。当たり前だが息もピッタリ。ドラマーの動きに注目せざるを得ないので後方のメンバーもついかすむ。CDではよくわからなかった3人ドラマーの意義はライブバンドとしての活動の中で大きく生きていることがわかった。(Porcupine Treeのドラマーでもあったギャビン・ハリスンが、私の方に近い位置にいたのが密かに嬉しかった。実はCDを何枚か持っている。)フリップ氏は往年の座った姿勢をほとんど崩さず、とても大きなラック1台分のエフェクターを前に黙々と弾き続ける。キャメル以来2度目のご対面となるメル・コリンズのフルート&サックスの演奏も相変わらず凄い。そしてセットリストは初期の作品もたくさん聴かせてくれた。特に「宮殿」からは4曲。メロトロンを模したキーボード・サウンドがアルバムを重厚に再現する。だが、期待していた「リザード」からの曲はなかった。「ポセイドン」や「アイランズ」からも1曲のみ。これは残念だった。残念ついでに言うと、2階席は音が悪かった。前列のトリプル・ドラムの音が先に来て、後列の楽器の音が聞こえづらい。隣の席の方も楽器の音、あまりきれいに聞こえてきませんよね、と言っていたほどである。PAスピーカーの向きが関係しているのだろうか、中央の席ではどうだったのか?だが、終演後階下に降りる列の中で、感動した、来て良かった、と話している人達がたくさんいたし、インスタグラムの投稿でも、音も最高で素晴らしかったという声が多数上がっていたので、やはり場所の問題だったのか、加えて高齢化した私の耳の問題だったのかもしれない。
クリムゾンの来札は実は2回目のはずである。80年代クリムゾンのメンバーで確か84年くらいに来ている。たまたま私は東京に遊びに行っていて神奈川でのライブを見に行った。その時には古い曲は「レッド」と「太陽と戦慄Pt.2」くらいで、「21世紀の…」はぜひ聞きたかったと思ったものだが、その気持ちは今回のアンコールで解消された。リザードの曲は初日の東京では演奏されたそうだから多少の残念さはあったものの、全体的にはプログレッシブ・ロックバンドとしての「迫力」と「叙情」に満ちた希有で思い出に残るライブだったと言えよう。
なお、この公演の模様をインスタグラムに投稿したらドラムのパット・マステロット氏より「いいね」を頂いた。たくさんの人が同じ状況にあるようで、マステロットの気さくさに触れクリムゾンがより身近になった気がした。
<関連記事> LIVE IN CHICAGO / KING CRIMSON
本作は昨年10月リリースの2枚組ライブアルバム。次から次へとライブ盤がリリースされるクリムゾンだが、私がこれを購入したのはアルバム「リザード」からの曲が演奏されているからである。ここで述べたように私はリザードが大好きであったが、どうもロバート・フリップ氏はこのアルバムに良い印象はなかったようで、私の知る範囲ではベスト盤に曲が選ばれたりライブで演奏されることもなかった。ところが、2016年からセットリストに入るようになり、その音源を聴くことでできるのがこのアルバムなのである。CIRCUSとTHE LIZARD SUITEが演奏されており、後者は「夜明けの歌」〜「戦場のガラスの涙」〜「ルーパート王子の嘆き」をメドレーで聴くことができる。「サーカス」ではアコギのパートが聴かれ(だれが弾いているのか?)るなど、オリジナルのアレンジの再現が図られており、それは組曲の方も同じでなかなか楽しむことができた。リザードの録音に参加したメル・コリンズがここで演奏しているのもプラスの要素だ。また、4作目のタイトルトラックである叙情的な名曲Islandsもまさかの演奏だ。こうした選曲はキーボード奏者Bill Rieflinがバンドに加わった(復帰した)ことから可能になったのかもしれない。だがメロトロン・サウンドの洪水だったファーストアルバムからは1曲のみで、エピタフや宮殿は披露(収録?)されていないのはやはり残念。
ところで、クリムゾンは今年で結成50周年となるそうだ。そのクリムゾンが8人編成のまま今年来日する。そして嬉しいことに札幌公演も予定されている。この10月に新しくオープンする「札幌文化芸術劇場hitaru」が会場だ。こけら落とし公演のオペラ「アイーダ」は即完売で、当分行く機会もないかなと思っていたら何とクリムゾンのライブで実現することになった。札幌は12月2日。ライブも楽しみ(私にとって80年代ディシプリン期の来日公演以来2回目)だが、この会場もとても楽しみである。