ヒロヒコの "My Treasure Box"

宅録、DAW、ギター、プログレ、ビートルズ、映画音楽など趣味の四方山話

ジェネシスのアナログ盤 from genesis to revelation「創世記」

2016年07月31日 | プログレ
 この1作目の紹介が最後になってしまった。写真のように国内盤でブリティッシュロック秘蔵盤シリーズの一枚として76年に発売になったものである(キング・レコード SL281 ¥1,800)。たかみひろし氏編集・大貫憲章氏解説による本シリーズの解説が別途付属。「幻惑のブロードウェイ」が既にリリースされている時期にバンドの歴史を紐解くように日本でも紹介されたと記憶している。ジャケットがいろいろなヴァリエーションに変化し発売されたようだが、おそらくこの真っ黒ジャケがオリジナルと同じだろうと思う。

 こうして小品が並ぶファーストからなぜ2作目のトレスパスのようなサウンドに変わっていったのだろうかと単純に思ってしまう。いや、2作目以降も確かに短くまとめられた私好みの曲もあるのだが、ほとんどが大作志向である。本作には全17曲が収録され、フォークロック的な作品が並ぶ。曲によってストリングスやホーンセクションが導入されている。また12弦ギターが使われバックコーラスが入るのは次のTrespassでも同様。その中特に注目したいのは、ゲイブリエルの声。これは変わらない。エコー(リヴァーブ)が大きくかかり、ソフトに歌う傾向があるがその後のジェネシス・サウンドを担う予兆を感じさせるほど表現力豊かで存在感がある。このキング盤には歌詞カードがついていてイラストが描かれているのも実はプログレバンド的な雰囲気を醸し出していると思う。彼らの壮大な歴史がここから始まったことは間違いないのである。


ジェネシスのアナログ盤 Invisible Touch 「インビジブル・タッチ」

2016年07月28日 | ミュージック
  
 私がアナログ盤で所有するアルバムはこのInvisible Touchまでである。次作のWe Can't DanceはCD時代に入っていてCDの方を購入した。大ヒットしたタイトル曲については、歌詞も含めて典型的なヒットソング志向の曲作りがなされたのではと思うのだが、それにしてもジェネシスがヒットチャートに上りPVも頻繁にテレビで見られることになるとは。しかし、他の曲、例えばTonight Tonight Tonightにはプログレ的な雰囲気が残るし、Throwing It All Awayは美しいメロディーと独特のコード進行を持ち、ジェネシスらしい大好きな曲である。今改めて見るとアルバムのほとんどの曲がシングルカットされ(含カップリング)、ビッグネームのバンドになったのだなと感慨深くなる。

 そして忘れられないのがこのアルバムのツアーで2回目の来日公演があったこと。前回も触れたことだが、こちらに記載したように2公演を北海道から見に行った。良かった。演奏も良かったがそれを盛り上げるバリライトも良かった。メジャーバンドとして全盛時の彼らを生で見られたことはラッキーだった。そんな時代の最後?のアナログ盤である。

 なお、最近のアナログ・ブーム再来のお陰か、ジェネシスのLPが再発される模様。正確には何度か再発されているので再々々発かもしれないが、アマゾン・ジャパンのリストを探ると、ライブ盤以外は全作がそろって2016年盤としてリリースされるようだ。音源等の詳細はわからないが、通常の流れだとリマスターされたものかニュー・ミックスがアナログ化される場合が多いのでオリジナルの音源の復刻ではないだろうと思う。しかし、きれいなジャケット欲しさでそのうちの一枚、A Trick Of The Tailは一応予約を入れている。現物を見て詳細が判明すればここで報告したい。

ジェネシスのアナログ盤 GENESIS 「ジェネシス」

2016年07月27日 | プログレ
 はじめてバンド名をアルバムタイトルとした83年リリース作。それだけ当時のバンドの姿に自信と誇りがあったのだろうと思う。

 実はその当時、新生イエスがほぼ同時に新作90125をリリースし、私は1曲目Owner Of The Lonely Heartを聞いてその素晴らしさにぶっ飛んでしまった口なのである。友人からもジェネシスとイエスの新作、どっちが良い?と聞かれて即座に「イエス!」と答えたことをよく覚えている。ジェネシス・ファンを誇示してきた自分としては大変不本意な出来事であった。しかし、イエスの新作はギターがトレヴァー・ラヴィンに交代してサウンドがよりタイトになり、また収録されている曲も素晴らしく良かったから無理もないと思う。紛れもなくロックなアルバムであった。一方GENESISの方はMamaやHome By The Seaなどプログレぽい曲もあるが、That’s AllやB面のIllegal Alien 以下4曲はほぼポップな曲調でイエスの新作とは質が違うと、私としては煮えきれない思いで受け止めていたのが事実だ。当時ソロでフィル・コリンズは「恋はあせらず」をヒットさせていたという先入観もあったかもしれない。

 しかし、それは当時の思いであり、今改めてこのアルバムを振り返ると、彼らの2度目の来日公演と印象が重なってくる。87年、インヴィジブル・タッチ・ツアーによる武道館ライヴのオープニングはMamaだった。メンバーの登場前からあのオートメーション工場のような独特のリズムが流れ、曲が始まるとフィルの独特の歌い回しとバリライトの動きによる絶妙のライティングで一気に彼らの世界に引き込まれた。それだけの力を持つ曲だったのである。Home By The Seaも縦横無尽に動くバリライトが効果的に使われ、曲の良さを引き出していた。ちなみに幽霊を扱ったこの曲の歌詞は初期の怪奇趣味を思い出させ、単なるポップ・ロック・バンドではないことを示している(と今思った)。自身のスタジオにてヒュー・パジャムをエンジニア兼共同プロデューサーに迎えて制作した最初のアルバムで、3人がセッションしながら創り上げた曲も多いと聞く。全曲のクレジットは3人の連名だ。メンバーのコンビネーションがひとつのアルバムを成したという意味でストレートにGENESISとアルバムを名付けたのだろう。
 
 手元のレコードはUS盤。シングルジャケットで、それまでとは違う雰囲気のデザイン。インナーの袋に歌詞が印刷されている。当時国内盤よりいち早く市場に出るのが輸入盤だったが、あまりUK盤は見なかった気がする。最近イエスの盤で聞き比べた結果、落ち着きのUK盤、迫力のUS盤と感想を持ったので、これはこれで良いのではと思う。実際改めて聞いてみるとベースの音が響き重量感あるサウンドだ。当時大きな話題となったゲート・エコーによるドラムがアナログ・サウンドの中で心地よい。


ジェネシスのアナログ盤 Three Sides Live 「スリーサイズライブ」

2016年07月25日 | プログレ
 ジェネシスとして3枚目のライブ盤。前2作のアルバム曲を中心として行われたアバカブ・ツアーを収録している。後に映像版がリリースされ、本ブログのこちらで紹介した。社会人となって北海道の郡部にいた私は、仕事の忙しさもありすっかり音楽に疎くなっていて、時々札幌に出かけてレコードショップを回る程度だった。そういう中でこのUS盤を見つけて購入したはず。

 前ライブ盤のSeconds Outと比べてとてもシンプルなジャケットで中の写真も一場面のみ。インナーもAtlanticの文字が入っているだけで、あまりファンを喜ばせるように見えないつくり。おまけにタイトルの意味でもあるライブ音源はA~Cの3面のみで、D面にはアルバム未収録のスタジオ曲が並ぶ。何だか中途半端な作りのライブ・アルバムという印象だった。しかしながら来日時と同じメンバーによるライブ演奏は素晴らしく、特にオールドソングとして演奏されているIn The Cage~Cinema Show~Slippermen~Afterglow のメドレーは昔からのファンも納得の新たな展開だった。

 映像版が出るとどうしてもそちらに重きを置いてしまうが、途中でカットや編集されている部分もあるので、フルに曲が聴けるという点では本作がライブ作品としての価値が大きいと思う。

ジェネシスのアナログ盤 abacab「アバカブ」

2016年07月22日 | プログレ
 1981年発表、トリオになってからの3作目である。当時はパンクロック台頭でプログレ・バンドは衰退の傾向だった。私も社会人になってバンド活動を離れ、少し音楽に疎くなっていた時期である。しかし、ジェネシスだけは注目し続け、このアルバムも国内発売と同時に購入。タイトルが意味不明だったが実はabstract(抽象的)の変形造語であること、ジャケットの配色が4種類あることなどでも話題になったが、今回もポップな傾向が増大した中にプログレ的アプローチのサウンドも聞かれる作品となっている。

 とりわけタイトル曲のAbacabとDodo/Lurkerの2曲はインストルメンタル部分もあり、プログレバンドとしてのジェネシスを感じさせる曲である。シンセソロが重厚で歪んだ音色に変わっていて叙情性は薄れたが、テクノ風のリズムとノリが新鮮であった。しかし何と言っても特徴的なのがNo Reply At All でのホーンセクションの導入、Me and Sarah Janeのレゲエ・リズム、そしてニューウェイブ的なWho Dunit? やKeep It Darkなど新境地を拓いていることである。フィル・コリンズのソロ活動での成果がバンドに強くもたらされたという側面もあるだろうが、トニー・バンクスやマイク・ラザフォードの作曲への新たな一面が開花し、バンド・サウンドに化学反応を与えたと見たい。私はMe And…の中間以降の展開に彼ら特有の美しさを感じ、親しみやすいメロディとゲートリバーブのスネア音が印象的なWho…も大好きな曲である。前作同様英国1位となり、新たなジェネシス・ファンも得たのだろう、アメリカでも7位に入り、シングルカットも4曲されたそうだ。

 国内盤では解説と英語の歌詞が掲載されているが、前2作まであった和訳がなくなった。一部分エンボス加工処理がされているジャケットも、他の色違い3種を集めることにも至らず、未だその実態を把握していないのがファンとしては恥ずべき実情ではある。しかし「3人が残った」以降の3作品の中では実は一番好きなアルバムなのである。

ジェネシスのアナログ盤 DUKE 「デューク」

2016年07月19日 | プログレ
 1980年、学生時代に大学生協で買った国内盤である(日本フォノグラム・カリスマレコード RJ-7655 ¥2,500)。まずはゲートフォールドのジャケット、外も中もコーティングがなされた豪勢な作りであると同時に、描かれているイラストや文字が非常にポップな雰囲気である。フィル時代のジェネシスのアルバムでは1、2を争う素晴らしいジャケではないだろうか。CDではなくLPサイズで持っていたいと思わせる作りである。

 曲においても徐々にポップ化路線を進行させている状況が感じられる。3から5分程度の短めでいわゆるシングルカットできそうな曲が全12曲中7曲ある。一方、従来のプログレ路線を踏襲した曲も併せ持つのがこのアルバムの特徴だ。オープニングの長尺のインストルメンタル・パートを含むBehind The LinesからDuchess 、Guide Vocal、変則拍子のTrun It On Againを間に挟み完全なインストルメンタルのDuke’s travels、 Duke’s Endへの流れはジェネシス・ファンとしては彼らの力量を再認識するに充分なものである。ジャケットの人物がDukeだとすればイラストとも連動しているのだろう。さらに、初来日時に贈られたと言われるローランドのリズム・マシーンを導入し、テクノ的要素が加わったことも見逃せない。これらを総合すると、新たにプログレ・ポップというジャンルで呼びたいほどの作品だ。当時プログレバンドを結成していた私はこのアルバムからの曲を演奏したいとメンバーに提案したものだ。結局採用したのはDuke’s Endのみだったが、この曲もBehind The LinesとTurn It On Againをミックスした、つまりアルバムの曲を再現した終曲でジェネシスらしい構成となっている。ちなみにジェネシスは2007年、ロンドンのウェンブリー・スタジアムで開催されたEarth Liveに登場したが、その時Behind The Linesの歌なしヴァージョンからDuke’s Endに繋がるメドレーを披露している。そのようなアレンジもなかなか良いなと思ったのでぜひ一聴を。YouTubeサイトへリンク

 本アルバムのリリース前にトニー・バンクスとマイク・ラザフォードはそれぞれソロ・アルバムを製作した。そしてフィル・コリンズはここで本格的に曲作りに関わるようになり、直後ファースト・ソロアルバムを制作し、世界的ビッグアーティストになっていく。このDukeも英国で初の1位となったアルバムだが、その意味では将来のアメリカでの成功が垣間見えるアルバムでもあるのだ。


ジェネシスのアナログ盤 THE STORY OF GENESIS 「ジェネシス・ストーリー」

2016年07月16日 | プログレ
 前回78年の来日記念EP盤を紹介したが、このアルバムはやはり来日記念盤として来日後の12月20日に発売された日本独自の2枚組ベスト盤である(日本フォノグラムSFX-10061~2)。TrespassからAnd Then There Were Threeまでのアルバムから選曲されている。事前の宣伝チラシには選曲をジェネシス自身が行ったこと、自叙伝をフィル・コリンズが書いていること、そして先着3万名のみ8ページから成るアルマンド・ガロ特撮のカラージェネシス・ストーリーが付属することが明記されていたのだが、結局フィルによる自叙伝は実現していなかったし、8ページのブックレットも写真集であった。私としては全てのアルバムを持っていたので改めて買うまでもなかったのだが、そのブックレットには魅力を感じたことと、やはりファン心理として出たものは手元に置きたいということで多少高価だったが購入した。

 まず選曲についてはKnife ~ The Musical Box ~ Watcher Of The Skiesと、セカンドからの3アルバム代表曲がA面に並んでいる。これは妥当なところだろう。ところがB面にはSupper’s Readyが収められた。これによって他の曲が入る余地が時間的に制限され、結局「月影の騎士」や「幻惑のブロードウェイ」からは各1曲のみ。以下、「トリック・オブ・ザ・テイル」から3曲、「静寂の嵐」から2曲、最新の「そして3人が残った」から2曲という構成になっている。長尺の曲に代表曲が多いというジェネシスの実情からベストを構成するのは悩ましいことだろうが、時間的にはピーター・ゲイブリエル在籍時の曲の方が2面+1曲と長くなった。

 ジャケットやブックレットのステージ写真が目を引く。鏡に反射した光がスモークの中で様々な方向に走っている。来日公演では厚生年金ホールや中野サンプラザという彼らにとっては小さめの会場だったため鏡は使われなかったが、もっと大きな会場だったらこうなっていたのかと、皆期待に胸が躍ったことだろう。そしてブックレットの中にはゲイブリエル在籍時代の、それも花や箱をかぶったパフォーマンス姿も取り入れており、なかなか楽しめる構成となっている。

ジェネシスのアナログ盤 And Then There Were Three 「そして3人が残った」+EP盤

2016年07月14日 | プログレ
 私のジェネシスへの特別な思い入れは、今振り返ってみるとハケット先生が脱退した時点で区切りが入る。後任のギタリストを補充せず3人体制になってからの彼らはポップな味付けをしながらメジャーバンドへと進化する。しかし決してプログレ的要素が皆無になったわけではなく、新しいタイプのジェネシスへと変化したと私は思う。

 その変化を感じた第一弾がAnd Then There Were Threeというバンドの状況をニヒルにタイトルに表した78年発表のアルバムだ。「そして3人でもやっていける」という状況において、ハケットの抜けたギター・パートをラザフォードがどのように穴埋めするのか期待は膨らんだ。しかし音色は似せた感じがしたが当然ながらハケット先生のような独特のフレーズは聞かれない。だから多少の違和感があったのは事実だ。さらに、キーボードについて言えば新たに導入されたYAMAHA CP80というエレクトリック・グランドピアノの独特の音がアルバム全体のサウンドを特徴付けているように思う。しかし曲は実にバラエティに富む。変則5拍子で始まるDown And Outは途中のシンセソロも含めて往年のジェネシスらしい一曲だが、ミステリアスな雰囲気のThe Lady Lies、物語風のSay It’s All Right Joe、などジャケットの暗い雰囲気を感じさせる曲から、ドラマチックなThe Burning Rope、そしてFollow You Follow Meのようなキャッチーなポップ・ソングなども。12弦ギターが使われ、UndertowやSnowboundは美しいバラードだが全体的に叙情性が少なくなり、短くポップな曲調が増えた。何せ3分台の曲が3曲もあるのだからプログレ一本道のジェネシスを期待した私は、本来ならこのアルバムは聞き流していたかもしれない。

 ところがここで一大事が発生する。1978年ジェネシス初来日である。これは本アルバムのツアーだった。チケットを何とか手に入れたことはこちらで述べたが、そのライブで味わったこのアルバムの曲が、新加入ツアー・ギタリストのダリル・スターマーの高度なテクニックやチェスター・トンプソンのファンタスティックなドラムの味付けによりとても素晴らしい感動を与えたのだ。自分の中でこのアルバムは再評価され、初来日公演の思い出と共に深く印象に残ることとなった。

 当時大学生協ではレコードが2割引で売られていた。従ってこのアルバムも生協で購入し、手元にあるのは国内盤である。ジェネシスのアルバム・ジャケットにはイラストが用いられることが多いが、「幻惑のブロードウェイ」に続いて今回もヒプノシスによる写真ジャケットである。帯の色合いがそれにマッチしており、当時ジャケットのアート性を損なう気がして帯を取り外すことも多かった私だが、これはずっとそのままにしておいた。

 併せて来日記念盤として3曲入りシングルがリリースされた。A面はアルバム収録のMany Too ManyだがB面には未収録の2曲(The Day The Light Went Out / Vancouver)がカップリングされており、それらを聞きたくて買ってしまった1枚である。

祝10周年!サッポロ・シティ・ジャズ 2016 「寺井尚子クインテット」

2016年07月11日 | ミュージック
 今年も恒例のサッポロ・シティ・ジャズ・エゾ・グルーヴが9日から始まった。ちょうど10回目を迎えたそうだ。4月の転勤で地元に戻った私は今回2公演のチケットを購入し、早速10日にはそのうちのひとつである寺井尚子クインテットのライブに行ってきた。

 まず今年から座席指定での事前購入となったことが非常にありがたい。過去3回ほど足を運んだのだが、今まではチケットを購入し、座席の方は当日入場順に選ぶ方式だったので、良い席を取りたい時は真夏の暑い中外でじっと待つことを余儀なくされた。あれは辛かった。そして今回は初めて2階席を取ってみた。これが中々良かった。会場はテント型の建物だが、それほど広くなく2階からでも充分アーティストの姿を目の当たりにすることができる。そしてテーブルがすぐ目の前にあるので、飲みながら肘をつきながらじっくりライブ演奏に耳を傾けることができる。正面から臨む席は千円ほど高いのだが、その価値は充分あると判断した。

 さて、寺井さんのライブは2010年にも行ったのだが、もともとジャズ・ヴァイオリンの好きな私は、その時の超絶な演奏にすっかり魅了された。その印象が強かったので今年足を運んだわけだが、今回はあの時ほどの迫力は感じなかった。逆に静かにしっとりと聞かせる曲、例えばドビュッシーの「月の光」やアンコールで演奏した「スマイル」などが心に染み渡った。こうした印象だったのは、前回から6年も経っているので自分が歳を取ったということなのかもしれない。バンドの編成はピアノにベースとドラムス&パーカッションとリズム隊が強化された編成で、特に佐山雅弘氏の弾くピアノは繊細さと力強さを併せ持ち、寺井さんのヴァイオリン・プレイをしっかり支えていた。セット・リストの中ではReturn To Forever時代のチック・コリアNO MYSTERYを取り上げていたのが私としては嬉しく、また聴き応えがあった。

 次の公演は月末に予定している。すっかり夏の風物詩となったSAPPORO CITY JAZZ。札幌はまだ夏を感じさせない気温だが、その頃には「熱い」ライヴとなってほしいものだ。

ジェネシスのアナログ盤 SECONDS OUT 「幻惑のスーパー・ライヴ」(2枚組ライヴ盤)

2016年07月10日 | プログレ
 1977年、ジェネシスの次作はライブアルバムだとのアナウンスがなされ、それはとても楽しみなこととなった。フィル・コリンズがフロントマンにシフトしてから2枚のアルバムをリリースし、どちらもとても素晴らしい内容だったこと、そしてそれらの曲やゲイブリエル時代の曲をどのようにライブで演奏しているのか、ということなどに期待は膨らんだ。そんな中、2枚組のこのアルバムが発売され、私はいち早く店頭に並んだ輸入盤(UK盤)を購入。中には両面に写真やパーソネル等の記載のある厚手のインナーが2枚、別にレコード収納用のインナーが付属している。

 オープニングがSquonkなのは意外だった。もっと華々しく始められる曲があるだろうにと思ったが、実はこの曲結構最初からノれることに気がついた。スタジオ版ではフェードアウトだったがエンディングが加味されそれもカッコイイ。だからこの曲も自分のバンドでコピーをすることに(そしてこれも歌は難しかった!)。Cinema Showもエンディング付きになったが、逆にFirth Of Fifthはイントロなしの演奏。現在のハケット・バンドではこのイントロも完全再現しているが、当時の機材なら仕方がないのかも。これも我がバンドでイントロなしヴァージョンでコピー(ただし私のフルートは演奏)。The LambからMusical Boxへのメドレーもライブならでは。それはDance からLos Endosへの繋がりにも言える。この流れはその後定番化する。

 中でも一番のハイライトはSupper’s Ready。この一曲を聴くだけでもこのライブ盤の価値はある、それほど素晴らしい演奏である。フィル・コリンズのヴォーカルも表現力豊かだが丁寧に歌い込んで安定感がある。支えるバックの演奏は完璧。サポート・ドラマーのチェスター・トンプソン(一部ビル・ブルフォード)の参加により、所々で聞くことのできるツイン・ドラムはこのライブの売りの一つで、それぞれの高度なテクニックで違った演奏を同時にきかせるところに凄さがあるのだが、この曲の後半部分、Apocalypse in 9/8 でのチェスター&フィルのコンビネーションが素晴らしく、スリリングなオルガンソロを盛り上げている。

 その2人のドラムスはラストのLos Endosでの盛り上がりにも拍車をかける。この曲は終盤Squonkのフレーズが流れることから、実は1曲目とつながっている。ライブとしての全体の統一感が図られていたわけだ。(実際にはD面最後に会場内に流れた「ショウほどすてきな商売はない」がライブの締めとなるのだが、その後のCD化の際にはオミットされてしまった?)

 ということで本作は申し分のない名ライブ盤である。これに彼らが力を入れていたジャケ写真のようなライティングが加わる場面を実際に見ることができたら、どんなに良かったかと思いを馳せたものだ。ところが、この後、確か初来日の時期だったと思うが、神奈川のローカル・テレビ局の音楽番組がこの時代のライブを放送したのである。ライティングも含め私はジェネシスの動く姿を初めて見て歓喜した。そしてその時フィルが身体全体を使って歌の表現をしていることに衝撃を受けた。そういえば、I Know What I Like でタンバリンをたたく音と聴衆の盛り上がりを聞くことができるが(インナーケースに写真も)、積極的なパフォーマンスを行っていたことを実感し、その後の自分のヴォーカル・スタイルの参考にしたものだ。

 さて、後年振り返ってみると、私のジェネシスへの特別な思い入れは一度ここで区切りをつけることになる。


ジェネシスのアナログ盤 Wind & Wuthering 「静寂の嵐」

2016年07月07日 | プログレ
 76年リリース。ジャケットの色合いのせいだろうか、全体的に地味な印象を与える本アルバムだが、収録された曲には名曲が多い。1曲目のEleventh Earl Of Marはプログレ・バンド少年のコピー魂を煽る要素満載で、実際私の学生時代のバンドもこの曲を演奏した。一番大変だったのはヴォーカルだろう。担当したのは私だ。何せキーが高くて声が出ない、物語を語る歌詞も長くて覚えづらいなど苦戦を強いられた。全く役割を果たせなかったが、他のメンバーの演奏力は凄かった。録音したテープを聴くと今でも鳥肌が立つ。話しがそれたが、この曲はジェネシスの78年初来日公演でオープニングを飾ったことも忘れられない。他にもフィル時代では初の物語風楽曲のAll In A Mouse’s Night、ハケットのナイロン・ギターとメロトロンが 夢見る気分にさせてくれるBlood On The Rooftops、 その後のライブの定番Afterglow 等の名曲が並ぶ。12弦ギターがバッキングでアルペジオを奏で空間的な広がりを感じさせるWot Gorilla? も好きで、ぜひバンドでやりたかった曲である。

 このアルバムではローランドのストリング・シンセサイザーが使われており、メロトロンとは違ったシャープなストリングス・サウンドを奏でているのも本作の味付けの一要素と思う。キーボードの進化は著しく、次作ではヤマハのCP80エレクトリック・グランドピアノが登場、そしてシンセサイザーはこの後ポリフォニック化され、バンドのサウンドも大きく変わっていくことになる。

 手元のアナログ盤は国内初回のものと、UK盤の2枚。UK盤を入手するまでジャケットが薄いエンボス加工であることと、色のついた歌詞付きインナーが付属することを知らなかった。国内盤はこの頃もオリジナルに忠実ではなかったということだ。しかし、このアルバムで初めて歌詞の対訳がついたので、楽曲の理解を深めることができた。

 さて、特に触れるべき曲がある。この時期に録音された Inside And Out である。これが実に良いのだ。アルバムには収録されず3曲入りEP盤としてリリース(写真はカナダ Atlantic EP1800 青色ディスク)された。前半の12弦ギターによるバラードは美しく、後半アップテンポに変わりシンセやギターソロが入るところもスリリングでカッコイイ。特にハケット先生のギタープレイは特筆に値する。当時のブートレグを聞くとライブでも演奏していたようだ。ジェネシスらしい曲でお勧めである。

 そして、ハケット先生がスタジオ録音盤に参加したのはここまで。彼の脱退によりその後のジェネシスは違ったサウンドを作り上げていく。

ジェネシスのアナログ盤 A TRICK OF THE TAIL 「トリック・オブ・ザ・テイル」

2016年07月06日 | プログレ

 「幻惑のブロードウェイ」は当時の混沌としたバンド状況の中で産まれたまさに奇跡のアルバムだったと私は確信する。しかしその後、ピーター・ゲイブリエルが脱退するというとてもショッキングな事態が発生し、その出来事を乗り越えて作られた A Trick Of The Tailもまた奇跡のアルバムであった。私自身もピーターという看板シンガーがやめた時点で、正直ジェネシスは終わったと思っていた。音楽評論家の立川直樹氏もこのアルバムの解説で「ピーターを失ったジェネシスはそのまま崩壊してしまうのではないかと思った」と述べている。当然期待しないで、つまり全く買うつもりもなく店頭でこのアルバムを試聴したのだが、2曲目が終わった時点でもう買うことに決めていた、それほど衝撃的(良い意味で)なアルバムだったのだ。その詳細についてはこちらで触れている。

 手元にあるのは国内初盤で、シングルジャケットに歌詞カード付き(RJ-7082)。バンド存続の安心感と内容の素晴らしさに満ちた私にとって記念するべき愛聴盤だが、音的には音圧も高くはなくおとなしい印象。バランスの良いサウンドというのが妥当か。ヒプノシスが担当したジャケットのイラストが各曲とリンクしていて、お伽話的な別世界の雰囲気を加味している。そのジャケットだが、後にオリジナルは見開きで、イラスト入りのインサートが付属していることがわかり、その入れ物欲しさに後発プレスのUK盤を入手した。今後再プレス盤が発売されるようで、オリジナル・ジャケットの復刻とリマスター(あるいはリミックス?)のアナログ化であることを期待し予約を入れている。フィル・コリンズ時代のアルバムではこれが一番好きだという気持ちは今も変わらないのである。

ジェネシスのアナログ盤 The Lamb Lies Down On Broadway 「幻惑のブロードウェイ」

2016年07月01日 | プログレ

 すっかりジェネシス好きになってしまった私にとって、次のアルバムは心待ちだった。76年、とうとうその時が来たことを知ったのは当時NHKラジオで渋谷陽一氏がDJだった「若いこだま」?(記憶が定かではない)という番組で彼らの新譜が紹介された時だった。そのアルバムがThe Lamb Lies Down On Broadway「幻惑のブロードウェイ」であり、オンエアされた曲がThe Lamia「ラミア」だった。2枚組の大作からなぜこの曲が選ばれたのかはわからないが、結局この曲は私にとってアルバム中1、2を争う大好きな曲となるのだからその時ラジオに引き込まれたのは当然であった。そして即座にこのアルバムを手に入れたく思ったのである。その結果、音楽雑誌に広告が出ていた東京のレコード店の通販を申し込んで何とか購入したのであった。

 届いたレコードに最初に針を落とした印象は、「何だ、このノイズは?」だったことを今でも覚えている。無音部分にブーンという音が小さく入るのである。音楽が始まると目立たなくなるが、どうも全体的に鳴っているようだった。このことについては文藝別冊「ジェネシス〜幻惑のシンフォニック・ロック」中の記事で井上 肇氏が指摘している(p.172)。「残念なのは全編に渡って50HZのノイズ(低レベルではあるが)が混入していることだ…」。自分の買ったレコードだけがそうなのかとも思っていたが、やはりそれは違ったようである。しかし、そんなことも忘れさせるくらい、新作の音楽は中身が濃く、また感動的な内容であった。ジャケット内部にぎっしりと書かれた英文(当時は全く意味不明)、それまでのファンタジックな、あるいは中世的な印象とは全く違う写真構成のジャケット、イギリスではなくアメリカを連想させるブロードウェイというタイトル。従来のイメージを打ち破るニュー・アルバムだったが、次々と流れてくる楽曲はやはりジェネシスそのもので、ハードな曲から美しい曲まで全く違和感がなかった(いや、正確に言うとC面のThe Waiting Roomだけは異質だったけれど)。カセットテープにダビングして何度も聴いたものだった。

 その手元のLPはUK盤(CGS101)でマトリクスは4面全て2U。久しぶりに針を落としてみるがあの時熱中した記憶が蘇る。08年DVDの5.1ミックス盤の本作は当時のライブを再現したと思われる3面スクリーンのスライドを同時に見ることができ、この作品に新たな印象と解釈を与えてくれた。アナログ盤も良いが主人公ラエルの物語を切れ目なく体験することができるそちらのヴァージョンも気に入っている。

 なおジェネシスがBBC(かキング・ビスケット・アワー?)の番組用に本アルバムからの数曲を録音したライブ音源(Wembley Arena, London, UK, April 15 1975)がかつてNHK-FMで放送されたことがあるが、大変クォリティの高い演奏であった。ゲイブリエルの歌の表現力がさらに豊かになっていて、例えば COUNTING OUT TIME の一節 “Erogenous zones I love you” での喉の奥から叫ぶero~の歌い回しなどは最高である。また、演奏も一糸乱れない完璧さで物語を支える。SILENT SORROW IN EMPTY BOATS というアンビエント風の静かな曲もこのライブを聴いてその良さを再認識したほどだ。今のところ YouTube のこちらでオーディエンス録音だが全編を聴くことができる。