ヒロヒコの "My Treasure Box"

宅録、DAW、ギター、プログレ、ビートルズ、映画音楽など趣味の四方山話

ザ・ビートルズ Get Back を見て

2021年11月28日 | ザ・ビートルズ

 ザ・ビートルズのGet Back(Disney+チャンネル)を見た。1969年1月の約1ヶ月にわたるセッションの膨大な記録を3本のパートに分けて構成したものとなっている。

   

   (ディズニー+公式チャンネルからhttps://www.disneyplus.com/ja-jp

 まずは50年前とは思えない映像の美しさ。丹念にブラッシュアップしたのだろう。全体で8時間ほどあるのだが、パート1は集まれば何とかなるだろう的見切り発車な内容のため、2時間半を見るのは辛いものがあった。だが、パート2に入り、特にキーボード奏者のビリー・プレストンが参加したあたりからバンドの雰囲気が変わり、俄然面白くなってきた。そしてパート3のメインはあの伝説のルーフトップ・ライブ。これが通しで見られるだけでもこの作品的価値は大きい。

 いくつか気のついたことがある。まず、かつての映画LET IT BEの印象から、このセッションはメンバーのエゴがむき出しになり暗い雰囲気に終始した、と思っていたのが決してそうではなかった。確かに意見の相違や一時的にジョージが脱退したなどのトラブル発生もあったのだが、クリエイティブな活動の中で異なった意見が出るのは当たり前である。それを乗り越え曲を仕上げるため悪戦苦闘・試行錯誤していた様子を知ることができた。時には真剣に、時にはユーモアを持って。その気になればメンバーが力を合わせ充分に成し遂げることができたのだ。だからこそ、次のABBEY ROADが産まれたのだろう。

 次に曲を仕上げる手順として、特に作詞に関してお互いに考えを出しながら進めていたことがよくわかる。レノン/マッカートニーとクレジットされていたのはそういうことかと改めて理解した。場合によってはジョージも自曲について「この後が思いつかなくて」などとメンバーに話していた。

 こうしたメンバーやスタッフとのやり取りは実はすでに公表されており、日本では青土社刊藤本国彦著の「ゲット・バック・ネイキッド」に詳しいとレコード・コレクターズ11月号のLET IT BE特集で紹介されていた。当然ながらその記事の記述とGET BACKは映像的に重なっている。

 パート3で紹介されるルーフトップ・ライブは直前まで行うかどうか迷っていたらしい。だからこそ事前の配慮するべき準備が何もなされていなかったのだろう、演奏が始まって騒音、治安妨害として2名の警察官がやってくる。彼らの氏名も紹介されていたが、職務上トラブルとして対処しなければならなかった彼らの毅然とした、そして少し困った表情が印象に残った。

 それにしても、このルーフトップライブには興奮した。ライブバンドとしてのビートルズの演奏力はさすがであった。そしてビリー・プレストンのピアノがそれに彩りを加え、最高の演奏を作ってくれた。周囲の人々の反応も面白かった。多分、旧作映画のLET IT BEを見た時にも思ったはずだが、改めて感じた次第である。だが、これだけの曲の録音素材がありながらも結局はしばらく放置されてしまうことになる。

 こうしたことが理解できるGet Back は長尺だった。古くからのビートルズ・ファンにはとても受けると思うし私は大満足だったが、リアルな彼らを知らない世代にはどうか。せめて2時間程度に再編集し、映画館で見たい人がだれでも見られるようになればさらに良いと思う。


A Momentary Lapse of Reason / Pink Floyd : ピンク・フロイド「鬱」リミックス&アップデート・ヴァージョン

2021年11月07日 | プログレ

 ピンク・フロイドが87年に発表したA Momentary Lapse of Reason(邦題「鬱」)のリミックス&アップデート・ヴァージョンが単体でリリースされた。19年に発売されたThe Later Years のボックスセットに含まれていた音源の単独発売である。

  

 このオリジナル版が発売された当時はまだレコードが主流で、私も輸入盤を購入していた。ロジャー・ウォーターズとの別離を経て残り3名がクレジットされた(厳密にはリック・ライトはゲスト参加)新生ピンク・フロイドのアルバムということで大変期待していたと思う。針を落として1曲目のSIGNS OF LIFEからフロイドらしいオープニングで、また全体的にギルモアの独特のギターサウンドが聴かれ充分に満足したことを覚えている。LEARNING TO FLYのような地味だと思われた曲も、後のライブ映像を見て改めて好きになったりしたものだ。

 今回のヴァージョンではニック・メイソンの新たなドラミングが加味され、またリック・ライトの使われていなかったキーボード・サウンドを復元したのが「アップデート・ヴァージョン」の意味らしい。実際どこがどのように変わったのか?これを判断するのはなかなか難しいと思ったのだが、試しにアルバム最終の曲で、私の大好きなSORROWを新旧で比較してみた。

 まず気がついたのはドラムのスネア音である。旧ヴァージョンでは深くリバーブがかけられており、これは80年代のロックサウンドでは必須な音処理であった。が、アップデート版ではそれが無くなり、生音のようなサウンドである。また、曲の終盤のキーボードが旧ヴァージョンではデジタルシンセがメインに聞こえるが、アップデートではオルガンがメインになっており、これは間違いなくリック・ライトの奏法である。ここだけで判断すると、80年代の打ち込み+デジタルサウンドが本来のバンドサウンドに変わった(戻った)処理をしていると思われる。実際、ニック・メイソンのインタビューを読むと、「リックの仕事の一部を改めて取り入れる機会を得たのも良かったね。(中略)バンド感を圧倒的なものにしてくれた気がする。このリミックスのメリットの1つがそうであるといいね!」と語っている。(SONY MUSIC https://www.pinkfloyd.jp/artist/PinkFloyd/info/532843

 アルバム・ジャケットの写真も変更されている。今ならこの砂浜に置かれている無数のベッドはCGだろうと思うかもしれないが、本物を使ったヒプノシスの作である。旧バージョンでは右奥に数匹の犬がいるが、新バージョンでは海水が流れ込んでいる別ショットが使われている。これもリアルな場面なのだそうだ。そして飛行機が大きく写し出されているのだが、旧作のジャケットをよく見ると奥の方に小さく飛んでいる。だが、今回使用されたのはそれではなく新たに撮影された機体とのことだ。オリジナルのアートワークを大胆に変えたことで、まさにアップデートの意味合いが深まっていると思う。

 なお、私が今回購入したのは輸入盤の1CDと2枚組のLPである。LPの方は180g重量盤でハーフスピード・カッティングの45回転仕様。当然のことながら音は抜群に良い。そして付属のブックレットも大きく見応えのあるものとなっている。