カーペンターズとしては17年ぶりの新譜である。当初このアルバムの情報は、過去に録音されたカレンの声に兄のリチャードが再編曲したオーケストラ・サウンドを新たに加味するというような内容だったので、声はそのままだけれどバックが違う別物作品としてリリースされるのだと思っていた。しかし実際に聴いてみるとそれは早とちりであった。曲のアレンジは基本的に変わらず、ストリングスやオーケストラの編成を大きくしたという。これはリチャードが当初抱いていた理想の仕上がりを実現したものだ。
リチャードがこのアルバムをあえて制作した意図は、付属のリーフレットに明記されている。「オリジナルの録音で重要な楽器が少し音が狂っていたり、曲によっては終わりの方でテンポが速くなっている」部分の修正、「CD化で目立ってしまった録音時に発生した雑音」「とりわけカレンのリード・ヴォーカルに紛れた空調音」などの除去、そして「長年温めてきた追加アレンジのアイデアを形にした」という。国内盤にある村岡裕司氏の解説では、オリジナル録音当時あまり予算がなくストリングス・プレーヤーの数にも制限があった実情が紹介されている。だからこそ今回のバックのサウンドはとてもゴージャスである。写真を見ても実に多くのプレーヤーが演奏に参加しているのがわかる。
マルチトラックのテープから音源を取り出し、デジタル処理により不要なノイズ等を除去しながらミックスし直すというのはビートルズのサージェント・ペッパーや最近のホワイト・アルバム、そしてスティーヴン・ウィルソンによる5.1チャンネル・サラウンド化されたキング・クリムゾンやイエスなどのアルバムなどがある。それらは録音されたオリジナルの素材音源を生かしている。しかし、このアルバムは演奏自体が差し替えられている(どの部分がそうなのか細かいところまではわからないけれども)ので、オリジナル・バージョンを聞き慣れた身としては、所々違和感を感じるところもあったが、我が息子によると、バスドラのもたつきがなくなっている(Top Of The World)とか、変なタムのフィルインがなくなっている(Close To You)など、ブラッシュアップされたカーペンターズの名曲を改めて聴くことができる。しかし何と言ってもカレンの歌が素晴らしい!過度なリバーブがなくなり、よりクリアになったその歌声は、まるで目の前で彼女が歌っているかのような気分になってしまう。カーペンターズは来年2019年にデビュー50周年を迎えるけれど、このカレンの歌声は永遠に残り続けるだろう。年末、ヘビーローテンションで聴いている一枚である。