ミステリー小説は相変わらず読んでいる。最近では海外物では「8つの完璧な殺人(ピーター・スワンソン)」「窓辺の愛書家(エリー・グリフィス)」。それぞれ意外な真犯人の設定と物語が映像的に次々と展開されている面白さがあった。だが、その手の小説を読んでいると古き良き時代の本格もの、即ち探偵がじっくり考えて真相を導き出すような作品が読みたくなってくる。そのような嗜好にピッタリだったのがアントニー・バークレイ作「最上階の殺人」(訳:藤村裕美 2024年2月刊)である。これは面白かった。
とある殺人事件の真相を暴こうと独自に調べ始める探偵ロジャー・シェリンガムだが、容疑者達と会いながら推理していく。本作の場合、彼の思考が物語中で適宜語られる。当然状況や新事実によってその考えが変わっていく。真相にたどり着くまでに探偵がどのように考えていくのかを読者は同時進行で知る。これが誠に面白い。そして、最後には真実はコレだと見なしたことが実は…、となるのである。なぜかシェリンガムの協力者となった被害者の姪との迷?コンビぶりもユーモアがあり楽しませてもらった。
もともとバークレイ作は「毒入りチョコレート事件」を以前読んでいたのだが、多重解決が語られる作品である。「第二の銃声」も写真の帯にあるように多重解決もの。バークレイはそうした展開が得意なようで今回の「最上階の〜」も同様の傾向があり、その意味でも楽しむことができた。お勧めである。
なお、「レイトン・コートの謎」も昨年発刊されたシェリンガムもので、こちらはワトソン役の友人を従え密室的な殺人に挑むのだが、真犯人の意外性にすぐれた作品である。