チック・コリアが亡くなった。大好きなジャズ・プレーヤーでありキーボード奏者の一人だった。自分と彼の音楽とのつながりを振り返りながら、哀悼の意を表したい。
中学生の時に聴いたReturn To Foreverがジャズに興味を持つきっかけだった。正確にはジャズ・フュージョンと呼ぶべきかもしれないが、プログレッシブ・ロックしか聴かない私にとって大きく心引かれるサウンドだった。エレクトリック・ピアノ、フルートそして女声スキャットが紡ぐラテン的バンドの音がとても心に残った。正確にはコリア名義のアルバムがR.T.F.だったそうだ。が、パーマネントなグループ活動となり次作のLight As A Featherもとても良かった。このアルバムでは特にタイトル曲が好きだが、作曲はスタンリー・クラークだと今アルバムジャケットを見て気がついた。彼のベース・プレイは光るものがあるが、作曲家としても才能を現していた。そしてドラマーとしてレニー・ホワイトやギタリスト、ビル・コナーズを迎えた新編成でロック色が強くなり、その後超絶ギタリストのアル・ディメオラが加入してアルバムNo MysteryやRomantic Warrior(ロマンの騎士)を出す。特にタイトル曲「ロマンの騎士」はテクニカルな奏法と美しさを持つ曲で、大好きだった。このテクニカルさによって、アルバム全体がプログレと言っても良いくらいだ。この4人バンドが散会したのは残念だったが、続くMusic Magicは自分が持つLPジャケットの中で一二を争うくらい美しいと思うアートワークで、曲も演奏も良い。チックの奥方であるゲイル・モランのヴォーカル(オルガンでも参加)が魅力的。
R.T.F.としては以上だが、ソロも好きな作品が続く。妖精、My Spanish Heart、そしてThe Mad Hatter。My Spanish...の1曲目Love Castleも大好きな曲で、G・モランのスキャットが美しい。このアルバムにはヴァイオリンのジャン・リュック・ポンティが参加している。妖精も良かったが、なんと言っても私はMad Hatterが気に入っている。発売当時にLPを買ったが、その後紙ジャケCDも揃えた。チックやスティーヴ・ガット、そしてゲスト参加のハービー・ハンコックなどの演奏は言うまでもなく、心に残る旋律、不思議の国のアリスをモチーフにしたトータル性が私のハートにドンピシャリだったのだ。今回改めて聞き直して、やっぱり良いアルバムだと思った。
そして私は過去に2回、チックの演奏を生で聴いている。最初は78年6月10日渋谷公会堂でのライブで、AN EVENING WITH CHICK COREA FEATURING GAYLE MORAN WORLD TOUR・13 PIECE BANDというタイトル。どんな曲を演奏したのか覚えていないのだが、弦とブラスが加わった圧倒的なサウンド、G・モランがほぼ中央にオルガンを前に鎮座していたこと、そしてチックがドラム・スティックを自分の鼻と唇の間に挟みながら登場するなど、最初からおどけた仕草をして会場内が大いに沸いたことはよく覚えている。
2回目はアル・ディメオラ期4人編成Return To Foreverの再結成ライブである。これは83年の札幌厚生年金会館。期待したライブだったが、何となく4人の息が合っていないような印象で、消化不良に終わってしまった。その後LIVE UNDER THE SKYに登場したライブがテレビやFMで放送されたのだが、その印象は変わらなかったのが残念である。
最後は少々辛口になってしまったが、シンセサイザーも巧みに使いこなし、私の人生において充分楽しませてもらったチック・コリアの音楽。手元の音源を並べてみた。LPもCDも処分してしまったのが何枚かあるのだが、逆に言うと外せない作品が残った。この中でlight as a featherのCDは2枚組で、別ヴァージョンの演奏テイクが収録されていて今も愛聴盤である。いつまでも心に残る音楽をありがとう、チック・コリア。Rest in peace.