ヒロヒコの "My Treasure Box"

宅録、DAW、ギター、プログレ、ビートルズ、映画音楽など趣味の四方山話

アナログ・コレクション: 帯付き国内アナログ盤アトール「夢魔」 ATOLL / L’ARAIGNEE-MAL

2018年02月24日 | プログレ
 以前にも日本のレコードやCD、本には帯がついていることに触れた。とりわけ海外アーティストによるレコードの国内盤「帯」は、日本人向けに作品の内容を一言で語る重要な役目を担っていると思われる。そこで、我が家の棚にある帯付き海外アーティストのLPを「ひとつかみ」紹介しようと思う。

 本日はフランスのロックグループ、アトールAtollの「夢魔」である。ヨーロピアン・ロックコレクション第2弾の1作としてキングレコードから79年に発売された。本作はアトールのセカン・ドアルバムで特にB面収録の組曲「夢魔」が素晴らしい。私は最初にこの曲を聴いたのは、以前紹介したFM東京の深夜番組「スペース・フュージョン」だったのではないかと思うのだが、とにかくフランス産の真にプログレな曲とその演奏力にノックアウトされた記憶がある。当然このレコードはすぐに購入した。

 アトールはVo,G,B,Key,Dsの5人編成である。このアルバムでは他にヴァイオリン奏者が参加し、テクニックと安定性のある演奏にさらなる表現力が加わっている。だが、何と言っても全編フランス語による歌唱が曲の摩訶不思議な雰囲気にとても合っているのである。ちなみにATOLLは環礁(環状に形成される珊瑚礁)のことでARAIGNEE-MALは「悪の蜘蛛」の意味。ジャケットのイラストと連動している。帯の紹介文は「イエスを超えたというフランスのNo.1バンド、アトール。この一枚を聴かずしてユーロピアン・ロックは語れない」。キングレコード洋楽制作部にいた?解説のたかみひろし氏の言葉かと思うが、私はそれほどイエスとの関連性を感じておらず、独自の叙情性と力強さを併せ持つオリジナルなバンドだと思う。しかし、聴かずして…は本当にそのとおり。特に組曲「夢魔」の冒頭は何度も耳にしたい美しさだ。

 それにしても70年代の終わりはこのようなプログレ作品がたくさんリリースされていたことに改めて驚く。ジェネシスが初来日したのが78年の11月、そして79年にはU.K.やキャメルが来日したからまだまだプログレ全盛の時だったとは思うが、そろそろパンクも台頭してきた頃ではなかったか。いずれにしても私にとっては良き時代の良き思い出の一枚である。
 (B面の演奏が終わった直後に、曲の最後の部分が一瞬不自然に繰り返し入るのが不思議。これはプレスミスなのだろうか??)

意外な犯人に驚いた!5冊のカー作品より

2018年02月18日 | ミステリー小説
 ジョン・ディクスン・カー「皇帝のかぎ煙草入れ」「緑のカプセルの謎」、カーター・ディクスン「ユダの窓」「貴婦人として死す」「かくして殺人へ」。創元推理文庫版によるカー作品5冊を立て続けに読んだ。

 まず、これらの作品に共通するのは「ラブロマンスの要素あり」ということ。その展開は下手をするとメロドラマ的になってしまうかもしれないのだが、推理小説だけに大体は事件と大きく関係する。「テニスコートの殺人」で体験したドキドキ感と同じで、いったい次がどうなるのかやめられなくなる。

 次に共通するのは「意外な犯人」。これには参った。特に「貴婦人として死す」の犯人にはあっ!と驚いた。久しぶりに声を上げてしまうほど。登場人物が限られているので真犯人の予想はつきそうなものだが、まんまと作者にしてやられた。「ユダの窓」「皇帝のかぎ煙草入れ」も同じ。カーのミス・ディレクションに読者は誘導され、そして最後に驚きの声を上げてしまうのだ。これは新訳による軽妙でテンポの良い文体によるところも大きいかと思う。読みやすいが故にだまされてしまうのだ。

 これらの作品の中で唯一「緑のカプセルの謎」は中学生くらいの頃に旧文庫版で読んだはず。だが、全く印象が違った。チョコレート・ボンボン殺人の解決に時間が費やされたのではと思っていたのだが、長年の歳月に記憶も曖昧になっている。即ち、新訳で読み直すことの楽しみを再発見した。この作品では特に事件を記録したフィルムを見る場面は何ともスリリングであった。

 カーター・ディクスン名義で登場するヘンリ・メリヴェール卿も真相を見抜く鋭い頭脳を持っている割には傲慢でわがままな人のようで、昔持っていた印象がまるで変わった。そんな理解の仕方も再読による面白さのひとつなのだと思う。これら新訳版カー作品、心からお薦めしたい。