中国迷爺爺の日記

中国好き独居老人の折々の思い

UFO

2008-07-14 09:44:05 | 身辺雑記
 私が時々会うK君は60歳を超しているが、熱烈なUFOの信奉者である。その話になると異様なくらいに熱が入って口を挟む間もないくらいで、そのことについてはまったくと言ってよいほど知識がなく、信じてもいない私は毒気を抜かれたようになってしまう。

 UFO(ユー・エフ・オーまたはユーフォー)は、Unidentified Flying Object (未確認飛行物体)の頭文字をとったもので、正体の確認されていない飛行体のことである。本来はアメリカ空軍で使われている用語のようで、主として国籍不明の航空機などに用いられるのだそうだ。しかし、一般には、空飛ぶ円盤やエイリアン(宇宙人、異星人)の乗り物の意味で使われている。K君の信じているのは無論異星人、すなわち地球外生命体、しかも高度に進化した生命体が操縦する飛行物体である。

 彼は何回もUFOを目撃したと言う。もっとも何度か話を聞かされたが、2回の体験談しか聞いていない。彼はその時の様子をうっとりしたような表情で話す。なぜ君にだけ見えるのだと聞くと、UFOは選ばれた人間にしか見ることができないと言う。誰が選ぶのだと聞くと、宇宙人ですよと幸せそうに答える。そう信じ切っているようだから敢えて茶化したりはしないようにしている。宇宙人はわれわれ地球人よりもはるかに進化していて、太古の時代から地球にやって来て、人間のDNA分析もすでに済ませていて、人類をいろいろと操作しているのだそうだ。古い神話や物語にもUFOの証拠があり、例えば日本の神話の天孫降臨のくだりに出てくる天浮船(あまのうきふね)がそうだし、浦島太郎の話も亀はUFO、竜宮城は宇宙人の住む惑星、そこへ光速で旅をしたから帰ってみたら年老いていたのだとちゃんと説明がつくと言った。そうするとかぐや姫の話もその類なのかと思うが、また聞いてみよう。もっとも彼が言う地球外生命体が広大な宇宙のどこからやってくるのか、来るのは何億年も前から皆同じ星の宇宙人なのか、アンドロメダとか聞いたような気がするがよく分からない。

 一般的にそうらしいが、K君が見たと言うUFOも、空飛ぶ円盤の元祖であるアダムスキー型と言われるものらしい。アダムスキー(1891~1965)は宇宙人と空飛ぶ円盤との遭遇体験を書いた本がベストセラーになって有名になったポーランド人で、宇宙人と会ったという人間(コンタクティー)の元祖とされている。現在では、彼の著書にある写真は模型を使ったトリック撮影であり、本はかつて彼自身が書いたSF小説を元にした創作だったとする説が広く知られているようだが、依然としてK君のような信奉者は多いらしい。
 
 彼によると米国ではUFOの存在は当然のことになっていて、いろいろな映画などに織り込んで徐々に国民を教育していると言う。例えば人気があるインディ・ジョーンズの冒険物語でも最新作を見ると、はっきりとUFOが登場するし、このシリーズの第1作の最後には、開けられた聖櫃からたくさんの煙のような得体の知れないものが出てきて飛び交うシーンがあるが、あれもアダムスキー型のUFOだったと言う。このようにしてUFOの存在を教育しているのですと彼は楽しそうに言った。もっとも私も第1作のそのシーンを見たが、私には妖怪が飛び交っているようにしか見えなかった。

 当然のように彼は超常現象を信じている。ある時彼の仕事場の掛け時計が逆方向に動き出したことがあったそうで、これは超常現象だったと興奮した口調で話してくれた。その場に居合わせた青年がちょっと触って直したので、ひどく怒って余計なことをすると怒鳴りつけたが、他の人に宥められて我に返ったと言う。それなら原因は不明だが単なる故障だと思うのだが、彼は超常現象だと断言した。どうも説明がつかないのは超常現象らしい。

 K君は決して無知蒙昧な人間ではなく、彼が専門とする分野での技術はきわめて優れている。しかしUFOや超常現象になると、のめりこむように信じている。私は単なる一介の理科の教師だったが、それらについてはまったく信じていない。ふと彼と私とはどちらが幸せなのかと思うことがある。彼はそのように信じているからと言って誰にも迷惑をかけていない。その限りでは彼自身が信じる世界に入り込んでいられるのは幸せなこととも言える。その彼からしたら、私はさばさばし過ぎていて、夢のない味気ない人間だと思われるのかも知れない。さりとて私は自分が幸せではないとは思ってはいない。禍福は糾える縄の如しだ。幸福や不幸は人さまざまで、他人にはうかがい知れないものがそれぞれあるのだ。