中国迷爺爺の日記

中国好き独居老人の折々の思い

ワールドカップ狂躁曲(2)

2010-07-15 09:40:20 | 身辺雑記
 新聞のあるコラム欄に、女性のコラムニストが書いていた。彼女はサッカーには全然関心はないようだが、

 「我を忘れる瞬間があることが少しだけ羨ましい。熱中とは幸せとイコールだから。熱中対象を得てしんどい現実から逃避し、ストレス解消できれば、それは悪いことではない。ただし、負ければ全否定し、勝てば手放しに礼賛するマスコミやファンは、愛の名のもとに態度を急変させるDV夫のようで怖い」

 同感できる意見だと思った。「我を忘れる瞬間があることが少しだけ羨ましい」とは私自身の気持ちでもあって、熱くなれない自分は面白味のない人間なのかと思ったりする。

 巷で熱狂するファンはどれほどサッカーのことを知っているのだろう。熱狂することでストレス解消している者も少なくないのではないか。それでも一次リーグを突破したくらいで大阪では女性までもが道頓堀川に飛び込む熱狂振りは、私の理解を超えているし、気味悪さも覚えて、これは一種の集団ヒステリーのようなものかと思ったりした。

 そんな熱狂的な騒ぎの中で、ちょっとほっとするようなユーモラスなニュースがあった。ドイツのある水族館で、パオルと名付けられたタコが、ドイツが戦う試合の勝敗を予言し、的中させるということで「予言タコ」として有名になった。水族館ではパオルの水槽の中にドイツ国旗と対戦相手の国旗とを貼り、パオルが好きな貝を入れて蓋をした小さな箱を沈め、パオルが蓋を開けて貝を取った箱の国が勝つという予言だとした。面白いことにパオルは、セルビア戦の1敗も含めて予選から準決勝までのドイツの6試合すべての勝敗を当てて一躍有名になった。準決勝でスペインが勝つということも予言的中させた。

 スペインの国旗の付いたエサ箱を選ぶパオル。

         

 ところが、それまで面白がっていたドイツのファンは収まらない。スペインに負けた途端にツイッターなどに「フライやバーベキューにしてしまえ」とか「切り刻んでシーフードサラダやパエリヤに混ぜてしまえ」、「今晩は家でタコサラダだ」、「「サメの水槽に放り込め」などの書き込みが殺到したそうだ。メールで脅迫状も送られたと言う。水族館の担当者は「最初はパオルの予言に歓喜し、ドイツが負けたとたんに彼に怒りをぶつけるとはやりすぎだ。彼は残念ながら正しい予言をしただけだ。サッカーの試合結果は結果として受け止めてほしい。なんだかんだいっても、パオルはただのタコなのだから」と話したと、ある記事は伝えていた。「パオルはただのタコなのだから」というのが面白い。この他愛もない騒ぎで、いかにサッカーというものがファンの頭に血を上らせるかが分かるし、ファンというものは文字通りfanaticで、単純なものだということも分かる。

 パオルは、3位決定戦はドイツがウルグアイに、優勝戦はスペインがオランダに勝つと「予言」して見事当てた。ドイツに関して言えば、的中率100%だった。


 スペイン国旗のついた箱に入り優勝を予言するるパオル。

         

 タコの寿命は平均2年で、最長で3年程度らしく、パオルは2歳半らしいからW杯の予想は今大会が最後になりそうで、引退すると言う。人間のお遊びに駆りだされて喝采を浴びたり脅迫されたりと、ご苦労様でした。これからは普通のタコに戻って、8本の脚を伸ばしてゆっくり休んでください。

 とにかく熱狂は終わった。新聞のスポーツ欄も、やがて静かになるだろう。