平成29(受)659 保険金請求事件
平成30年9月27日 最高裁判所第一小法廷 判決 その他 東京高等裁判所
1 被害者の行使する自賠法16条1項に基づく請求権の額と労働者災害補償保険法12条の4第1項により国に移転して行使される上記請求権の額の合計額が自動車損害賠償責任保険の保険金額を超える場合,被害者は国に優先して損害賠償額の支払を受けられる
2 自賠法16条の9第1項にいう「当該請求に係る自動車の運行による事故及び当該損害賠償額の確認をするために必要な期間」の意義及びその判断方法
日経新聞の報道では以下の通りになります。
判決によると、被害者の男性は2013年、仕事でトラックを運転中に軽自動車と衝突し、後遺障害が残った。労災保険から計約908万円の給付を受けたが、なお損害が残っているとして、加害者が自賠責保険に加入していた東京海上日動火災保険に対し、約580万円の支払いを求めて提訴した。
第1小法廷は判決理由で、自賠責保険制度の趣旨を「保険金で確実に損害の補填を受けられるようにし、被害者の保護をはかるもの」とし、保険金を優先的に受け取れないのは制度の趣旨に沿わないと指摘。政府の請求権によって被害者の請求権が妨げられるべきではないと判断した。
その上で、保険金344万円を被害者に支払うよう命じた二審、東京高裁の判断を維持。遅延損害金の算定についての審理を同高裁に差し戻した。
事実認定を見ていきます。
(1)平成25年9月8日,トラック乗務員として中型貨物自動 車を運転中,運転者の前方不注視等の過失により反対車線から中央線を越えて進入 した加害車両と正面衝突し,左肩腱板 断裂等の傷害を負い,その後,左肩関節の機能障害等の後遺障害が残った。
(2)加害車両について第1審被告を保険会社とする自賠責保険 の契約が締結されていた。
(3) 政府は,本件事故が第三者の行為によって生じた業務災害であるとして、平成27年2月までに,第1審原告に対し,労働者災害補償保険法に基づく給付として,療養補 償給付,休業補償給付及び障害補償給付を行った。
(4) 事故被害者が上記の労災保険給付を受けてもなお塡補されない本件事故に 係る損害額は,傷害につき303万5476円,後遺障害につき290万円であ る。また,本件事故に係る自賠責保険の保険金額は,傷害につき120万円,後遺障害につき224万円である。
(5) 事故被害者は,平成27年2月,本件事故に係る自賠責保険金額は傷害に つき120万円,後遺障害につき461万円であるなどと主張して,本件訴訟を提 起した。
中央分離帯を越えて対向車が来るとなれば、これは10:0ですね。それは余計な事として、後遺症と言っても程度の問題がありますが、肩をやられたとなればトラック運転手はもう無理でしょう。運転するだけではなく荷物の積み下ろしもありますから。
地裁ではこのような判断でした。
1 自動車の運行によって生命又は身体を害された者(以下「被害者」 という。)の直接請求権の額と労災保険法12条の4第1項により国に移転した直 接請求権の額の合計額が自賠責保険金額を超える場合には,被害者は,その直接請 求権の額が上記合計額に対して占める割合に応じて案分された自賠責保険金額の限 度で損害賠償額の支払を受けることができるにとどまる旨をいうものである。
これに対して最高裁は、
2 被害者が労災保険給付を受けてもなお塡補されない損害について直接請求権を行使する場合は,他方で労災保 険法12条の4第1項により国に移転した直接請求権が行使され,被害者の直接請求権の額と国に移転した直接請求権の額の合計額が自賠責保険金額を超えるときで あっても,被害者は,国に優先して自賠責保険の保険会社から自賠責保険金額の限 度で自賠法16条1項に基づき損害賠償額の支払を受けることができるものと解するのが相当である。
その理由として、
(1) 自賠法16条1項は,同法3条の規定による保有者の損害賠償の責任が発 生したときに,被害者は少なくとも自賠責保険金額の限度では確実に損害の塡補を 受けられることにしてその保護を図るもの。
(2) 労災保険法12条の4第1項は,第三者の行為によって生じた事故につい て労災保険給付が行われた場合には,その給付の価額の限度で,受給権者が第三者に対して有する損害賠償請求権は国に移転するものとしている。
自賠責保険については、大昔自動車教習所で習った記憶があります。
この2点を理由に、主張内容は認めるがその根拠は違うと言っています。
自賠法16条の9第1項にいう「当該請求に係る自動車の運行によ る事故及び当該損害賠償額の確認をするために必要な期間」とは,保険会社におい て,被害者の損害賠償額の支払請求に係る事故及び当該損害賠償額の確認に要する 調査をするために必要とされる合理的な期間をいうと解すべきであり,その期間については,事故又は損害賠償額に関して保険会社が取得した資料の内容及びその取 得時期,損害賠償額についての争いの有無及びその内容,被害者と保険会社との間の交渉経過等の個々の事案における具体的事情を考慮して判断するのが相当である。
ごもっともです。
第一小法廷判決
裁判長裁判官 小池 裕
裁判官 池上政幸
裁判官 木澤克之
裁判官 山口 厚
裁判官 深山卓也
自賠責か労災かどちらを優先するかですが、自動車の運転は必ずしも仕事だけで運転するわけではない、むしろ仕事以外で運転する方が全体の数から言って多いのではないでしょうか。そういったことからもまずは自賠責で払うべきではないかと思います。
平成30年9月27日 最高裁判所第一小法廷 判決 その他 東京高等裁判所
1 被害者の行使する自賠法16条1項に基づく請求権の額と労働者災害補償保険法12条の4第1項により国に移転して行使される上記請求権の額の合計額が自動車損害賠償責任保険の保険金額を超える場合,被害者は国に優先して損害賠償額の支払を受けられる
2 自賠法16条の9第1項にいう「当該請求に係る自動車の運行による事故及び当該損害賠償額の確認をするために必要な期間」の意義及びその判断方法
日経新聞の報道では以下の通りになります。
判決によると、被害者の男性は2013年、仕事でトラックを運転中に軽自動車と衝突し、後遺障害が残った。労災保険から計約908万円の給付を受けたが、なお損害が残っているとして、加害者が自賠責保険に加入していた東京海上日動火災保険に対し、約580万円の支払いを求めて提訴した。
第1小法廷は判決理由で、自賠責保険制度の趣旨を「保険金で確実に損害の補填を受けられるようにし、被害者の保護をはかるもの」とし、保険金を優先的に受け取れないのは制度の趣旨に沿わないと指摘。政府の請求権によって被害者の請求権が妨げられるべきではないと判断した。
その上で、保険金344万円を被害者に支払うよう命じた二審、東京高裁の判断を維持。遅延損害金の算定についての審理を同高裁に差し戻した。
事実認定を見ていきます。
(1)平成25年9月8日,トラック乗務員として中型貨物自動 車を運転中,運転者の前方不注視等の過失により反対車線から中央線を越えて進入 した加害車両と正面衝突し,左肩腱板 断裂等の傷害を負い,その後,左肩関節の機能障害等の後遺障害が残った。
(2)加害車両について第1審被告を保険会社とする自賠責保険 の契約が締結されていた。
(3) 政府は,本件事故が第三者の行為によって生じた業務災害であるとして、平成27年2月までに,第1審原告に対し,労働者災害補償保険法に基づく給付として,療養補 償給付,休業補償給付及び障害補償給付を行った。
(4) 事故被害者が上記の労災保険給付を受けてもなお塡補されない本件事故に 係る損害額は,傷害につき303万5476円,後遺障害につき290万円であ る。また,本件事故に係る自賠責保険の保険金額は,傷害につき120万円,後遺障害につき224万円である。
(5) 事故被害者は,平成27年2月,本件事故に係る自賠責保険金額は傷害に つき120万円,後遺障害につき461万円であるなどと主張して,本件訴訟を提 起した。
中央分離帯を越えて対向車が来るとなれば、これは10:0ですね。それは余計な事として、後遺症と言っても程度の問題がありますが、肩をやられたとなればトラック運転手はもう無理でしょう。運転するだけではなく荷物の積み下ろしもありますから。
地裁ではこのような判断でした。
1 自動車の運行によって生命又は身体を害された者(以下「被害者」 という。)の直接請求権の額と労災保険法12条の4第1項により国に移転した直 接請求権の額の合計額が自賠責保険金額を超える場合には,被害者は,その直接請 求権の額が上記合計額に対して占める割合に応じて案分された自賠責保険金額の限 度で損害賠償額の支払を受けることができるにとどまる旨をいうものである。
これに対して最高裁は、
2 被害者が労災保険給付を受けてもなお塡補されない損害について直接請求権を行使する場合は,他方で労災保 険法12条の4第1項により国に移転した直接請求権が行使され,被害者の直接請求権の額と国に移転した直接請求権の額の合計額が自賠責保険金額を超えるときで あっても,被害者は,国に優先して自賠責保険の保険会社から自賠責保険金額の限 度で自賠法16条1項に基づき損害賠償額の支払を受けることができるものと解するのが相当である。
その理由として、
(1) 自賠法16条1項は,同法3条の規定による保有者の損害賠償の責任が発 生したときに,被害者は少なくとも自賠責保険金額の限度では確実に損害の塡補を 受けられることにしてその保護を図るもの。
(2) 労災保険法12条の4第1項は,第三者の行為によって生じた事故につい て労災保険給付が行われた場合には,その給付の価額の限度で,受給権者が第三者に対して有する損害賠償請求権は国に移転するものとしている。
自賠責保険については、大昔自動車教習所で習った記憶があります。
この2点を理由に、主張内容は認めるがその根拠は違うと言っています。
自賠法16条の9第1項にいう「当該請求に係る自動車の運行によ る事故及び当該損害賠償額の確認をするために必要な期間」とは,保険会社におい て,被害者の損害賠償額の支払請求に係る事故及び当該損害賠償額の確認に要する 調査をするために必要とされる合理的な期間をいうと解すべきであり,その期間については,事故又は損害賠償額に関して保険会社が取得した資料の内容及びその取 得時期,損害賠償額についての争いの有無及びその内容,被害者と保険会社との間の交渉経過等の個々の事案における具体的事情を考慮して判断するのが相当である。
ごもっともです。
第一小法廷判決
裁判長裁判官 小池 裕
裁判官 池上政幸
裁判官 木澤克之
裁判官 山口 厚
裁判官 深山卓也
自賠責か労災かどちらを優先するかですが、自動車の運転は必ずしも仕事だけで運転するわけではない、むしろ仕事以外で運転する方が全体の数から言って多いのではないでしょうか。そういったことからもまずは自賠責で払うべきではないかと思います。