平成30(行ツ)92 選挙無効請求事件
平成31年2月5日 最高裁判所第三小法廷 判決 棄却 東京高等裁判所
1 東京都議会議員の定数並びに選挙区及び各選挙区における議員の数に関する条例(昭和44年東京都条例第55号)におけるいわゆる特例選挙区の存置の適法性
2 東京都議会議員の定数並びに選挙区及び各選挙区における議員の数に関する条例(昭和44年東京都条例第55号)の議員定数配分規定の適法性
3 東京都議会議員の定数並びに選挙区及び各選挙区における議員の数に関する条例(昭和44年東京都条例第55号)におけるいわゆる特例選挙区の存置の合憲性
4 東京都議会議員の定数並びに選挙区及び各選挙区における議員の数に関する条例(昭和44年東京都条例第55号)の議員定数配分規定の合憲性
ニュースを探してみましたが出ていませんでしたので、裁判所の認定から見ていきます。
江東区選挙区の選挙人である上告人が,
①本件条例が大 島町,利島村,新島村,神津島村,三宅村,御蔵島村,八丈町,青ヶ島村及び小笠 原村の区域(以下「島しょ部」という。)を合わせて1選挙区(島部選挙区)とし て存置したことが公職選挙法271条に,
②本件条例のうち各選挙区において選挙 すべき議員の数を定める規定が同法15条8項 にそれぞれ違反するとともに,同法271条及び本件条例の定数配分規定が憲法1 4条1項等に違反して無効であるから,これらに基づき施行された本件選挙の江東 区選挙区における選挙も無効であると主張して提起した選挙無効訴訟である。

これは広すぎ、人口は少なすぎますね。
(1) 都道府県議会の議員の定数については,地方自治法において,条例で定めるものとされ,変更の要件が定められている(90条1項から3項まで)。・・・公職選挙法において,一の市の区域,一の市の区域と隣接する町村の区域を合わせた区域又は隣接する町村の区域を合わせた区域のいずれかによることを基本とし,条例で定めるものとされ(15条1項),選挙区は,その人口が当該都道府県の人口を当該都道府県議会の議員の定数をもって除して得た数(以下「議員1人当たりの人口」という。)の半数以上になるようにしなければならず,・・・,公職選挙法15条8項は,本文において「人口に比例して,条例で定めなければならない」とする一方で,ただし書において「特別の事情があるときは,おおむね人口を基準とし,地域間の均衡を考慮して定めることができる」としている。
人口比率に応じて選挙区の設定をしなさい、場合によっては定数を減らしても良いという地方自治法と公職選挙法の規定があります。
(2)ア「都議会議員選挙区別議員1人当たりの人口及び較差」の「選挙区」欄及び「条例定数」欄記載のとおりであり,42選挙区に127人の定数を配分しているところ,そのうち,特例選挙区として,昭和44年の本件条例の制定当時から島部選挙区が存置されている。
イ 本件条例の定数配分規定は,その制定後数次の改正を経た後,平成13年3月に4選挙区の定数を2増2減する改正が行われた。
ウ 平成25年6月23日に施行された東京都議会議員一般選挙で・・・・特例選挙区以外の選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は1対1.92(以下,較差及び配当基数に関する数値は全て概算である。),特例選挙区であった千代田区選挙区と他の選挙区との議員1人当たりの人口の最大較差は1対3.21であり,人口の多い選挙区の定数が人口の少ない選挙区の定数より少ないいわゆる逆転現象は12通りであった。また,島部選挙区の配当基数は0.268であった。
エ 東京都議会は,平成28年6月15日,本件条例について,4選挙区の定数を2増2減するほか,それまで特例選挙区とされていた千代田区選挙区の配当基数が0.549となったため,特例選挙区を島部選挙区のみとする改正をした。
格差がありすぎるので、選挙区の区割りをやり直しました。国政選挙とは違って国防の問題は基本的に対象外なので、1票の格差はなるべく小さい方が良いとは思いますが、島しょ地域はただでさえ病院に行きにくい、所得の問題、ガソリン価格等々格差があるので、多少は許してやれよという気がしないではないです。
オ 本件選挙当時における前記アの定数配分については,平成27年の国勢調査による人口に基づく配当基数に応じた人口比定数と対比すると・・・特例選挙区(島部選挙区)を除く選挙区間の議員1人当たりの人口の最大較差は1対2.48(千代田区選挙区と武蔵野市選挙区)であり,これは特例選挙区を除く人口比定数による選挙区間の議員1人当たりの人口の最大較差と差異がなく,いわゆる逆転現象は6通りであった。また,島部選挙区の配当基数は0.249であった。
これ等について、最高裁判所は次のように述べています。
3(1)都道府県議会の議員の選挙区に関して公職選挙法15条1項から4項までが規定しているところからすると,同法271条は,配当基数が0.5を著しく下回る場合には,特例選挙区の設置を認めない趣旨であると解されるから,このような場合には,特例選挙区の設置についての都道府県議会の判断は,合理的裁量の限界を超えているものと推定するのが相当である。
(2)島しょ部は,離島として,その自然環境や社会,経済の状況が東京都の他の地域と大きく異なり,特有の行政需要を有することから,東京都の行政施策の遂行上,島しょ部から選出される代表を確保する必要性が高いものと認められる一方,その地理的状況から,他の市町村の区域との合区が,地続きの場合に比して相当に困難であることなどが考慮されてきたものということができる。そして,東京都議会は,都議会のあり方検討会での検討を経た上で,平成28年条例改正の際にも,島部選挙区の配当基数は小さいものの,島しょ部の地理的特殊性等に照らし,同選挙区を引き続き特例選挙区として存置することを決定したものと推認することができる。本件選挙当時の島部選挙区の配当基数は,東京都議会において同選挙区を特例選挙区として存置することが許されない程度にまで至っているとはいえない。
この点は私と同意見です。
結論
本件条例が,本件選挙当時,島部選挙区を特例選挙区として存置していたことは,公職選挙法271条に違反していたものとはいえない。
さらに
平成28年条例改正の当時において,同法15条8項ただし書にいう特別の事情があるとの評価がそれ自体として合理性を欠いていたとも,本件選挙当時において上記の特別の事情があるとの評価の合理性を基礎付ける事情が失われたともいい難いから,本件選挙の施行前に本件条例の定数配分規定を改正しなかったことが同議会の合理的裁量の限界を超えるものということはできない。したがって,本件選挙当時における本件条例の定数配分規定は,公職選挙法15条8項に違反していたものとはいえず,適法というべきである。
裁判官林景一の意見
1 国政選挙については,人口比例原則を厳格に考えるべきであるとの立場であるが,地方議会選挙については,同原則を重視しつつも,一定程度緩和する余地を認めることができると考えるものである。
国会議員が全国民(people)の代表としての行動を期待されるのとは異なり,その選挙区である地域(community)の代表という色合いが濃くてしかるべきであることをその根拠とするものである。公職選挙法は,地方自治の基礎となる市町村を補完する役割を担う都道府県の議員選挙について,①市町村(特別区を含む。以下同じ。)を基本的な単位とする(政令指定都市を除き,原則として市町村を分割しない。)こと,②人口が過少であるため市町村を超えて合区する必要がある場合には,隣接市町村と合区することなどを定めているがこのような選挙区割りに関する規定から看取することができる議員の選出地域との密接性の要求は,憲法の規定する地方自治の本旨に基づく住民自治に由来すると考えられる。・・・都道府県議会議員選挙においては,地理的,経済的な諸側面において,隣接地域とどこまで共通基盤を有するかなどの地域の実情に応じて厳に必要な限度において,人口比例原則からの乖離が認められると考えることができる。
2(1) 東京都は,我が国の首都であって政治・経済の中心地であるが故に著しく人口が集中しており,中心部において常住人口と昼間人口との間に極端に大きな差があるなどの特殊事情が指摘されているほか,特に,島嶼部については,そのような東京都の中で,地理的,経済的に際立った差異があるため,自らの地域代表が,そうした実情に基づく特有のニーズ(インフラ整備,交通アクセス,産業振興等)を踏まえた施策を議会の内外において追求する必要性が高いといえ,かつ,共通の基盤を有するといえる隣接選挙区が見当たらないことから,合区の困難性の程度もかなり高いといえよう。
そうなんですよ。これってどうしようもないですよね。どうしてもというのであれば、島しょ部は独立した自治体にせざるを得ません。
(2) さはさりながら,本来,ある選挙区について,配当基数が0.5を下回りながら強制合区を免れるということは,投票価値の平等原則の観点からは,あくまで例外中の例外であって,自ずと限界がある。投票価値の平等原則というものが数値的な問題である以上,配当基数や較差等の数値は重視されなければならない(そうであるからこそ,公職選挙法も強制合区とすべき基準に0.5という定量的基準のみを用いているのであろう。)。・・・人口減少が進んで較差だけが拡大し続けていくこととなるのであれば,もはや合区を検討すべきこととなるのもやむを得ないと考える。・・・早急に是正が検討されるべきであって,取り分け定数差2人の逆転現象は不可解であるとの感を拭えず,その継続は許容できないと考えるものである。
一人一票にこだわりますね。法律家なら仕方ないのでしょうが、行政的な考え方からすれば浮きまくっています。
裁判長裁判官 戸倉三郎 妥当
裁判官 岡部喜代子 妥当
裁判官 山崎敏充 妥当
裁判官 林 景一 微妙
裁判官 宮崎裕子 妥当
平成31年2月5日 最高裁判所第三小法廷 判決 棄却 東京高等裁判所
1 東京都議会議員の定数並びに選挙区及び各選挙区における議員の数に関する条例(昭和44年東京都条例第55号)におけるいわゆる特例選挙区の存置の適法性
2 東京都議会議員の定数並びに選挙区及び各選挙区における議員の数に関する条例(昭和44年東京都条例第55号)の議員定数配分規定の適法性
3 東京都議会議員の定数並びに選挙区及び各選挙区における議員の数に関する条例(昭和44年東京都条例第55号)におけるいわゆる特例選挙区の存置の合憲性
4 東京都議会議員の定数並びに選挙区及び各選挙区における議員の数に関する条例(昭和44年東京都条例第55号)の議員定数配分規定の合憲性
ニュースを探してみましたが出ていませんでしたので、裁判所の認定から見ていきます。
江東区選挙区の選挙人である上告人が,
①本件条例が大 島町,利島村,新島村,神津島村,三宅村,御蔵島村,八丈町,青ヶ島村及び小笠 原村の区域(以下「島しょ部」という。)を合わせて1選挙区(島部選挙区)とし て存置したことが公職選挙法271条に,
②本件条例のうち各選挙区において選挙 すべき議員の数を定める規定が同法15条8項 にそれぞれ違反するとともに,同法271条及び本件条例の定数配分規定が憲法1 4条1項等に違反して無効であるから,これらに基づき施行された本件選挙の江東 区選挙区における選挙も無効であると主張して提起した選挙無効訴訟である。

これは広すぎ、人口は少なすぎますね。
(1) 都道府県議会の議員の定数については,地方自治法において,条例で定めるものとされ,変更の要件が定められている(90条1項から3項まで)。・・・公職選挙法において,一の市の区域,一の市の区域と隣接する町村の区域を合わせた区域又は隣接する町村の区域を合わせた区域のいずれかによることを基本とし,条例で定めるものとされ(15条1項),選挙区は,その人口が当該都道府県の人口を当該都道府県議会の議員の定数をもって除して得た数(以下「議員1人当たりの人口」という。)の半数以上になるようにしなければならず,・・・,公職選挙法15条8項は,本文において「人口に比例して,条例で定めなければならない」とする一方で,ただし書において「特別の事情があるときは,おおむね人口を基準とし,地域間の均衡を考慮して定めることができる」としている。
人口比率に応じて選挙区の設定をしなさい、場合によっては定数を減らしても良いという地方自治法と公職選挙法の規定があります。
(2)ア「都議会議員選挙区別議員1人当たりの人口及び較差」の「選挙区」欄及び「条例定数」欄記載のとおりであり,42選挙区に127人の定数を配分しているところ,そのうち,特例選挙区として,昭和44年の本件条例の制定当時から島部選挙区が存置されている。
イ 本件条例の定数配分規定は,その制定後数次の改正を経た後,平成13年3月に4選挙区の定数を2増2減する改正が行われた。
ウ 平成25年6月23日に施行された東京都議会議員一般選挙で・・・・特例選挙区以外の選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は1対1.92(以下,較差及び配当基数に関する数値は全て概算である。),特例選挙区であった千代田区選挙区と他の選挙区との議員1人当たりの人口の最大較差は1対3.21であり,人口の多い選挙区の定数が人口の少ない選挙区の定数より少ないいわゆる逆転現象は12通りであった。また,島部選挙区の配当基数は0.268であった。
エ 東京都議会は,平成28年6月15日,本件条例について,4選挙区の定数を2増2減するほか,それまで特例選挙区とされていた千代田区選挙区の配当基数が0.549となったため,特例選挙区を島部選挙区のみとする改正をした。
格差がありすぎるので、選挙区の区割りをやり直しました。国政選挙とは違って国防の問題は基本的に対象外なので、1票の格差はなるべく小さい方が良いとは思いますが、島しょ地域はただでさえ病院に行きにくい、所得の問題、ガソリン価格等々格差があるので、多少は許してやれよという気がしないではないです。
オ 本件選挙当時における前記アの定数配分については,平成27年の国勢調査による人口に基づく配当基数に応じた人口比定数と対比すると・・・特例選挙区(島部選挙区)を除く選挙区間の議員1人当たりの人口の最大較差は1対2.48(千代田区選挙区と武蔵野市選挙区)であり,これは特例選挙区を除く人口比定数による選挙区間の議員1人当たりの人口の最大較差と差異がなく,いわゆる逆転現象は6通りであった。また,島部選挙区の配当基数は0.249であった。
これ等について、最高裁判所は次のように述べています。
3(1)都道府県議会の議員の選挙区に関して公職選挙法15条1項から4項までが規定しているところからすると,同法271条は,配当基数が0.5を著しく下回る場合には,特例選挙区の設置を認めない趣旨であると解されるから,このような場合には,特例選挙区の設置についての都道府県議会の判断は,合理的裁量の限界を超えているものと推定するのが相当である。
(2)島しょ部は,離島として,その自然環境や社会,経済の状況が東京都の他の地域と大きく異なり,特有の行政需要を有することから,東京都の行政施策の遂行上,島しょ部から選出される代表を確保する必要性が高いものと認められる一方,その地理的状況から,他の市町村の区域との合区が,地続きの場合に比して相当に困難であることなどが考慮されてきたものということができる。そして,東京都議会は,都議会のあり方検討会での検討を経た上で,平成28年条例改正の際にも,島部選挙区の配当基数は小さいものの,島しょ部の地理的特殊性等に照らし,同選挙区を引き続き特例選挙区として存置することを決定したものと推認することができる。本件選挙当時の島部選挙区の配当基数は,東京都議会において同選挙区を特例選挙区として存置することが許されない程度にまで至っているとはいえない。
この点は私と同意見です。
結論
本件条例が,本件選挙当時,島部選挙区を特例選挙区として存置していたことは,公職選挙法271条に違反していたものとはいえない。
さらに
平成28年条例改正の当時において,同法15条8項ただし書にいう特別の事情があるとの評価がそれ自体として合理性を欠いていたとも,本件選挙当時において上記の特別の事情があるとの評価の合理性を基礎付ける事情が失われたともいい難いから,本件選挙の施行前に本件条例の定数配分規定を改正しなかったことが同議会の合理的裁量の限界を超えるものということはできない。したがって,本件選挙当時における本件条例の定数配分規定は,公職選挙法15条8項に違反していたものとはいえず,適法というべきである。
裁判官林景一の意見
1 国政選挙については,人口比例原則を厳格に考えるべきであるとの立場であるが,地方議会選挙については,同原則を重視しつつも,一定程度緩和する余地を認めることができると考えるものである。
国会議員が全国民(people)の代表としての行動を期待されるのとは異なり,その選挙区である地域(community)の代表という色合いが濃くてしかるべきであることをその根拠とするものである。公職選挙法は,地方自治の基礎となる市町村を補完する役割を担う都道府県の議員選挙について,①市町村(特別区を含む。以下同じ。)を基本的な単位とする(政令指定都市を除き,原則として市町村を分割しない。)こと,②人口が過少であるため市町村を超えて合区する必要がある場合には,隣接市町村と合区することなどを定めているがこのような選挙区割りに関する規定から看取することができる議員の選出地域との密接性の要求は,憲法の規定する地方自治の本旨に基づく住民自治に由来すると考えられる。・・・都道府県議会議員選挙においては,地理的,経済的な諸側面において,隣接地域とどこまで共通基盤を有するかなどの地域の実情に応じて厳に必要な限度において,人口比例原則からの乖離が認められると考えることができる。
2(1) 東京都は,我が国の首都であって政治・経済の中心地であるが故に著しく人口が集中しており,中心部において常住人口と昼間人口との間に極端に大きな差があるなどの特殊事情が指摘されているほか,特に,島嶼部については,そのような東京都の中で,地理的,経済的に際立った差異があるため,自らの地域代表が,そうした実情に基づく特有のニーズ(インフラ整備,交通アクセス,産業振興等)を踏まえた施策を議会の内外において追求する必要性が高いといえ,かつ,共通の基盤を有するといえる隣接選挙区が見当たらないことから,合区の困難性の程度もかなり高いといえよう。
そうなんですよ。これってどうしようもないですよね。どうしてもというのであれば、島しょ部は独立した自治体にせざるを得ません。
(2) さはさりながら,本来,ある選挙区について,配当基数が0.5を下回りながら強制合区を免れるということは,投票価値の平等原則の観点からは,あくまで例外中の例外であって,自ずと限界がある。投票価値の平等原則というものが数値的な問題である以上,配当基数や較差等の数値は重視されなければならない(そうであるからこそ,公職選挙法も強制合区とすべき基準に0.5という定量的基準のみを用いているのであろう。)。・・・人口減少が進んで較差だけが拡大し続けていくこととなるのであれば,もはや合区を検討すべきこととなるのもやむを得ないと考える。・・・早急に是正が検討されるべきであって,取り分け定数差2人の逆転現象は不可解であるとの感を拭えず,その継続は許容できないと考えるものである。
一人一票にこだわりますね。法律家なら仕方ないのでしょうが、行政的な考え方からすれば浮きまくっています。
裁判長裁判官 戸倉三郎 妥当
裁判官 岡部喜代子 妥当
裁判官 山崎敏充 妥当
裁判官 林 景一 微妙
裁判官 宮崎裕子 妥当