できることを、できる人が、できるかたちで

京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

2159冊目:井原裕『うつの8割に薬は無意味』

2015-09-12 21:30:57 | 本と雑誌

2159冊目はこの本。

井原裕『うつの8割に薬は無意味』(朝日新書、2015年)

今度も先月読んだ「うつ病論」の本。最近の本だけど、こちらは2158番目の本とは切り口が異なる。

こちらの本は、タイトルにもあるとおり、「うつ」の治療に薬物投与はそれほど必要がなく、必要なのは2割程度の人だという。「薬の前に、まずは睡眠・断酒」等々生活環境を整え、からだのリズムを取り戻すことが大事だ・・・・というのが、基本的な論旨。

この論旨もよくわかるし、製薬会社が「うつ」に効く薬を売り込もうとしている・・・・という話も、それなりによくわかる。

ただ・・・。そうなってくると、では「なぜこの現代日本社会において、睡眠などのからだのリズムに変調をきたし、その影響で心身のバランスを崩して精神科医療のお世話になる人が増えてくるのか?」という、きわめて重要な課題がこの本を読むと浮上する。

また、この点については、2158番目の本を読んで感じたこと(なんらかの社会生活上の適応に困難を抱え、気分の落ち込みや過敏等のメンタル面で生きづらさを感じている人がいて、助けを求めて精神科医療の窓口に来ること)とも重なってくる。

うつの8割に薬は無意味 (朝日新書)


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2158冊目:貝谷久宣『気まぐれ「うつ」病』

2015-09-12 21:20:27 | 本と雑誌

2158冊目はこの本。

貝谷久宣『気まぐれ「うつ」病』(ちくま新書、2007年)

この本も先月読んだ1冊。2007年とちょっと古めの本だが、学生の卒論指導の必要があって(=「うつ」をテーマにした卒論を書く学生が居る)、このところ「うつ病」論関係の本を何冊か読んでいる。

ただ、いろんな本を読めば読むほど、最近の「うつ」に関する議論が、よくわからなくなる。

この本が扱っている非定型うつ病なるものも、そのような「うつ」に関する議論のひとつ。

なんらかの社会生活上の適応に困難を抱え、気分の落ち込みや過敏等のメンタル面で生きづらさを感じている人がいて、なおかつ、こうした人に精神科医療が投薬も含めて、適切なケア・支援を行おうとしていること自体は、基本的に私は肯定的な見方をしている。

ただ・・・。そのような人々の状態を説明し、何らかのケア・支援を行う概念として、はたして「非定型」の「うつ」と称することが妥当なのかどうか・・・。シロウトの感覚でしかないのだけど、たとえば何か別の診断名をつけるというか、そういう方向を考える道筋もあるような気もする。

気まぐれ「うつ」病―誤解される非定型うつ病 (ちくま新書)


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2157冊目:内藤正典『イスラームから世界を見る』

2015-09-12 21:06:00 | 本と雑誌

2157冊目はこの本。

内藤正典『イスラームから世界を見る』(ちくまプリマ―新書、2012年)

この本も8月中に読んだ本の1冊。

3年前に出た本だけど、例の安保関連法案が中東情勢とからんで制定されようとしている頃だから、安保関連法案の問題と併せて読んだら、なおいろんなことが見えてくるような気がする1冊。

やっぱり、イスラーム文化圏の国々やそこで暮らす人々には、その人々の独特の価値観や生活習慣、そして文化、政治のしくみなどがあるわけだから、そこを無視して、一方的に西欧文化圏の国々の論理で政治・外交等々をすすめても・・・・という側面はありますね。

とはいえ、イスラーム文化圏の国々も、西欧発祥の「人権」概念や国民国家の枠組みを受け入れたり、資本主義経済と近代の欧米諸国発祥のさまざまなモノ(車だとか、パソコンだとか)を受け入れているわけだから、どこかに、非イスラーム文化圏の国々との相互理解の糸口はあるなあ・・・とも思います。

とすれば、イスラーム文化圏の国々とも、「経済交流や文化交流を軸にした平和外交」の路線が成立する余地も多々あるわけで・・・。なぜ安保関連法案でアメリカの推進する中東での政治、特に戦争に加担する道を選ぶのか、よくわからない、と私などは思うのですが。

イスラームから世界を見る (ちくまプリマー新書)


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2156冊目:さいきまこ『神様の背中~貧困の中の子どもたち~』

2015-09-12 20:58:08 | 本と雑誌

2156冊目はこの本。

さいきまこ『神様の背中~貧困の中の子どもたち』(秋田書店、2015年)

「書籍扱い」のコミックということなので、一応「先月読んだ本」のなかに入れました。

これは、「子どもの貧困」問題をある臨時採用の女性の小学校教員の目線から捉えたマンガ。

ただ、ストーリーを構想するにあたって、「子どもの貧困」問題に詳しい研究者や弁護士、NPO団体の関係者、元学校の教員などに話を聴いたり、実際に貧困世帯の子どもへの支援に取り組む現場などを取材している様子がうかがえる。

その分、ストーリーにかなりリアリティがあって、たとえばこの問題に関心がある学生などにとってはうってつけの入門書になっているようにも思われる。

神様の背中~貧困の中の子どもたち~(書籍扱いコミックス)


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2155冊目:上田紀行『人間らしさ』

2015-09-12 20:44:16 | 本と雑誌

2155冊目はこの本。

上田紀行『人間らしさ』(角川新書、2015年)

この本も先月読んだ本のなかの1冊。大学における教養教育のあり方など、参考になることも多々ありましたが・・・。

やっぱり一番印象に残っているのは、この本の第1章の「データ化される私たち」の内容かと。

アマゾンで本を何度か注文すると、その履歴から今度はアマゾンから「おすすめ本」を紹介してくれるように。あるいは定期健康診断に行けばいろんな数値データとともに、あなたはここが悪いから診察受けた方がいいですよと言ってくれるように。私たちは「データ」によって、自分たちの暮らしを隅々まで「管理」される社会に生きています。

ある意味、学校事故の防止に関するリスク管理の議論と、これにもとづくテクニカルな学校安全論だって、そういう「データ」によって人々の暮らしを「管理」される社会の動向が顕著に現れた一領域かもしれません。

でも、人間ってそのように、行動や思考のありようを全てデータ化して、管理することが可能な存在なのか。また、それが可能として、そういうデータ化や管理することって、ほんとうに「やっていいこと」なのかどうか。そもそも、そのように行動や思考のありようをすべてデータ化して、管理するような社会で、人間は人間らしく生きているのだろうか・・・。

こういうことについて、ハッと考えさせられた1冊です。

人間らしさ 文明、宗教、科学から考える (角川新書)


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2154冊目:渡辺京二『近代の呪い』

2015-09-12 20:16:03 | 本と雑誌

2154冊目はこの本。

渡辺京二『近代の呪い』(平凡社新書、2013年)

まだ8月に読んだ本の紹介が続きます(このあと12~13冊あります・・・・)。

「近代」という時代の捉え方について、いろいろ考えさせられた本。講演内容を文字起こししたようで、とても読みやすい。

特に「近代」は人々の生活のあらゆる領域が国家のケア・管理のもとにおかれる時代で、それへの異議申立ても、自分たちの利益を実現するためのプレッシャーグループも、どちらも「対国家」という要求の形式にからめとられるという「第1話」最後の指摘。これは「なるほど~」とうならされました。

これはまさに、今「オルタナティブ教育」だとか、「多様な教育機会支援法」だとかで、不登校の子どもたちのフリースールのありようをめぐって生じている動きに重なりますね。

また、この指摘は他にも、学校における子どもの事故・事件防止やいじめ防止の議論、さらには中学校のスポーツ部活動のあり方に関する議論なども、対文科省(政府、国家)に要求する前に、個々の学校現場レベルで(あるいは自治体レベルで)解決する道筋もあるはずなのに、それがなぜ対文科省(政府、国家)的な要求事項になるのかを考えることにもつながります。

いずれにせよ、近代学校あるいは近代教育の矛盾を指摘し、それろ乗り越えようとする数々の動きも、気付けば近代学校、近代教育をさらに「純化」する国家的な動きのなかに回収される・・・という図式を、この本の指摘から思いうかべてしまいました。

ある意味で、いま、学校やそこでの教育のあり方について、「子どもを守れ」という観点から批判的に行動したり、発言したりしている人々ほど、最も「近代学校」や「近代教育」の枠組みに呪縛されているのかもしれない・・・・という、そういう認識がどこかで必要になってきているのかもしれませんね。

近代の呪い (平凡社新書)


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