今後、大都市部において農地の保全が危ぶまれるのは、市街化区域内の農地ではなく、市街化調整区域の農地だと思う。
市街化区域の農地は、基本、生産緑地によって保全される。大都市部の生産緑地所有者の多くは農業収入がなくても不動産収入があることから、農業を楽しみながら続けられる環境にある。したがって、今後10年間を生産緑地とする「特定生産緑地」を指定する農家が多い(約7割が特定生産緑地になると推計されている)。
生産緑地の場合、生産緑地法の改正、都市農地の貸借円滑化法の創設等により、仮に農業の担い手がいなくなっても、市民農園・シェア畑等として活用されたり、若手の新規就農者等に賃貸される等により農地が保全される仕組みができた。
しかし、一方の市街化調整区域の農地は、それが農振農用地であっても農業の担い手がいなくなれば、耕作放棄地や違反転用により資材置き場や重機置場になる可能性の方が高い。
今、大都市部の市街化調整区域の農業を支えているのは、後継者のいない80歳を超える農業生産者であり(統計データではない。自分がかかわってきたところの実態)、5年以内に何らかの策を講じないと、農地の保全は非常に難しくなる。
後継者が全くいないわけではない。せめて、田んぼだけは守ろうとする次の世代はいる。この人たちは50歳前後で親戚や友人等を含めた自給自足用の米作りはなんとかやっていきたいと思っている。しかし、稲作に必要な農業用機械が古くなり、使えなくなったら、もうお手上げのようだ。
何百万円もする農業機械を購入する余裕はないし(共同購入も難しい金額である)、近くに農業機械をレンタルできるところもない。したがって、この部分については行政やJAがなんらか支援すべきかと思う。
基本、大都市部の市街化調整区域の農地については、そんなに稼げるものではないのだから、農業振興(農業所得をあげる)を考えるのではなく、農地のもつ多面的機能(都市住民の農に触れ合いたいというニーズ、福祉農業、生物多様性など)の充実にシフトした方がいい。
そうなると、週末農業や農的暮らしを実践したいと思っている都市住民を積極的に取り込む仕掛けを考える必要がある。
市街化調整区域の農地の魅力は、近くに里山が広がっていることにある。週末の一日、半日をこの自然を享受しながら、農業、土いじりを楽しめる環境づくりをすれば農園のニーズは十分見込める。したがって、農地の中にきれいなトイレ、キッチン、ガレージ、休憩スペース等の施設は不可欠だ。そこに、オーガニックカフェやレストランがあったりするといい。
農業振興地域でも、農業(農地)と一体的な施設として設けられるカフェやレストランであれば、立地が可能になるよう早く法律を見直した方がいい。
とりあえずは、仮設的な施設で、社会実験としてやってみるのがいいのでは。タクティカルアーバニズムである。