読書日和

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「やさしいため息」青山七恵

2008-05-29 23:59:38 | 小説
今回ご紹介するのは「やさしいため息」(著:青山七恵)です。

-----内容----
社会人5年目で友人なし。
恋人は3ヵ月前に出て行ったばかり。
そんな私の前に、行方知れずの弟と緑くんが現れて…
『ひとり日和』に続く芥川賞受賞第一作。

-----感想-----
先日新聞を読んでいたら、「やさしいため息」の紹介記事がありました。
昨年芥川賞を受賞した青山七恵さんが、受賞後第一作を出すとのこと。
内容の紹介文を読んで、これは面白そうだと思いました。
そして4日前に本屋を訪れたとき、「やさしいため息」を見つけたので、さっそく購入して読んでみました。

久しぶりに一人称の小説を読みました。
主人公は社会人5年目の江藤まどか。
ある日、江藤まどかの前に、四年間消息不明だった弟が現れる。
弟の名前は「風太」。
弟は姉のことを「まどか」と呼ぶ。
無遠慮な感じで接してくる弟に、まどかはイライラしがち。
姉の部屋に転がり込むことになった風太は、表紙に「江藤まどか」と書かれたノートに、一日のできごとを記録し始める。
このノートを何のためにつけているのか、物語が進んでいってもなかなかわかりませんでした。
一日ごとに、まどかに質問して、その日の出来事を聞くのです。
そしてそれを記録していく。
日記だとしたら、他人の一日を記録していくのだから「観察日記」になるのでしょうか。
風太がなぜそんな記録をつけていくのかは、物語の終盤で明らかになります。
風太の普段の振る舞いとは対照的な理由だったので印象に残りました。
この人間の心の寂しさを上手く小説にする辺り、さすが青山七恵さんだと思います。

そして「やさしいため息」の主人公・江藤まどかは、会社で浮いた存在になっています。
もっともこれは、本人が意識し過ぎているところもあり、周りは特にまどかを嫌っているというわけではないです。
しかしまどかは、会社での「付き合い」が大嫌い。
一緒にご飯を食べたりとか、飲みに行ったりとかを極力避けています。
この辺りの心情の描写はかなりリアリティがありました。
行きたくもない飲み会に行ったりするのは、嫌な人にとってはかなり嫌だと思います。
そうしているうちに、会社内で一人になってしまったようです。
しかしそんなまどかに、ちょっとした転機が訪れます。
それは「緑くん」との出会いです。
緑くんと話したことによって、まどかに社交への意欲が出てきます。
しかし、ここが青山七恵さんの真骨頂だなあと感じるのですが、社交への意欲が全開になるわけではないのです。
「ほんのちょっと、以前より勇気が出るようになった」という感じです。
この絶妙なバランスが、読んでいて何とも言えないさわやかさを感じます。
普段の生活でも、劇的に性格が変化することはまずないと思います。
何かを決意したとしても、毎日努力して少しずつ変えていくのではないでしょうか。
「少しずつ変わっていく日々」、青山七恵さんの小説には、常にこのテーマが潜んでいるような気がしました

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