読書日和

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「第二音楽室」佐藤多佳子

2014-05-23 23:59:09 | 小説
今回ご紹介するのは「第二音楽室」(著:佐藤多佳子)です。

-----内容-----
学校と音楽をモチーフに少年少女の揺れ動く心を瑞々しく描いた School and Music シリーズ第一弾は、校舎屋上の音楽室に集う鼓笛隊おちこぼれ組を描いた表題作をはじめ、少女が語り手の四編を収録。
嫉妬や憧れ、恋以前の淡い感情、思春期のままならぬ想いが柔らかな旋律と重なり、あたたかく広がってゆく。

-----感想-----
School and Music シリーズの第一弾。
第二弾は以前読んだ「聖夜」という作品です。
今作も学校と音楽を題材に、素晴らしい青春物語を見せてくれました

この作品は以下の四編で構成されています。

第二音楽室
デュエット
FOUR
裸樹

第二音楽室は鼓笛隊(こてきたい)の五年生落ちこぼれ6人の物語。
主人公は一人称が「ウチ」の史江。
残る5人はノッポの久保田、男みたいなルーちゃん、のんびり屋の佳代、ダイエット強行中のジャンボ山井、無口で学校を休みがちな江崎。
鼓笛隊は五年生と六年生によって編成されています。
五年生は全員ピアニカで、六年生は太鼓や金管、アコーディオンなどの色々な楽器を受け持ちますが、それは全員ではありません。
そういった楽器を受け持てずに六年生でもピアニカになる人もいて、それが上記の6人というわけです。
史江は今まで”できないグループ”に入ったことはないらしく、この状況にショックを受けているようでした。
しかし、特に仲良しでもないこの6人が一緒に過ごすうちにちょっと一体感のようなものを発揮していくのは良かったです
そして会話がいかにも感受性豊かな子供で、読んでいて微笑ましくなることがありました^^

デュエットは、中学を舞台にしたわずか13ページの物語。
ショートショートが思い浮かぶような短さです。
音楽の実技テストを男女のペアで歌うことになり、さらに先生が
「せっかく男女で歌うのですから、お好きな方と約束するといいです。これぞと思う方に申し込みをしてください」
などと言うものだからクラスは悲鳴の嵐。
みんな誰に申し込むかで大騒ぎになっていました。
中学生ですからね、誰かが誰かに申し込めば即色恋沙汰として囃し立てられるような展開になります(笑)
短いながらも面白い作品でした

FOURは中学一年生のリコーダーアンサンブルの一年を描いた物語。
私のイチオシです
主人公は”スズ”こと山口鈴花。
そしてお調子者でふざけたことばかりやっている中原健太、とても背が高く、とても間の悪い西澤一人(かずと)、抜群の音楽センスを持つ高田千秋。
4人の音楽的センスに目をつけた音楽の先生の提案により、この4人でリコーダーアンサンブルをやることに。
ちなみにアンサンブルとはフランス語で「一緒に」という意味です。
結成の目的は、卒業式の卒業証書授与の時、BGMに音楽のテープを流す代わりに、4人がリコーダーの生演奏をするというものです。
スズがソプラノ、千秋がアルト、中原がテノール、西澤がバスで、練習に取り組んでいきます。
リコーダーにもこの4種類があり、上手く音色を重ねていけば美しいハーモニーになります

この作品の良いのは、春夏秋冬と一年を通しての物語なので、登場人物の変化が丁寧に描かれているところです。
春は甲高い声だった中原が夏休みの後半に学校に行った時に背が伸びて声変わりもしていてスズが驚いたり、スズが自分の恋心とどう向き合うか色々悩んだり。
初登場時には澄ました美人という感じだった高田千秋が結構毒舌な突っ込みを言うことがあったり。
西澤一人は音楽とは無縁な感じの風貌なのにすごく熱心にバス・リコーダーに取り組んでいるのが印象的でした。
そして、最も重要なソプラノで主旋律(メロディー)を吹くパートなのに感情表現が苦手なスズの悩み。
「私は、楽器で”歌う”のが苦手だった」と心境吐露していました。
技術はあっても、ただ吹くだけになってしまう傾向があるようです。
春先からのこの悩みがついに解決する時が来るのですが、そのスズの演奏の変化を敏感に感じ取る西澤もまた良かったです。
やはり鈍いように見えてもすごく良い感性を持っているのだと思います

裸樹(らじゅ)は、主人公の望(のぞみ)の序盤が痛々しかったです。
中学校では二年生の春に突然クラス中から無視等のいじめに遭って精神的に限界になり、不登校になってしまった望。
高校入学を機に、もう一度やり直そうと頑張っていました。
自らを「ノン太」と名乗り、お笑い系なことばかり言うボケキャラを作っている様は、凄く痛々しかったです。
そして自分のことを3クラス12人からなる友達グループの”末端構成員”と言っていたのも痛々しかったです。
その友達グループのリーダー格は名美、ミッチの2人です。
特に名美は同じクラスでもあり、望はとにかく名美を怒らせないように、ビクビクしながら生きていました。
万が一怒らせて無視でもされたら、また学校に居場所がなくなってしまうと恐れていました。
なので名美が不機嫌そうな表情になると言いたいことも言えずぐっと飲み込んでしまうことが多く、お笑いボケキャラの「ノン太」との差が半端ではなかったですね。

望と名美とミッチともう一人の若ちゃんの4人で、バンドを組んでいます。
ボーカルがミッチ、ベースが望、ギターが名美、ドラムが若ちゃん。
リーダー格で我の強い名美とミッチが好き放題やっているバンドです
私が名美にムカついたのが、自分は全然練習もせずギターを上手く弾けないのに、ベースの望が名美より上手くギターを弾くのを見て激怒して、それ以来望を無視したこと。
しかも「ギターは難しいんだよ、ベースが弾けるからっていい気になるな、お前が弾いてみろ」と一方的に望に突っ掛かっておきながらです。
要するに自分で蒔いた種で自分のメンツが丸潰れになり、それが我慢ならなくて望を逆恨みという感じで、最低な女だなと思いました。
しかし望も高校生になっても友達関係に四苦八苦していて可哀相でした。
望の心の支えになっていたのがタイトルにもなっている「裸樹」という曲。
いじめに遭った中学二年生の時も、高校に入って「ノン太」の仮面で必死にキャラを作っている時も、「ノン太」の仮面が取れてからも、常に望の心の中にあったのはこの曲です。
四編の中で唯一詳細な歌詞が出てきたこの曲、小説なのでメロディまでは分からなくとも、望の心に響いたであろう曲であることが、たしかに伝わってきました。


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