読書日和

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「私たちの願いは、いつも。」尾﨑英子

2017-02-18 17:36:17 | 小説


今回ご紹介するのは「私たちの願いは、いつも。」(著:尾﨑英子)です。

-----内容-----
14歳の二倍も生きてんのに、私たち、どうしてこんなに人生に不器用なんだろう――。
中学で同級生だった、28歳の女三人。
設計士として「住まいを作る」仕事と向き合いながら、突如豹変した母親との関わりに悩む曜子。
結婚し、娘を保育園に通わせて幸せな日々のはずが、なぜか満たされない紀子。
優雅な実家暮らしだが、誰にも明かせない”秘密”を一人で抱えている朋美。
神社で不思議な「小さいおじさん」を見たとクラス会で朋美が話したことから、それぞれの日々が少しずつ変化し始めて……。
第15回ボイルドエッグズ新人賞受賞作。

-----感想-----
本当は明るく爽やかな青春小説を読みたかったのですが適度なものが見つからず、文庫本コーナーを眺めていた時にこの本が目に留まりました。
「14歳の二倍も生きてんのに、私たち、どうしてこんなに人生に不器用なんだろう」の言葉から見て重そうな気はしたものの、そんなに長くはなく興味も引いたので読んでみることにしました。
物語は曜子、紀子、朋美それぞれが語り手の物語が交代で進んでいきます。

仲代曜子はハウスメーカーに属する設計士で、7年建築の設計をしています。
中学二年生の時のクラス会があり、そのクラス会の場で当間朋美という人が「近所の神社で小人を見た」と言っていました。
朋美によると小人は人差し指サイズで白いランニングに白い股引という休日のおじさんスタイルだったとのことで、クラス会に来ていた人達からは「何だよそれー、いるわけないじゃん」などとツッコミを入れられていました。
曜子はこの場面を「また訳のわからない発言をして注目を集めていた」と振り返っていて、朋美とは中学二年生の時同じグループにいたのですが、曜子は朋美のそういう面が苦手です。

曜子の両親は離婚していて、さらに母とは不仲で、親を頼らない人生を歩みたくて手に職をつける道を選択したとのことです。
現在は実家を出て一人暮らしをしています。
そんなある日、曜子は兄の穣(みのる)に電話をかけます。
朋美と同じく中学二年生の時同じグループだった美貴の実家は飲食店をやっているのですが、その店に毎日母親が来ていることを美貴から聞いていました。
外食嫌いだった母が毎日美貴の店に行き、さらにお酒を飲まなかったはずの母が家でも毎晩酒を飲んでいるため、母の変わりぶりに曜子は不安を感じていました。

持田紀子はクラス会から一ヶ月ほど経った秋のある日、3歳の娘、茉奈とともに音無(おとない)神社に来ていました。
クラス会での朋美の「休日に家でゴロゴロしているおじさんみたいな小人を見た」という発言が印象に残っていて、その妖精がいるのかどうかを見に音無神社に来ていました。
紀子にとって朋美は憧れの存在でした。
紀子は「朋美と曜子はクラスで目立つグループに属していたが、当時から二人はそれほど仲良く見えなかった」と胸中で述懐していました。
音無神社での参拝で紀子は「気の合うママ友ができますように」とお願いをしていて、妖精を探しに来たというのは娘を退屈させないための口実でもあり、真の目的はこのお願いだったのではと思いました。
紀子は8歳年上の祥一と結婚して不自由なく暮らしていますが、仲の良いママ友がいなくて孤独を感じながら子育てしています。

曜子が実家に行って母親の荒れた生活ぶりを目の当たりにし、「ここに住む人は、自分を見失っている」と心の中で語っていたのが印象的でした。
自分の部屋に帰ってきてからは、レンタルしてきたお笑いのDVDを見ていました。
「何も考えなくていいし、適当なところでやめられるし、何より笑えるのがいい」という、お笑いへのこの考えは良いと思いました。
そしてそのすぐ後「小さく吹き出すことができれば、ああ、笑ってるんだな、私、と安心できた」とあったのにはどんどん過ぎていく毎日に対し感情がなくなっているような印象を持ちました。

朋美はクラス会の時に幹事をしていた河鍋(かわなべ)一郎とご飯を食べています。
クラス会の後河鍋が誘ってきました。
河鍋は次から次に色々な人の噂を話して聞かせ、朋美は他人のことばかり話す河鍋に呆れ気味でした。
このご飯の後、朋美は河鍋から付き合ってくれと言われますが、河鍋の告白の態度に呆れていた朋美は断ります。
また、朋美はクラス会が行われる前に大手出版社を辞めていて、クラス会で小さいおじさんのことを言ったのは、大手出版社を辞めたのを話すと周りからあれこれ聞かれて面倒だからとのことです。
その大手出版社で朋美は同僚の羽鳥壮介と別れていて、しかも「羽鳥はもうこの世にいない」とあったのが気になりました。

曜子は兄の穣と飲食店で飲んだ時、穣の衝撃の事実を聞かされます。
これは私も驚き、これが原因で穣は絵里という2歳年上の彼女と別れていました。
曜子は絵里について辛辣に評していて、「意地悪な目で見ていると我ながら思う」と胸中で語っていました。
紀子が「仲代さんのほうが美形だけど、何というか刺々しくて、雰囲気美人の朋美ちゃんのほうが男女ともにウケが良かった」と振り返っていたように、曜子には不愛想さや刺々しさがあります。

ある日の食卓で紀子は夫の祥一に「根っこがネガティブだ」と言われ、ムカついていました。
また、中学二年生の時の曜子達のグループのことを考えていて、このグループには曜子、朋美、美貴のほかに渡部まりなという子がいました。
このグループの中心的人物で、曜子と朋美の良いところだけを備え持っていたのがまりなとのことです。
ただ、紀子はまりなに酷い目に遭わされたことがあり、その嫌な記憶があるため、本当は憧れの朋美のいるこのグループに入りたかったのですがついに言えませんでした。
「今でも朋美はまりなと連絡を取っているのだろうか。まりなに憧れているのだろうか。まりなからメールをもらったら、すぐに返信するのだろうか」と、考えを巡らしていました。
そして「14歳の倍だけ生きたのに、まだそんなことをいじいじと考えてしまう自分は、やっぱり根暗なのかもしれない」と胸中で語っていたのが印象的でした。
これは気になってしまうのは紀子の性格なので、それで良いのではと思います。
そして気になってあれこれ考え出した時に、考えの渦に飲み込まれないように意識してその考えを止めてあげるのが大事だと思います。

保育園に茉奈を迎えに行ったある日、紀子は篤司という子の母親の小野寺妙子さんときっかけがあって仲良くなります。
これは読んでいて嬉しかったです。
紀子は東京の月島の運河の近くのカフェでアルバイトをしているとのことです。
さらに妙子も音無神社の「小さいおじさん」のことを知っていて、結構有名な噂になっているようでした。
二人は一緒に音無神社に行こうと約束します。

朋美には河鍋から電話がかかってきて、どうでもいい内容を次々と話してきていました。
河鍋はしきりに言い寄ってきますが付き合っている彼女がいて、口では現在の彼女と別れると言っていても「現在の彼女を切らないまま二股をかけられるのが目に見えていた」と、朋美は冷静に見ていました。
紀子からメールが来て、「朋美ちゃんは私の憧れ」と書いている紀子に対し、朋美は今の自分を自嘲していました。
そんな時、うっかり羽鳥壮介の携帯に電話の発信をしてしまったことから、折り返しの電話がかかってきます。
かけてきたのは羽鳥の妻でした。
朋美と羽鳥は不倫関係で、この妻からの電話でこの後どんな展開になるのか気になりました。

建築途中の家に依頼主が見学に来ていた時、大工の棟梁の北尾という人が曜子に興味深いことを言っていました。
「せっかく今の仕事してるんだから、いつかお母さんのために家を建ててあげるわってくらい、言っておくんだぞ」と言い、曜子が「私の稼ぎでは無理」と言うと、次のように言っていました。
「実際に建ててやらなくていいから、とりあえず言ってやるんだよ」
「実現しなくても、あの子はあんなことを言って口ばっかりだって他人に愚痴る楽しみを作ってやれんの。罪深いっていうのは、あんたが心苦しいってことだろう。それくらい引き受けてやろうよ、どうせ一銭もかからねえんだから」

これは印象的な言葉でした。
「実現しなくても、あの子はあんなことを言って口ばっかりだって他人に愚痴る楽しみを作ってやれんの」という考えは、無理だからと最初から何も言わずにその話題の接点をなくすより良いかも知れないと思いました。
曜子は穣との待ち合わせまでの時間潰しに寄ったベーカリーで紀子に遭遇します。
仲良くなった妙子とさらにもう一人新たなママ友がいて、紀子の日常が明るく楽しいものになってきていることが分かりました。

朋美の家には銀木犀があります。
金木犀に比べると香りも色も地味とのことで、金木犀は知っているのですが銀木犀は初めて聞きました。
朋美は母親と喧嘩ではないのですがギクシャクした雰囲気になりがちです。
羽鳥の妻から電話がかかってきた件の対応をしようとしていた時に美貴と遭遇し、「母親と一緒にいると疲れる。会話っていっても、向こうが話したいことを話して、こっちは聞いてやるって感じだし」というと、美貴は次のように言っていました。
「お母さんにしてみれば、ニート状態の娘が言われたくないことを自分が言わないようにするために、どうでもいいことを喋ってくれてんのかもよ」
「気を遣ってくれてんじゃないの、親なりに」
美貴は朋美を諭していて、その考えは朋美が一人で考えていた時には出てこない考えでした。
人に話すと自分とは違う視点での意見が聞けるのが良いと思います。

朋美は思い立って紀子に電話をかけます。
「音無神社に言ってからちょっとおかしなことがあってさ…」と言うと、紀子は「何だかわかんないけど、小さいおじさんのパワーだったりしてね」とあっけらかんと言っていました。
その言葉に朋美は不思議と納得していました。
クラス会の時、朋美は冗談で小さいおじさんのことを言っていたのですが、いつの間にか色々なことが起こっていました。

曜子は穣とともに美貴の店に行き、お酒をたくさん飲んでいる母親と会います。
ついに何か問題を抱えているであろう母親と正面から話す時が来ました。
穣は穏やかですが母親と曜子はどちらも不愛想で勝気な性格のためなかなか激しい展開になりました。

曜子、紀子、朋美の三人の物語はそれぞれ抱えている思いがあり、先の展開が気になりました。
内容紹介に「14歳の二倍も生きてんのに、私たち、どうしてこんなに人生に不器用なんだろう」とあったように、三人とも器用なタイプではなく、苦しい人生になっていました。
それでもその中でも三人とも目の前にある人生の困難と向き合い、この後の人生に希望が持てそうだったのが良かったです。


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