このレートが実現していれば、08年末段階で世界最大の保有国である中国の米国債の価値は2873億ドル(約25兆円)も目減りしたことになる。
中国の米国債保有額は今年8月末時点で、08年末よりも2割近く増えている。そのうえ円をはじめ世界的にドル安が進んだのだから、人民元が適正水準になれば「含み損」はふくらむはずだ。ドル安は人民元次第で中国の外貨資産にも大きな被害を及ぼすわけだ。
人民銀行は今年6月、「人民元為替レートの弾力性を強める」との声明を発表し、元高に向かいつつある。といっても、「中国人は漢方医学を好む」(周小川・人民銀行総裁)と、上昇ベースは非常に緩やかだ。
「85年のプラザ合意後、日本は急激な円高による不況に苦しめられました。中国は、この再現を警戒しています」(清水准教授)
こんな見方もある。
「あまりに急激な元高は、輸出の足を引っ張って国内景気が悪化するだけではなく、米国債をはじめ外貨資産の8割を持つ政府が大きな損失を被ることになります。政府の一機関である人民銀行にとっては政治的にマイナスで、避けたいところです」(前出の研究者)
いずれにしても、ドル安傾向が続けば、人民元が割安ならばインフレから抜け出せず、急いで切り上げれば景気が腰折れしかねない。どちらを選んでも、中国経済には「逆風」だ。
そんななかで、習近平国家副主席が次の最高指導者になることが確実となった。父は文化大革命で失脚した元副首相で、夫人は軍に所属する国民的歌手。自身も地方行政に25年間携わったほか、共産党中央軍事委員会の事務局にあたる部署に勤務したことがある。「地方の実情に明るく、大衆に近い存在だという評価があります」(慶応義塾大学の加茂具樹准教授)
12年にトップに就くとされる習氏の最大の仕事は格差の是正だ。だが、「今後、景気が減速局面を迎えることから経済成長を重視し、格差是正が多少遅くなるケースがあるかも」 (みずほ総合研究所の鈴木貴元・上席主任研究員)
厳しい環境の中で、習氏は、中国経済の「崩壊」を阻止できるのか。
本誌・江畠俊彦