電話を受けた後輩の川田が、城山に向かって、叫んだ。
「先輩!水谷さんが!亡くなったそうです!」
「なにぃっ!水谷のじいさんが、死んだ?」
フロア内の、何台もの電話のベル、怒号とともに飛び交う情報の嵐が、一瞬、消えた。
城山は、手で丸めた雑誌のページに載っている老人の写真に、目を落とした。
「水谷秀男が、死んだ、だと?」
電話を切った川田が、こちらに近づいて来ると、一瞬の沈黙が崩れ、そこは再び、騒音に囲まれた。
「崖っぷちから海へ落ちたそうです。遺書が無いので、事故と事件の両方で、警察が動いているそうです。」
「今の電話、どこからだったんだ?」
「“会”からです。身内がいないので、警察から“会”に連絡があったそうです。」
「よし、川田、警察に行くぞ。すぐ車を出してくれ。」
城山は、車が警察に向かう途中で、水谷老人がどこで転落したのか聞いていなかったことを、川田に尋ねたが、自分も肝心なことを聞くのを忘れてました、と、彼は言った。城山は、ちっ、と短く舌打ちをしただけで、警察に着くまで、一度も口を開かなかった。
(つづく)
「先輩!水谷さんが!亡くなったそうです!」
「なにぃっ!水谷のじいさんが、死んだ?」
フロア内の、何台もの電話のベル、怒号とともに飛び交う情報の嵐が、一瞬、消えた。
城山は、手で丸めた雑誌のページに載っている老人の写真に、目を落とした。
「水谷秀男が、死んだ、だと?」
電話を切った川田が、こちらに近づいて来ると、一瞬の沈黙が崩れ、そこは再び、騒音に囲まれた。
「崖っぷちから海へ落ちたそうです。遺書が無いので、事故と事件の両方で、警察が動いているそうです。」
「今の電話、どこからだったんだ?」
「“会”からです。身内がいないので、警察から“会”に連絡があったそうです。」
「よし、川田、警察に行くぞ。すぐ車を出してくれ。」
城山は、車が警察に向かう途中で、水谷老人がどこで転落したのか聞いていなかったことを、川田に尋ねたが、自分も肝心なことを聞くのを忘れてました、と、彼は言った。城山は、ちっ、と短く舌打ちをしただけで、警察に着くまで、一度も口を開かなかった。
(つづく)