川田は、警察に着いて、担当の刑事と会うまでの待ち時間に、“安楽死の未来を考える会”の事務所に電話をかけ、これからくわしい事情を聞くことを伝えた。冷静に電話を切った様子だった川田は、
「“会”の連中、かなり混乱しているようですよ。」
と言った。もしかして、このまま空中分解かな、という思いが、ため息と共に川田の口から出ようとした時、指を組んで、ずっと顔を伏せていた城山が、
「・・・そんなこと、させてたまるか。」
と、つぶやいた。
自分とじいさんが歩いてきた10年を、こんなことで潰させるわけにはいかない。断じて。安楽死問題が、偏見にとらわれずに、人々の話題に上るようになってから自分の下で働くようになった川田には、わからんのだ。
「おれとじいさんはな、今日まで10年、1分1秒たりとも、気の休まる間も無く、戦ってきたんだ。たった2人でな。たった2人だけでだ。・・・このまま、反対派のエサになって潰されるわけにはいかないんだ!え?わかるか!」
わかるか?じいさん。・・・わかってて、・・・一体、何だって死んじまったんだ?
そうだよな、・・・それは、先輩が一番身にしみて感じてることなんだ。川田は、ため息を飲み込んだ。
担当の刑事の話は、30分足らずの的を得ないものだった。城山たちからの矢継ぎ早の質問を、全て、「まだ、はっきりとしたことは言えません。」の一言で片付け、水谷と城山がどんな関係だったか、水谷に変わった様子は無かったか、など、城山たちから、的確に情報を引き出して行った。
結局、城山たちが仕入れたことといえば、水谷が、妻・和子と新婚旅行で訪れたある宿から、歩いて15分ほどの絶壁から落ちた、ということと、遺書も争そった跡も無いので、誤って転落したのではないか、ということだけだった。
事故か・・・。しかし、誰かに呼び出され、証拠を隠滅された、ということもあり得る。・・・としたら、誰に?誰かと一緒だったのか?・・・答えろ!じいさん!!
(つづく)
「“会”の連中、かなり混乱しているようですよ。」
と言った。もしかして、このまま空中分解かな、という思いが、ため息と共に川田の口から出ようとした時、指を組んで、ずっと顔を伏せていた城山が、
「・・・そんなこと、させてたまるか。」
と、つぶやいた。
自分とじいさんが歩いてきた10年を、こんなことで潰させるわけにはいかない。断じて。安楽死問題が、偏見にとらわれずに、人々の話題に上るようになってから自分の下で働くようになった川田には、わからんのだ。
「おれとじいさんはな、今日まで10年、1分1秒たりとも、気の休まる間も無く、戦ってきたんだ。たった2人でな。たった2人だけでだ。・・・このまま、反対派のエサになって潰されるわけにはいかないんだ!え?わかるか!」
わかるか?じいさん。・・・わかってて、・・・一体、何だって死んじまったんだ?
そうだよな、・・・それは、先輩が一番身にしみて感じてることなんだ。川田は、ため息を飲み込んだ。
担当の刑事の話は、30分足らずの的を得ないものだった。城山たちからの矢継ぎ早の質問を、全て、「まだ、はっきりとしたことは言えません。」の一言で片付け、水谷と城山がどんな関係だったか、水谷に変わった様子は無かったか、など、城山たちから、的確に情報を引き出して行った。
結局、城山たちが仕入れたことといえば、水谷が、妻・和子と新婚旅行で訪れたある宿から、歩いて15分ほどの絶壁から落ちた、ということと、遺書も争そった跡も無いので、誤って転落したのではないか、ということだけだった。
事故か・・・。しかし、誰かに呼び出され、証拠を隠滅された、ということもあり得る。・・・としたら、誰に?誰かと一緒だったのか?・・・答えろ!じいさん!!
(つづく)