すずりんの日記

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小説「雪の降る光景」第1章Ⅰ~14

2006年03月03日 | 小説「雪の降る光景」
 麻痺しているとはいえ、痛みの無いのに変わりはなかった。私は起き上がる時、無意識のうちに右手を支えに使っていた。私は幼い頃から、痛覚と感情を精神力でコントロールすることができた。よって、怒りで痛みを消すことなど、なんてことはなかった。私と数人の仲間はそれを知っていたが、ハーシェルたちは、―――かわいそうに、―――それを知らないのだ。
 今、ハーシェルたちは誰一人として私に注目していなかった。私はもう気を失っていると誰もが思っていたので、私の友人たちへの暴行に全力を尽くしていたのだ。ハーシェルは、自分がボスであることを内外ともに知らしめるかのように、唯一人、拳を振り回している自分の仲間と殴られている私の友人を遠回しに見つめていた。その彼さえもが、私が倒れていた場所に背を向けているせいで、私が背後から彼に近づいて行くのに全然気づいた素振りを見せなかった。
 私は、彼の後頭部に息がかかるほどの距離まで近づき、不意に左腕を彼の首に巻きつけた。一瞬彼は、驚いて声を出せずにいたが、私がギリギリと腕に力を増していくと、私の腕と首の隙間に指を滑り込ませようともがきながら、こう叫んだ。
「くっ、苦しい!やめろー!」
私は、その叫びを待っていたのだ。そして、その思惑通り、彼の仲間たちはびっくりして拳や蹴りを止めた。彼らはこちらに目をやり、呆然としていた。彼らのうち数人は、目を見開き、怯え、私の方に殴りかかろうとした2人の仲間を制止させていた。きっと、この間私がケガをした時、ハーシェルと一緒にいて一部始終を見ていた連中なのだろう。彼らが今日も仲間に加わっていたことは、ハーシェルたちにとっても、私にとっても、都合が良かった。彼らが私の恐さを知っているなら、ハーシェルたちは大事な仲間にケガをさせないで済むし、私は、この間以上に本気にならなくても相手に敗北を認めさせることができる。
「知らなかったのなら覚えておけ。俺たちにケンカを売るなら、俺を一発で殺るか、自分も同じ目に遭う覚悟が必要だってことをな。」
私は、左腕の力を抜くこと無くこう言ったが、彼らはその言葉を聞く前に、既に後悔をし始めていた。特にハーシェルには、耳元から聞こえてきた私の言葉が、私はおまえを殺すことなんか何とも思ってないんだぞ、というふうに聞こえたに違いない。


(つづく)
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