農林水産省では、2023年でユネスコ無形文化遺産に登録されて10周年を迎える中、第4次
食育推進基本計画(令和3年3月食育推進会議決定)を踏まえ、日本人の伝統的な和食文化
を次世代に継承していくための活動に力を注いでいます。
その活動の中の一環として、「和食」の特徴である、全国各地で受け継がれてきた地域固
有の多様な食文化を地域ぐるみで次世代に継承していくことを目的に、「うちの郷土料理
~次世代に伝えたい大切な味~」を令和元年に開設しました。そして、毎年都道府県別に
郷土料理として認定した品目をデータベース化して発信してきました。そして、令和4年
に20都府県579品の追加掲載をしました。これにより掲載品目数は1,365となり、全47都
道府県の郷土料理が勢ぞろいしました。各地域で選定された郷土料理のいわれや歴史、そ
してレシピ等にとどまらず、郷土料理を生んだ地域の背景等についてもデータベース化し
て広く情報発信をしています。「家庭での調理や外食企業でのメニュー化、食品製造企業
での商品化、郷土料理の調査などに是非、ご活用ください」と言うのが狙いです。このデ
ータベースを覗いてみましたが、各地域の郷土料理がかなり広い視点で捉えられており、
読み物としても大変面白いです。茨城県では30品目が紹介されていました。
今回はこの選定が納得できるものなのかどうか、私見で納得度の評価してみたいと思いま
す。今回は2回目で「県央地区の郷土料理編」で6品目です。品目によっては「県内全域」
など地区を特定していないものもあります。私見で割り振ったものがあることをご承知く
ださい。
<農林水産省が定義する「郷土料理」とは>
「うちの郷土料理」の選定基準
1.必須項目
(1)地元で入手できる食材を利用する:地元で生産された食材のみならず、流通網の発
展等により他の地域から入手した食材を用いた郷土料理も含む。
(2)歴史・文化・風習的な特徴、又は気候・風土を背景とした特徴がある
(3)家庭・地域で作られ、継承されている
(4)全体数のうち1~2品以下:(1)~(3)の選定基準(必須項目)に当てはまらない
が、歴史的に残すべきと考えられる
2.推奨項目
(1)地域において人気・愛着がある
(2)都道府県内の地域バランスに著しい隔たりがないか
(3)伝統的な郷土料理から、現代的な文脈で変容したレシピである。
(4)地域におけるメニュー化や新たなレシピ化などの次世代継承に向けた「新しい価値」
の提供があるか
※データベースからダウンロードできる画像は二次利用も可能です。
※茨城県では7名の方が検討委員会の委員として公表されています。
(データベースに記載されている茨城県の郷土料理30品目の地区別の振り分け)
1.県北地区:「つけけんちん」「干し芋」「いわしの卯の花漬け」「柚子大根」「手作り
刺身こんにゃく」「凍みこんにゃく」「あんこうの共酢」「バイタ焼き」
「赤餅」(9品目)
2.県央地区:「煮合い」「紫錦梅」「こも豆腐」「五目いなりずし」「そぼろ納豆/しょぼ
ろ納豆」「かぼちゃのいとこ煮」(6品目)
3.県南地区:「ワカサギとれんこんの酢漬け」「がりがりなます」「たがね餅」「小倉て
んこん」「うなぎの帆引き煮」「鯉の唐揚げ」「ピーナッツ味噌/落花生味
噌」「れんこんのきんぴら」(8品目)
4.県西地区:「しもつかれ/すみつかれ」「すだれ麩(ふ)のごま酢和え」(2品目)
5.鹿行地区:「はまぐりごはん」「ござい漬け」「海藻よせ」「みつめのぼたもち」「い
もがらの炒め煮/いもがらの五目煮」(5品目)
<今回紹介する茨城県央地区とはどんなところか>
茨城県央地区は、茨城県中部に位置する地域の総称です。この地域には県庁所在地の水戸市、
ひたちなか市、小美玉市、笠間市、那珂市、東茨城郡の大洗町、茨城町、城里町、那珂郡の
東海村が含まれています。人口は約69万6,602人で、面積は1,145.83 km²、人口密度は
603人/km²です。交通面ではJR常磐線が県南地域から県北地域へ、小美玉市から水戸市経由
で東海村を結んでいます。また、JR水戸線、JR水郡線、鹿島臨海鉄道大洗鹿島線、ひたちな
か海浜鉄道湊線もこの地域を走っています。観光名所やおすすめスポットも豊富にあります。
<県央地区発祥の郷土料理>
県央地区の中心は水戸。水戸は言わずと知れた納豆の名産地。藁で包んで発酵させると、適
度に水分を飛ばし、より凝縮した味わいが出ます。米も大豆もつくる、この地区ならではの
郷土料理といえます。もちろんこの地区では野菜の栽培も盛んで、どれも関東ローム層の黒
土が支えた農業です。納豆に続く名産品の「ほしいも」は、さつまいも栽培に適した地質が
貢献しています。冬の乾燥した北風と、海からの潮風がほしいもの乾燥に良いのです。空は
どこまでも広く、冬はかなり寒くなります。この自然を受け入れて暮らす、この地区は食に
恵まれた場所なのです。 海に面する那珂湊では、アンコウに加えて、県魚のヒラメ、ホウボ
ウなど、様々な魚種が日々漁獲され、活気よく競り落とされています。そして、新鮮な野菜
も年中揃う豊かな場所なのです。県央地区の郷土料理として選定されたのは6品目です。
早速、一品目別に納得度の評価に入ります。
1.「煮合い」
「煮あい」は、茨城県水戸市の下市地方で愛される郷土料理です。この料理は、地元でとれ
る食材を活用して作られ、特にレンコンやゴボウなどの野菜を「煮て和える」ことから名付
けられました。酢を加えてさっぱりとした味わいに仕上げられ、お正月や祝いの席などで提
供されることが多いです。具材や味付けは家庭ごとに異なり、白ごまをふりかけて食べるこ
ともあります。酢が入るため日持ちします。現在水戸市で栽培されているごぼうは、根の長
さが40cm前後の短根ごぼうです。シャキッとした食感と食味が自慢で、香りが良く甘みが
あるのが特徴です。柔らかく、歯ざわりが良いのでさっと湯がいてサラダにしたり、酢漬け
にするとおいしく食べられます。お正月やお祝いごと等人が集まる時に作られてきたもので
す。煮合いは昔ながらの材料とともに、特産物のごぼうを使って郷土食を出しています。
地元生まれの郷土料理ですから、選定に納得です。
2.「紫錦梅(しきんばい)」
「紫錦梅」は、茨城県水戸市の郷土料理で、別名「梅びしお」とも呼ばれています。水戸藩
徳川家9代藩主・徳川斉昭が作らせた偕楽園には約100品種3000本の梅が植えられ、梅の名所
として知られています。偕楽園で採れた梅の実は、傷がないきれいなものは梅干しにしたり、
梅酒として利用されますが、傷があったり、見た目が悪い梅の実を木槌などでたたき割って
種を除き、果肉のみを紫蘇(しそ)、塩と共に漬けたものが紫錦梅です。赤しそを加えて発
色を良くし、白米やおかゆのお供、おにぎりの具材としても活用されています。梅の実の収
穫時期は6月中旬から下旬ですが、紫錦梅は保存食でもあるため年間を通して食べられます。
各家庭でも作られますが、偕楽園でも園内で採れた梅を使った紫錦梅が販売されており、土
産としても人気が高いです。斉昭公が梅の木をたくさん植樹したのには理由があり、一つは、
梅が春の訪れを告げる花として人々を前向きな気持ちにさせるというもの。そして、梅の実
の酸味は、喉の乾きと疲れを癒してくれるため、軍事用の食料として最適だったということ
から、梅の木が数多く植えられたとなっています。偕楽園で実った梅を余すことなく有効活
用しようと斉昭公が考案したのが「紫錦梅」です。実は食用梅は県内であまり流通していま
せんでしたが、近年になって茨城県産のブランド梅・常陸乃梅が普及しつつあり、食の面で
も梅が名産となっています。柔らかくなりすぎた梅で漬ければ、形が無くなり、これが本来
の「梅びしお」です。水戸藩主導の郷土料理ですから、選定に納得です。
3.「こも豆腐」
「こも豆腐」は、豆腐をわらで包み、出汁や砂糖や醤油などで煮込むため、わらの香ばしい
匂いや、旨みがしみ込んだ優しい味わいを楽しむことができます。大豆を使ったこの料理は、
茨城県だけでなく、福島県や群馬県、岐阜県などの一部の地域でも作られています。豆腐は
紀元前2000年ごろに中国で誕生し、その後、奈良時代に遣唐使を通じて日本にもたらされた
と言われています。食べる際は、醤油や酢味噌につけて食べるのが一般的です。こも豆腐は
「こも」と呼ばれるわらで編んだ包みで豆腐を包んで作られますが、わらで包んだ食品のこ
とを「つと(苞)」とよぶことから「つと豆腐」とも呼ばれます。茨城県といえば水戸納豆や
豆乳など、さまざまな大豆製品が有名であり、豆腐もそのひとつです。「豆腐=長期保存が
難しい」を解決して生み出されたのが、こも豆腐。風味だけでなく、利便性にも長けている
食品なのです。こも豆腐に使用されている主な食材は、豆腐、砂糖、醤油、煮出し汁です。
また、ニンジンやゴボウを芯にして豆腐をわらで包む作り方も存在します。レシピによって
は、料理酒やみりんを使用することもある。作り方も非常に簡単で汎用性も高いため、普通
の豆腐に飽きてしまった人や、さまざまな豆腐料理に興味がある人はぜひ一度こも豆腐を食
べてみてほしい。酢味噌を乗せた「こも豆腐」は美味しいです。選定に納得です。
4.「五目いなりずし」
関東全域でよく見られるいなりずしの一種です。五目いなりずしの定義は「さま ざまな具
材を米と一緒に詰めていること」なので、好きな食材を自由に組み合わせることができます。
ニンジン、ゴボウ、レンコン、シイタケなどは一応五目いなりずしの鉄板の具材ですが、必
ず使用しなければいけないという決まりはないため、アレンジしやすいのも五目いなりずし
の魅力といえるでしょう。特に笠間市では、日本三大稲荷の一つである笠間稲荷神社が、古
くから市民や参詣客に「笠間いなり寿司」を振る舞ってきたと言われています。五目いなり
に使用する食材は先述した野菜に加え、油揚げ、米、糸こんにゃくなどが挙げられます。
また、地域や季節によってはギンナンやタケノコ、ひじきなどを加える場合もある。作る人
や店によって、使用する具材が異なるのです。あえていうなら、農業県の茨城のいなり寿司
の中身は、地元でとれる農産物をたっぷり使った「五目いなり」です。いなり寿司は江戸時
代、稲荷神社に供えてあった油揚げの中にごはんを詰めたことが始まりだという説が知られ
ています。江戸時代の文献には、屋台でいなり寿司が売られている様子が描かれているそう
です。当時から安価で、素朴な味でおいしく、手頃な食べ物として人気を博したと言われて
います。現在もスーパーやコンビニにならんでいますね。江戸代から現代まで食べられてい
るファストフード、それが五目ちらし寿司です。関東全域で食べられていますので、郷土料
理として選定されたのに疑問がありますね。でも笠間稲荷寿司は有名ですよ。
5.「そぼろ納豆/しょぼろ納豆」
水戸市を中心とする県央地域で見られる伝統的な料理です。納豆に塩漬けにした 切り干し
大根を混ぜ、しょう油などの調味料で味をつけたものです。小粒の大豆が特徴で、保存食と
して水戸地方の農家で作られています。そのまま酒の肴として、ご飯にかけたり、お茶漬け
の具にして食べるなど、様々な食べ方が楽しめます。シャキシャキとした切り干し大根の歯
ごたえと、納豆の柔らかさがよく合い、まろやかな味わいとなっています。独特の食感と風
味があります。「そぼろ納豆」の名前の由来は、納豆に混ぜる切り干し大根が、細かくほぐ
れている様子を「そぼろ」に見立てたことに由来しています。「そぼろ丼」「そぼろ煮」な
どそぼろの名がつく料理がありますが、納豆というのが茨城らしいじゃないですか。
選定に納得です
6.「かぼちゃのいとこ煮」
茨城県を中心に根付いた郷土料理で、冬至の定番料理として親しまれています。いとこ煮と
は、富山県をはじめとした北陸地方、奈良県、山口県でも郷土料理として食べられている根
菜と小豆を甘しょっぱく味つけた煮物です。神様に供えた食材を寄せ集めて煮たことがはじ
まりで、もともとはお盆やお正月、祭礼の際に食べられていました。今でも一般家庭で楽し
まれているほか、地域の祝い事のときにはいとこ煮がよく食べられています。根菜の部分が
かぼちゃであることが茨城県スタイルですが、実はこのかぼちゃと小豆の組み合わせが他県
でも多いです。しかし、煮物ではなく汁物であったり、小豆や大根の味噌汁のことを指す地
域もあります。このような地域差があるのも、いとこ煮の面白いところです。「いとこ煮」
の名前は、野菜別にめいめいに煮ることから「姪々」とかけ、姪同士はいとこであるからと
いう説もあります。さらに、野菜や豆は畑でとれるもので、いとこのようなものだからとい
う説もあります。かぼちゃは保存がきくため、あまり食糧がとれない時代の貴重な栄養源と
なっていました。冬至の日にかぼちゃを食べるのは、保存していた栄養価の高いかぼちゃを
食べて健康に乗り越えられるように願いを込めていたと言われています。県外でも広く郷土
料理として知られていますから、選定漏れの中にもっとふさわしいものがあるのではないか
と思うのですがね。
今回は県央地区の郷土料理として取り上げられた6品目を紹介しました。次回は県南地区の
郷土料理を紹介します。
皆さんが茨城県の郷土料理を知り、親しんでいただけることを願っています。
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