「泡」が描く世界では、何かにつまずいた人々が海に浮かぶ家ででの生活を強いられている。
3組の海の上で暮らす家族、これらを見守る灯台守、それを監督する行政、それに反体制グループがから
むという岩松 了特有のロジックでドラマが展開する。
海上生活者という設定にしたのは、震災後、われわれの心の中に食い込んでしまった不安定さを象徴した
ものだと岩松さんはいう。
舞台に大きなガレキが流れてくる。終幕ではそのガレキがちっぽけながら再生する。
つまり不安定さに「ガレキ」を再生させるという”夢”というか”希望”を重ねたというのが、どうやら作者の
ねらいらしい。
休憩をはさんで3時間の芝居で、出演者が叫んでいる「ガレキ」、「行政」、「いじめ」の単語だけが観
客の耳に残る。
ピッコロ劇団17人に、オーディションで択ばれた関西の俳優16人が加わった大がかりな舞台だっただだけに惜しまれる。
3.11の震災が着想のきっかけであることは確かである。ならば、このような作劇しかなかったのか。
岩松了氏はかつて蜷川幸雄さんが率いる劇団「さいたまゴールドシアター」の第1回公演に『船上のピクニック』を書き下した。
これも今回同様の群集劇で、リストラで大量解雇されたホテル従業員たちの不安と希望をのせ、再就職先となる、とある国のリゾートホテルに向かうとい
う豪華客船のデッキだけのセットでドラマが展開する。
出演者はさいたまゴールドシアターといえばかっこいいが、応募でえらばれたシルバーさんばかり。当時話題になり日刊紙でも騒がれた。
この作品が評判になり、再演された。5年前のことである。
今回『泡』に出演している最年長の渡部純二さん(71)も「船上のピクニック」出演者の1人だった。
群集劇でありながら、一場面で大勢が動き回るのではなく、小人数が演じる場面をいくつか作り、それらがうごめき合う構造で、劇場いっぱいに群集の江
ネルギーを充満させる、これが岩松ワールドなのだが、今回は個々の場面で叫んだり、わめくだけで、ドラマとして盛り上がらず、プロパガンダ劇に終始し
ているのである。
ピッコロ劇団の岡田 力,森万紀、平井久美子が登場すると安心して見ていられる。また舞台が締まる。
それに、印刷業の傍ら演劇に40年以上かかわってきたという渡部純二さん。
65歳の時、本業を辞め、劇団「神戸」から単身埼玉に移住。蜷川ワールドに2年間どっぷり浸かった。
いま71歳になっても舞台への意欲満々の祖父役の渡辺純二さんにはエールを贈りたい。