おっちーの鉛筆カミカミ

演劇モノづくり大好きおっちーのブログです
いろいろ活動してます
そのうち、みなさんにお目にかかれたらうれしいです

めでたいな

2013年11月28日 21時59分32秒 | 小説・短編つれづれ
 わたしのダンナは、ハゲ頭だ。それが、大晦日に富士山に登ろうと言い出した。二人共いい歳だ。真冬に登山……遭難するのがオチなんじゃないかい。
 ダンナは本気だった。嫌がるわたしを言いくるめ、どうにかこうにか、富士のふもとまで連れ出した。それからわたしは、「絶対に登りたくない」と必死で抵抗した。
 わたしのダンナは、昔から口がうまかった。今でもわたしは、だまされて口説かれ、だまされて結婚したと思っている。
 案の定、我々夫婦は遭難をしている。このさっぶい雪山の中、進む道を見失っていた。
「あんたの言う事は、みんな嘘! 昔っからそうだった!」
「言うに事欠いて、ヒドイこと言うなあ、お前」
「言うに事欠いてないわ、本気で言ってるのよ!」
「冗談もたいがいにしいよ。とりあえず、疲れたから休もうか」
「こんな状況で寝るなあ!」
「だからさ、なんとかなるって」
 ならん!そう言おうとした時、ダンナの頭頂がまぶしく光った。一瞬目を逸らしたその後ろから昇ったのは、
「ほら、御来光」

大逆転グランドスラム

2013年11月28日 20時23分36秒 | 小説・短編つれづれ
 真っ赤なお鼻なのは、トナカイならぬこのア・タ・シ……なのだ。サンタみたいに大きなこのお鼻。てっぺんに膿が溜まったって。今度手術するという。アイタタタ。
 そしてほっぺも赤い。なにしろ冬だもの。寒いわあ。着込んで着込んで、外に出掛ける。
 いつも遊ぶ公園。ステディの優が、すぐに寄ってくる。
「寒いね。明日も寒いのかな」
 さあ、どうだろう。きっと寒いんじゃないかしら。
「あっち行こうよ。ブランコで遊ぼう」
 いいけど、あぶないことしないでね。あなたオテンバなんだから。
 二人でブランコ遊び。そんな中、いい男いないかなあ、と探してしまう。人恋しい季節。でも、残念ながらこの場所にあたしのお眼鏡に適うような男はいない。
「あーあ、不倫したい」
「お母さん、フリンってなあに?」
 正太が耳ざとく私の言葉を聞きつけた。
「犯罪」と私は答えた。
「ハンザイってなあに?」正太が続けると、
「正太君、そんな事も知らないの?」優が正太の背中を押しながら、馬鹿にしたように言った。
「優ちゃん、ハンザイって?」
「しちゃいけないこと!」
「じゃあフリンは?」
「しちゃいけないこと!」
 いいのよ、不倫は、しても。私は子供たちに聞こえないように呟いた。そして、空を見上げた。さっきまで一片の雲もなかった青空は色を替え、オレンジと紫のグラデーションに染まっていた。家に帰る時間だ。吹く風は、相当に冷たい。木々の葉っぱは、全て落ちていた。
 家に帰れば、じきにサンタが帰ってくる。私はトナカイ。赤鼻のトナカイ。
 今日はクリスマス。サンタは、ケーキを買ってくるだろう。ヤツの買ってくるケーキは、美味い。口惜しいくらい。
 正太の手を引きながら、私は彼に問うた。
「正太は優ちゃんと結婚するの?」
「うん!」
 口惜しいくらい、ヤツの答えには曇りがなかった。

ココロカラカラ

2012年11月27日 23時29分35秒 | 小説・短編つれづれ
ようやく朝になった。
夜まであと何時間?
私は眠りたい。
朝になったからには、顔を洗わなくてはならない。
それは周知の事実。
だから私は顔を洗い、歯を磨き、朝食を食してまた歯を磨いた。
ラジオ体操モドキを行った。
あまり体調は良くない。
外に出たいが目的がない。
散歩にでも行くか。
何も考えたくない。
ただ、一つのことだけ考えて、ただ淡々と時間が過ぎていくのがいい。
複雑な事とは関わりたくない。
散歩にでも行くか。
掃除でもするか。
めんど臭い。
外着のままで布団の中に潜った。
やっぱり眠りたい。
無理はすまい。
眠ろう。
目が覚めると夕方の5時だった。
俺の人生、これからどうなるんだろう。
こんな調子が、いつまで続くんだろう?
夜眠れない。朝ようやく眠りにつき、昼間はひたすら眠い。
そしてまた、夜眠れない。
どうしよう。

かっちゃん

2011年03月23日 23時03分13秒 | 小説・短編つれづれ
 今回は、私の芝居仲間、ジョーくんという青年の書いた作品を掲載します。
 本当は、ばかいわシアターコンテスト用に書いてくれたものだったのですが、私のところに持って来てくれたのが締め切り過ぎた後だったので、しばらく保留になっていたものです。
 発表の場がないと寂しいので、私のブログ上ででも、一応は「発表」したことになるかな、と思い……マシかな、と思い、この時点でアップすることに決めました。
 では、ジョーくん作「かっちゃん」、以下、お楽しみください。


      *  *  *


おとうさんが急にいなくなった。

それは冬の痛いような冷たい風をお父さんの後ろでやりすごしていた僕には大問題だった。
でも、そのうちいつものように

「ただいま。」

なんていって帰ってくると思っていた。
そして、僕を見つけて帰ってきたぞ~と言いながら僕をぎゅっとしてくれると思っていた。

お母さんにその話をしたら

「お父さんは遠いところに行ってしまって、もう本当に帰ってこないのよ…。」

と、僕に、なみだをぽろぽろと流しながら言ったけれども、

「ただ遠いところに行っちゃったんなら、帰ってくるかもしれないのに…」

僕はお母さんが泣いている意味が分からなかったので、そんな風に行ったら、お母さんはまたなみだが沢山流れた。

その後、家の外を歩いていると、よく近くのおばちゃんたちが、

「いろいろと大変だったわね。」
「つらかったね。」
「頑張ってね。」

などと色々話しかけられたけど、そんなことを言われる意味が分からなかったので、気にしないことにした。
そんな頃から、一緒に遊んでいた友達も僕のことを遠くで変な目で見てるし、なんかもやもやしたので、
僕はだんだんと一人でいることが多くなった。

最初はひとりで遊んでいてもあんまり面白くなかったけど、だんだんと一人遊びのコツをつかんで、それなりに楽しくなってきた。

寒かった季節が暖かくなってきた頃、いつも探検してる森林公園で遊んでいると、いつもと違うことが起きた。

「おい!おまえ一人か?」

いきなり声が聞こえてきた。声のほうを向いてみると僕と同じくらいの男の子が腕を組みながらこっちをみていた。
誰に声をかけたのかな?と周りを見回しても、僕しかいなかった。僕に話しかけたみたいだった。
でも、僕はめんどくさそうだし、さっき腕を組んでいるときに、ひじに怪我があったので少し怖い感じがしたのでシカトすることにした。
そいつに背を向けて地面で動いている虫の観察に戻った。

ドカ!

ものすごい衝撃が背中に当たって、前にごろごろと吹っ飛ばされた。

痛いのと、びっくりしたので目をぱちぱちしていると、あいつの足の裏が見えた。
どうやらあのあがっている足で蹴られたらしい。

「なんだよ…」
むかつきはしたけど、関わったらどうなるかわからないので、痛いのを我慢してシカトを続けることにした。

「てめぇ!俺様をシカトするとはいい度胸してるじゃねぇか!?ぶっとばす!!」

なにか叫んでるみたいだけど、無視、虫~…

ゴ!

今度は横腹に衝撃が走った。
あまりにも痛くて倒れて息が出来なくなってしまった。

かはっと息を吸いたくて上を向いたとき、あいつと目が合った。
腕を組んでにやっと笑っていやがる。

「くそっ!なんなんだよ!」

と、思いっきり言いたかったが、お腹がいたくて、かすれた小さな音しか出なかった…

「俺様の勝ちだな!おまえは今日から俺様の家来だ!名前は?」

「ふざけんなよ!誰が家来になるかよ…」

小さい声でいってみたけど、あいつには聞こえなかったみたいで、

「名前を言えといってるだろ!」

と怒鳴られたので、

「ひろかず…。」

としぶしぶ答えた。

「ひろかずか。よし!俺様はひろと呼ぶからな」

と言って僕のことを起き上がらせて、砂や葉っぱなどの汚れをぱんぱんと落としてくれて、大丈夫か?なんて声をかけてくれた。
蹴ったり、助けたりとよくわからないやつだったけど、

「おれはかずやだ。じゃあ、いくぞ!」

と言われて、なぜかそのままついていっても良いかな?と思ってついていくことにした。

それが僕とかっちゃんの出会いだった。

それから、僕らは毎日一緒に遊んだ。
特においかけっこが多く二人で日が暮れるまで走り回っていた。
ちなみになぜか僕ばかりが鬼をやらされた。
しかも、かっちゃんの足がとても早くて追いつくことが全然出来なくて、かっちゃんにいつも馬鹿にされた。

家に帰ると、毎日どんな遊びをかっちゃんとしてるかをお母さんに話すと、いつも少し悲しそうな顔をしたあと、笑顔になってよかったね。と言った。

僕は毎日がとっても楽しいのに、なんでお母さんは楽しい話を楽しそうに聞いてくれないのかな?と思ってた。
でも、沢山走って疲れてるから、ご飯を食べたらすぐに寝ちゃうので、あまり深く考えることは無かった。

かっちゃんと出会って、夏が過ぎて秋になった。
かっちゃんと毎日追いかけっこをしていることに変わりはなかったけど、すこしづつだけと、かっちゃんに追いつけるようになってきた。
かっちゃんも本気になって逃げて、もっと追いかけっこが楽しくなってきていた。

「今度、町内会の運動会があるんだけど、ひろくん出てみない?」

夜ご飯を食べていたら急におかあさんから言われた。

「めんどくさそうだからいいよ。」

みんなと一緒になにかやるのなんて嫌だから僕は断った。
でも、

「いつも町とか公園を一人で走ってるよりも、みんなと運動会で一緒に走ったほうが絶対におもしろいわよ?」

お母さんがよくわからないことを言って、僕を無理やり出させようとした。

「一人じゃないよ?いつもかっちゃんと一緒だって言ってるっじゃん。意味わかんないよ。」

そういうと、お母さんはまた少し悲しそうな顔をしたけど、

「じゃあ、かっちゃんも誘っておいで。二人でくればいいでしょ?準備はお母さんがしておくからね?」

と、僕は無理やり運動会に出ることにされてしまった。

かっちゃんに話したら、めんどくさそうに暇だったら言ってやるよ。
と言って、話が終わってしまった。

そして、運動会当日。

かっちゃんを探したけれど、かっちゃんは来ていないらしい。やっぱりめんどくさかったのかな?と思い
来ないものと思った。

お母さんの話によると、僕はかけっこに出ることになっているらしい。
走ることはかっちゃんと毎日走っているから、それでいいと思った。

かけっこが始まり、だんだんと僕の順番が近づいてきたときに、

「よぉ。」

なんてかっちゃんが声をかけてきた。

「かっちゃん!かっちゃんの足の速さなら絶対に一番だと思ってたのに受付終わっちゃったから、かっちゃん参加できないよ?もっと早く来てくれれば良かったのに。」
「いいんだよ。おれは一番とか興味がないから。おれはお前と走るのが楽しかったんだから。」
「なんか、照れちゃうなぁ。ありがとう」
「きもちわる!まぁ、いつもおれと走ってたんだから、絶対に一番とってこいよな?」
「うん。」

僕はかっちゃんと約束をして、いよいよ僕の番になった。

係りのおじさんが
「位置について、よーい。」

言ったときに、僕の隣にかっちゃんが急に出てきて、ニコッっと笑った。
僕はとってもビックリしたけど、すぐに

「どん。」

といわれたので、一斉に走り出した。

やっぱりかっちゃんは早い。みんなの一番前を走っている。僕も負けるものかと、一所懸命にかっちゃんの背中を追いかけた。
だんだんかっちゃんの背中が近づいてきて、それと同時にゴールも近くなってきている。

あと少ししかない。というところで、かっちゃんに並べた!
そして、最後の最後で

かっちゃんを抜いて一位!!

やったーー!

僕はかっちゃんに初めて勝てた喜びで大きな声をあげていた。
かっちゃん自慢しようと思って、あたりを見回すと、
わぁと学校のみんなが寄ってきて、

「ひろくん足速いね~」
「おまえ、すごいな」
「ダントツで一番じゃないか!」

などと僕をちやほやしてくれた。
僕は避けられていたと思っていたので、とっても戸惑ったけれども、うれしい気持ちがいっぱいになった。

この嬉しさをかっちゃんに伝えたかったけど、いくら探してもかっちゃんはいなかった。

仕方がなくお母さんのところに戻ると、お母さんとお隣のおばちゃんが何かを話していた。

「やっぱり、親子って似るものねぇ。かずやさんも陸上やってたんでしょ?」
「えぇ。あの子もあの人みたいに前をしっかり見て、走ってもらいたいですね。」

「お母さん!一番取ったよ!みんながすっごくほめてくれたんだ!」
僕は難しいお話はよく分からなかったので、僕はお母さんにもほめてもらいたくて大きな声でお母さんに声をかけた。

「とっても早かったわね。一番おめでとう。よくやったわねぇ。毎日いつも一人でいろんなところ走っていたものね~。」

ん?一人?お母さんが変なことを言っている。

「なんで?ぼくはいつもかっちゃんとおいかけっこしてるって話したじゃん。一人なんかじゃないよ?さっきのかけっこだって、かっちゃんを抜いて一番だったんだから!」

僕が一生懸命に否定すると、

「いつも思っていたけれど、ひろくんはいつも一人で町の中や公園を走っていたのよ?かっちゃんなんて子はこの辺には住んでないんだよ。それにさっきのかけっこだって、ひろ君が一人でダントツ一位だったじゃない。」

と、少し悲しげにそして不思議そうに首をかしげた。
隣でおばちゃんもうなずいていた。

「ちなみに、かっちゃんていう子のお名前は?」

おばちゃんが聞いてきた。

「かずやくんだよ?ひじに大きな怪我のあとがあって、足がとっても早いんだ!」
と僕のことのように自慢げにかっちゃんの話をすると、お母さんがとても驚いた顔をして、

「その子は、ひじに大きな怪我のあとがあって、足が速くて、かずやくん…。ひろくん!ちょっと、おうちに帰りましょう。」

お母さんはとても驚いてるのと困ったを足したような顔で僕を家に連れて帰った。

家に帰ると、お母さんはすぐに押し入れをごそごそと漁りだして、僕に一枚の写真をみせてくれた。

「かずやくんてこの子じゃないかしら?」

ぼくはその写真をみてとてもびっくりした!そこには確かにかっちゃんがいつものように腕を組んで写真に写っているのだから!

「かっちゃんだ!なんでお母さんがかっちゃんの写真を持ってるの?」

僕はとても不思議でお母さんに尋ねた。

すると、お母さんが急に泣き出して

「これはね、お父さんの小さい頃の写真なの。昔、事故でひじのところに傷跡ができちゃったんだって。でも、そんなこと気にしないで、どうどうと傷跡を見せてどうだ!ってよく私に自慢していたのよ?」

「お父さん?なんでお父さんの子どもの頃が僕と一緒に追いかけっこできるんの?おかしいよ?それにお父さんは大人じゃないか!」

僕には意味がまったくわからなくて、大きな声になってしまった。

「きっとね?ひろくんが一人ぼっちで淋しそうだったから、遊び相手になってくれてたの。しかも、たくさん走って、みんなの人気者にまでしてくれた。お父さん心配性だったから。」

ぼろぼろとたくさんの涙を流しながら、お母さんが僕をぎゅっと抱きしめてくれた。

そしたら、急に僕も涙がでてきた。

「お父さんに会えないと思ったら、毎日一緒にいてくれたんだね。僕の為に。友達になってくれて…。」

会いに行かなくちゃ!そして、たくさんのありがとうを伝えなきゃ!

「かっちゃんに会ってくる!」

僕は急いで家を飛び出した。
そして、かっちゃんと初めて会った森林公園に着くと、かっちゃんは少し淋しそうな顔をして僕を待っていた。

「かっちゃ。。。お父さん?」

恐る恐る聞いてみると、

「なんだやっぱりバレちゃったのか。せっかく毎日ひろと遊ぶの楽しかったのにな。」

と空を見上げながらお父さんはいった。

「ばれちゃったらしょうがない。お父さんはもうここには居れないんだ。またさようならだな。」

「なんで?これからはいつものお父さんで戻ってきてくれればいいじゃん!それがだめなら今までみたいに毎日遊ぼうよ!」

またお父さんがいなくなっちゃうなんて考えられない僕は必死に止めようとした。

「それはな、だめなんだよ。そういう決まりだったんだ。それに、おれが毎日遊ばなくても、お前はもうたくさんの友達ができただろ?だからもう大丈夫だよ。」

「いやだ!いなくなっちゃうみたいなこと言わないでよ!」

僕はいつのまにかぼろぼろと涙が止まらなかった。

「大丈夫。おまえは一人じゃない。みんないるし、お父さんもいつも見ているからな。」

ぎゅっといつもみたいに抱きしめてくれた。いつも包まれていたあのあたたかさだった。

「じゃあな。」と耳元で聞こえた声を最後にお父さんのぬくもりがふっと消えた。

「お父さん…」

僕の涙は止まらなくて、ぬくもりはなくなってしまったけど、お父さんが近くでみているような感覚があった。

「これからは一人じゃない。」

僕はそう感じ取って、家にいるお母さんのところに走って戻っていった。

「お母さん!僕、お父さんみたいに足がとっても速い人になってみせるよ!」

そういうと、全て分かったかのようにひとつだけうなずいて、

「じゃあ、これからも頑張って走っていこうね!」

とお母さんは満面の笑顔をぼくにくれた。




10年後…


とある陸上競技場。
陸上大会の決勝。

僕はそこのランナーの一人。
これで勝てば日本一。負けられない。
とても緊張しながら、スタートラインに立ったとき隣に気配を感じた。

「今度はおれも負けないからな。」

急に現れた人に驚きはしたものの、僕は笑顔になって

「今度だって僕が勝つんだからね!」

二人が前を向いたと同時に

パンとスタートを告げる鉄砲の音が競技場に響き渡った。


私だけの宝物

2011年03月22日 02時09分51秒 | 小説・短編つれづれ
 私は市場に入った。
 活気のある、いい市場だ。
 メインストリート(?)を歩いていると、右から左から、いろんな店のおいちゃんおばちゃんに声を掛けられる。
 そんな店は繁盛していて、ひっきりなしに野菜や魚、肉などが客の手に渡っていく。
 私は、そんな喧騒の中でしばらく歩いていると疲れてしまい、人気の少ない路地に足を踏み入れた。
 そんなひっそりとしたたたずまいを見せる通りにも、やはりここは市場であるから店があって、でもそこに客はほとんどいない。
 店の奥には、おばあちゃんが一人ぽつねんと座っていた。
 私はそのばあちゃんに店先から声を掛けた。
「おばあちゃん、お薦めは?」
 すると、ばあちゃんは私の顔をジロリとにらみ、しばらく動かない。
 私が業を煮やして次の言葉を発しようとすると、ばあちゃんは立ち上がってヨタヨタ歩き、トマトを一個手に取って、私の方に見せた。
「持ってきな」
 私はおばあちゃんの言ってる意味が分からず、不思議そうな顔をしていたのだろう。
「袋に詰めてやるから、持って行きな」
 ばあちゃんはのんびり、トマトを茶色い麻袋の中に入れて、私にくれた。
「美味かったら、またおいで。代金はその時でいいよ」
 私はまだ、不思議そうな顔をしていたのだと思う。
「たまにこういう事がないと、やってらんないんだよ」
 ばあちゃんは、顔をクシャッと真ん中で抓んだように、笑った。
 私は市場から家に帰る途中で、いただいたトマトにかぶりついたが、とても美味かった。
 その時、自分だけの宝物を見付けたような気がした。

たいむりぃNEWS用連載原稿第8話

2011年02月23日 01時05分55秒 | 小説・短編つれづれ
お題:『「首輪」「ラーメン丼」「フライパン」「アンドロイド」「特殊部隊」「片道チケット」「ビーム」……以上すべての言葉を使って学園物の小説を書きなさい。』~第8話~(おっちー作)

 ボロボロに疲れて部屋に戻ったハヤ美は、ベッドに転がり込んだ。
 よく生きて帰れた。
 自分を褒めてやりたかった。
 あれは……魔法よね。
 自分と故郷の村人以外の人間が魔法を使っているのを、ハヤ美は初めて見た。
 ここの生徒は、剣と盾と鎧で武装しながら、同時に魔法を使う。
 ただでさえの重装備なのに、更に魔法で攻撃と防御を行うのだ。まさに最強のオフェンスと、鉄壁のディフェンスであった。
 そんな「達人」が、この学園には100人以上いる。
 ここはアイグラント帝国の兵士を養成する学校である。この帝国の軍事力の底知れなさを、ハヤ美は身を持って感じた。
 いつの間にか寝てしまっていたらしい。
 窓ガラスをコン、コンと叩く音で、ハヤ美は目を覚ました。
 なんだろう?
 何かが窓ガラスを叩いているのだ。この部屋は2階。誰かが訪ねて来た訳でもあるまい。
 面倒だったが、ハヤ美は起き上がって窓の方を確認した。真っ暗な窓の外に、黄緑色の小さな発光体が、チラチラと行き来している。
「蛍?」
 ホタルが、窓に何度も当たっているのだ。虫は明るい方に寄ってくるものである。
 可哀そうに。いつか体を傷付けるかも知れない。
 ハヤ美は窓に駆け寄って、ガラス戸を開いた。
 黄緑色の光を放つ蛍が、ハヤ美の目の前をフワフワ泳いだ。部屋に入ってくるかと思いきや、スッと地面の方に下りていってしまった。
「なんだ」
 ハヤ美は窓を閉め、再びベッドで横になった。
 コン、コン、
 また音がする。
「何よ?」
 ハヤ美が見やると、またあの蛍なのだろう、黄緑の光が窓の外で揺れていた。
(つづく)


プレゼントの結び

2010年12月05日 11時31分16秒 | 小説・短編つれづれ
トゥーサ・ヴァッキーノさん『プレゼント』(『ボッコちゃん』より)
haru123fuさん『トゥーサ・ヴァッキーノさんの「プレゼント」のつづき』
つとむューさん『続きの続きのプレゼント』
の続きです。


 今日はクリスマス。一体何年ぶりだろう? ショウタの経営するホテルでささやかなパーティーを開いている。
 ノボル、アツシ、ショウタ、メグちゃん、ミツコちゃん、ユミちゃん……小学校からのメンバーが揃った。
 本日の主役はまだ登場していない。今年二度目の晴れ舞台に、もしかしたら裏で緊張しているのかもしれないな。
「結婚おめでとう!」
 主役の登場に、全員が手に持ったクラッカーを鳴らす。拍手で迎える。
 カトーは新郎の手を握りながら、幸せそうな笑顔で応えた。
「良かった。みんな幸せになって」
 看護士の方のカトーさんが、僕の隣で呟いた。続けて僕に向かって言う。
「あなたもですよ」
「そうですね。ありがとう。カトーさんのお陰です」
「どっちの?」
「あなたに決まってるじゃないですか……いや、違うか。妹さんも含めて、みんなのお陰かな」
「その通りですね」
 みなで、山盛り出てきたショウタんとこの唐揚げスペシャルをパクついていると、ミツコちゃんがピアノの演奏を始めた。
 あ、この曲……
「さっき聞いたんだけど、カトーさん……あ、もう苗字違うか……彼女の、思い出の曲なんだって」
「ふうん」
 僕は、久し振りに、手に持った「オルゴール」のねじを巻く。
 すると……人も、未来も、ちゃんと目の前に広がっている気がした。
 そしてミツコちゃんの演奏は、相変わらず抜群に上手だった。

サンタクロースの石川さん

2010年12月05日 01時58分24秒 | 小説・短編つれづれ
 石川さんは悩んでいた。
 今の世の中、何をプレゼントすれば子供達は喜んでくれるんだろう?
 石川さんは、今年の夏にフィンランドでサンタクロースの世界公式資格を取得したばかりである。
 資格を取る際、妻は意外と応援してくれた。しかし、友人の評価はさっぱりだった。
『気でも違ったか。今の子供は親に直接クリスマスプレゼントをねだるくらいだぞ。サンタクロースなんぞ、コスプレの一種だとしか認識しておらん』
 しかし石川さんは、子供たちに夢を与えたかった。それが若い頃からの夢だったのである。
 そうして仕事をリタイアした後、サンタクロースになる決心をした。海外に何ヶ月も滞在した。そして、血の滲むような努力をした。
「そうだ、このアイデアがいい」
 どうやらプレゼントの案が固まったらしい。
 石川さんは真っ赤なコスチュームに身を包み、家の屋根の上にのぼった。
 体はサンタクローズの衣装そのまま、ただし、頭には赤いほっかむりをしている。
 そして、片腕には千両箱のようなものを抱えている。
「ほうら子供たち、プレゼントだぞう~」
 千両箱の中から、石川さんは赤くて長いものを沢山ばらまいた。町中の屋根から屋根に飛び移り、至る所にそれを撒いた。
 しかし子供たちは、家の外に出てこない。
 そりゃそうである。12月の真冬の最中、夜に家を出て、靴下なんぞをわざわざ取りにくる子供が、いるわけがない。
「あんたそりゃ失敗するよ」
 落胆して自宅に戻った石川さんは、妻と話していた。
「しかしウチのご先祖の五右衛門様は、ああやって一般庶民に贈り物を与えていたのだぞ」
「それは小判をばらまいたって話でしょうが。靴下なんて撒いても、今の子供は見向きもしないでしょう?」
「靴下を贈ろうとした私の気持ちがお前に分かるのか?」
「わかりますよ。その靴下を枕元に置いてもらって、サンタクローズを信じる気持ちを子供たちに思い出させようって寸法でしょう」
「むぐ。その通り」
「で、もちろんその靴下の中に入れるプレゼントは用意してあるんで?」
「それは子供たちの親のすることだ」
「あんた馬鹿でしょ」
「いんや、俺は石川五右衛門だ……ゴホゴホ」
「風邪ですか? 顔が赤いですよ」
「あとはトナカイに任せよう」

たいむりぃNEWS用連載原稿第7話

2010年12月04日 23時45分06秒 | 小説・短編つれづれ
お題:『「首輪」「ラーメン丼」「フライパン」「アンドロイド」「特殊部隊」「片道チケット」「ビーム」……以上すべての言葉を使って学園物の小説を書きなさい。』~第7話~(おっちー作)

「あなた、お名前は?」
 ハヤ美はその少女に訊いた。
「なんであんたに名乗らなきゃならないの」
「あなたこの学園の生徒でしょう? 今日から仲間になりました、ハヤ美と申します。あなたは?」
 少女はひとしきり考えをめぐらせたあと、言葉を発した。
「ウチはみすりる」
「あなた、みすりるって言うんだ。よろしくね」
「よろしく~」
「私のコトは「ハヤ美」って呼んでいいから。一緒のクラスになるといいね」
「えっ?」
「どうしたの?」
「この学園、クラス分けなんてないよ」
「そうなんだ、全員合同で訓練するんだね。じゃあ仲間、仲間」
「訓練っていうか……地獄よ」
「はっ?」
 今度はハヤ美が訊き返す番だった。
「明日になれば分かるよ。あなた、死なないでね」
 物騒な事を言って、みすりるは去って行った。
 死ぬとか死なないとか、事前に聞いてはいたけど、この学園ではどんな訓練をやるのだろう。
 不安な思いを抱きながら、ハヤ美は寝床についた。
 ハヤ美が眠りにつこうとしている時……窓の外を、蛍が飛んでいた。黄緑色の光をともしながら、何度か窓ガラスに、コン、コン、とぶつかっている。ハヤ美はその音には気付かず、すでに深い眠りに落ちていた。するといつの間にか、蛍の姿はなくなっていた。

 翌日、ハヤ美は知った。
 この学園の「訓練」は訓練と呼べるような生易しいものではなかった。
 ハヤ美が見たのは戦場の、それも最前線と見紛うかの激しい兵士同士の闘いだった。それが、学園内の野外訓練場全体で、犬一匹紛れ込むスキ間も無い密度で行われていたのである。
(つづく)

『たいむりぃNEWS』用連載第6話

2010年10月09日 17時15分03秒 | 小説・短編つれづれ
お題:『「首輪」「ラーメン丼」「フライパン」「アンドロイド」「特殊部隊」「片道チケット」「ビーム」……以上すべての言葉を使って学園物の小説を書きなさい。』~第6話~(おっちー作)

 学園の敷地中を歩き回ってやっと見付けた。
 ハヤ美は学生寮の自室に入り、荷物を放り出してベッドに体を預ける。
「疲れた~」
 今日はたくさん人と会ったな。まず野間とグララン。対照的な二人だった。ここの生徒だったんだろうか。
 明日また会えるかな……
 ハヤ美を眠気が襲ってきたその時、どかん!と凄い音をたてて部屋のドアが開いた。ベッドから飛び起きるハヤ美。
「野間サマ!」
 起き上がったハヤ美の目の前に、小柄な女の子がこちらをジッと見て座り込んでいた。
 すぐに女の子は飛び上がって部屋の外に駆け戻り、
「野間サマ!!野間サマ!?」
 叫んでいる。
 一体なによ? ハヤ美が面倒臭そうに立ち上がって見に行くと、女の子が泣いていた。
「もうフラれたんだわ! ウチもオシマイなんだわ!」
「どうしたのよ?」
 ハヤ美が女の子の肩を叩くと、彼女はその手を払いのけた。
「ほっといてよ!」
「放っておきたいのは山々なんだけど、あなたが私の部屋に飛び込んできたんじゃない」
「へっ?」
 彼女は開けっ放しになっていたハヤ美の部屋の扉についている番号を見ると、
「ここは30A号室、ウチの部屋よ」
「え?」
 ハヤ美は驚いて部屋番号を確認する。
「2、0、A。ここは20A号室よ」
「はぁっ?」
 女の子はハヤ美を馬鹿にしたような目で見ている。
(つづく)



 続々と登場人物が増えてきました笑。
 しかし月イチ連載でこのペースでは、作品の元々のボリュームからして、終わるまで何カ月かかるんだか……
 頑張りまっす!
 でも連休よくよく休みまっす!
 よろしくです!

『たいむりぃNEWS』用連載第5話

2010年10月02日 22時26分57秒 | 小説・短編つれづれ
お題:『「首輪」「ラーメン丼」「フライパン」「アンドロイド」「特殊部隊」「片道チケット」「ビーム」……以上すべての言葉を使って学園物の小説を書きなさい。』~第5話~


 ………

 はっ!?
 そんなわけないじゃん。
 でも確かに視界の中央を、ケーキとティーカップ――おやつのティータイムセットが二組――通り過ぎようとしていた。

 よいしょっ☆

 ハヤ美はそのティータイムセットを全てキレイに受け留めた。ついでにティーポットもあったが、それもきちんと中身をこぼすことなく、受け取った。
 すると……

『……イタイイタイイタイイタイ!……止まらな~い!』

 授業棟の方にあった、広くて長い階段の方から女の子の悲鳴が聞こえた。
 そっちを見ると、長いヒラヒラのスカートをはいた女の子が、階段を縦になり横になり転がり落ちてくる。
『誰か助けて~』
 悲鳴は徐々に弱々しくなってきた。
 ハヤ美はお盆にのったおやつセットを持っている。
「どうしよう!?……あっ、あそこに!!」
 ハヤ美は手に持ったおやつセットを近くのベンチの上に丁寧に置いた。
 ……それから、長い階段を転がり落ち終えて倒れている女の子に、丁寧に声を掛ける。
「大丈夫ですか?」
「だいじょうぶじゃな~い!……ですぅ……あいたたた……」
「だいじょぶですか?」
「痛い!……痛いようぅ~~」
 なんとか立ち上がる女の子。
 ………
 ちっちゃい!
 ……私より20センチ以上低いぞ!
「あなた……初めて見る顔ねえ」
「ハヤ美といいます」
「私はグララン……あれっ、ケーキとお紅茶は?」
「あそこに置いときましたけど」
「あら奇跡的! こぼれてすらいないわ!」
 私のおカゲでしょう。ハヤ美は思う。
「ハヤ美さん……でよかったかしら? ありがとう」
「いえいえ」
「これでラフさんと3時のお茶が無事に飲めるわ~♪……おっと!」
 けっつまづき、ケーキ一個と紅茶一杯を落っことす。
「あらら~~」
「……」
「まあいいわ、ラフさんと半分コしよう(はぁとまぁく)」
 ハヤ美は思った……あれだけ丁寧に扱った私の努力って一体……



 『たいむりぃNEWS』用連載小説の第5話になります。
 例によって、梅酒ハイボールを呑みながらの更新です(笑)。
 書き貯めてきた分はこれで出し切りました。
 来月からは、正真正銘の新作です!
 第5話ですが、まだ序盤の序盤なんですよねえ。
 一体何回の連載で終わるのか? それまでたいむりぃずNEWSは付き合ってくれるのか!?
 幾つもの不安要素を抱えながらの執筆作業になります。
 よろしくお願いしますう~
 ではでは、失礼します~

『たいむりぃNEWS』用連載第4話

2010年09月05日 17時30分17秒 | 小説・短編つれづれ
「ん?……ワタシはこのアレグラント学園特殊部隊養成学校――生徒副隊長の野間だ」
「私はハヤ美です」
「ハヤ美?……ああそういえばそんな新入りが来ると教官から聞いていたか」
 野間は、重そうな甲冑を軽々と着こなしている。そして左腕に、やはり重そうな兜を抱えていた。
「スゴイですね、女性なのに副隊長」
 すると野間は全く心外といった表情をした。
「なにを言ってるんだ……貴様、何も知らないようだな……」
「えっ?」
「お前、死ぬぞ。早くここから出ろ」
 切れ長の目からハヤ美に注がれる、哀れむような目線。ハヤ美は背筋がぞゾゾゾーッとした。それが野間の言葉に対する恐怖だったのか、野間の美しさ、強さに対する感動だったのかは判別ができなかった。

 野間はハヤ美の方を振り返るような迷いを一度も見せることなく、後姿のままでハヤ美のいるその場所から見えなくなった。

      *

 ハヤ美はボーっとしていた。
 私は知らないことが多すぎる。何の為にここに来たのか分からなくなってきた。
 『庭園』のベンチに座って、しばらく空を眺めた。
 恨めしいくらいの青空。いわゆる快晴。神様は私の気持ちとは同調してくれないらしい。

 そんな時、空をケーキとティーカップが飛んでいた。




 どうもお久しぶりですぅ~

 転職したりで忙しく、ブログになかなか手が回りませんでした。
 申し訳ないっす。

 今回は、例の「ラノベ」用に書いたお話の続きであります。

 一月に一話、「たいむりぃNEWS」という機関誌に連載させていただいております。
 その第4話になりますね。

 よろしくお願いしまっす。

馬鹿虎ステーション投稿作品その③

2010年05月29日 06時27分38秒 | 小説・短編つれづれ

再見!


 私は生まれ変わりを信じます。
 なんでかって?
 それは、このお話をお伝えしたあとに、お答えします(笑)。

      *

 この話の主人公は、うちで飼っていた犬の『らぴす』……それからのちに生まれた彼の娘の『ばりす』……でありやす。

 うちの両親は犬だって家族の一員!という精神を徹底している人たちなんです。
 だから旅行するにもらぴすを連れて行くし、

お父さん「こら、らぴす! こんなとこでウンコすんな!」

 (笑)それから、ご飯の時も、家族と一緒に食べます。

お母さん「そんなの当たり前じゃないねえ?」

 私がらぴすとの思い出の中で一番憶えているのが、小学校の運動会での出来事。
 私が徒競走に出場した時……

放送「いよいよ、スタートです……!」

   『パーン!!』

 でも走り出してから私、すぐに転んでしまったんです。
 すると、観客席にいたらぴすが私の方に飛び出してきました。
 私は驚いて、
「らぴす、私大丈夫だよ!」
 と言って起き上がろうとしたら、彼は私をあっさり追い抜いて、前の子達も抜き去ってトップでテープを切ってしまったのでした……
 観客席は大爆笑。

 もちろん、他にも思い出は沢山あります。

 でも今、らぴすはいません。交通事故で死んでしまったんです。
 その代わりに、らぴすの娘の『ばりす』がいます。

 私には兄と弟がいます。兄は東京の大学に行き、そこで一匹の♀犬(めすいぬ)を飼い始めました。その頃はまだ、らぴすは元気に生きてます。
 兄は、東京で一人暮らしして、らぴすが自分の家にはいないからって……?

お母さん「あの子、犬のいない生活が耐えられなくなったのよ、きっと」

 うーん……やっぱり、そうだったのかな……?(笑)

 その次のお正月に、兄がその犬を連れて家に帰ってきました。

兄「そろそろらぴすも連れ合い見付けなきゃなあ」

 そんなことを言っているさ中……らぴすは、その兄が連れてきた犬と、恋に落ちました。
 そうして正月が終わり、兄と愛犬は東京に帰って、しばらくして彼女はらぴすとのの子供を何匹か生みました。ちょうどその頃です。らぴすが亡くなったのは。
 悲しむ私に、兄は子犬を一匹くれました。

 しばらくして、兄は東京で起きた大地震の被災者となり、帰らぬ人となりました。愛犬の行方は分かりません。

 あれから一年が経ちました。
 家の裏山の崖の下には、らぴすのお墓があります。
 けれど、今は冬。雪が積もっていてお墓は見えません。
 弟が、お墓の上に犬の形をした雪だるまを作りました。
 私はあのお正月に皆で撮った写真をだるまの前に置きます。みなのことを思って、手を合わせました。

 その瞬間、大きな音がして、らぴすの雪だるまの上に『ばりす』が落ちてきました。
 驚いた私が見上げると、弟が心配そうに崖の上からこちらを覗き込んでいます。
 ばりすは今生まれ落ちた赤ん坊の様に、キョトンとこちらを見ています。

『まるで、らぴすがばりすに生まれ変わったみたい。』

 私は言いました。
「ばりす、怪我もなくて本当によかった。今わかったよ、お前は皆の生まれ変わりなんだ! 神様がくれた大切な宝物だ!」
 私はばりすをギウと抱き締めました。

      *

 これで、お話は終わり。
 あれ?(笑)……答えになってないかな?

馬鹿虎ステーション投稿作品その①

2010年05月16日 02時41分14秒 | 小説・短編つれづれ

大切なものを挙げるとしたら


 2人の名前は『勇樹』と『温子』といった。
 ユゥキとアツコは、お互い仕事を持ちながら軽音楽をやっていた。
 すなはち、2人とも同じバンドのメンバーだったのだ。
 勇樹はボーカル。温子はリードギター。
 バンドには他にもう2人メンバーがいた。
 ベースの登呂緒(とろお)と、キーボードのpan(ぱん)。
 ドラムは万年募集中であった(笑)。

 その日、勇樹たちは地元のライブハウスで演奏をしていた。
 すると、あるしゅんかん勇樹の耳が全く聞こえなくなった。
 それでも、勇樹は途切れることなく歌を叫び続けた。何も聞こえない空間に、自分の声を響かせた。
 少しして、勇樹の世界に音が蘇えった。
 誰もその一連の出来事に気付かなかったし、勇樹自身もライブが終わる頃にはそんな事はすっかり忘れていた。
 だけれども、
「ユゥキ、お前1回トチったろぉ~??」
 登呂緒に言われた。
「お前耳オカシイんじゃねーの?」
 勇樹はやり返した。
「楽器弾かなくていいんだから、せめて普通にミスはするなよ」
 panが眼鏡を指で支え上げながら冷静に言う。
「うるっせーっ!俺はミスなんかしてねえ!!」
 登呂緒とpanが顔を見合わせて笑う。
「二度とすんじゃねーぞっ」
 そう言って楽譜を丸めて作った「こん棒」で勇樹の頭を叩いたのが温子だ。

 その叩かれた感覚が、妙に勇樹の頭に残っていた。

「コンコン、コンコン、入ってますかあー?」
 痛えーな
「まだ起きない。こん中なぁんにも入ってないんじゃないの?」
 だからおデコを叩くなよ
「今なん時だか分かってますかあー? もう遅刻だよ!!」
 遅刻!?
 勇樹は起き上がって、
「アツコ、いま何時!?」
「時計見なよ」
 温子は勇樹の目の前で目覚まし時計をチラチラと振った。
「ヤッバ!!それ鳴んなかったろ!?」
「ず~~~っと鳴ってた。アタシが止めるまで鳴ってた。キミ……」
「アツコサンキュ!行ってくる!」
 速行(そっこう)で着替え終えた勇樹は、アパートを飛び出した。

「最近たるんでるぞ~」
 温子は誰もいない空間に向かってそうつぶやいていた。
「ツイッターかアタシは」
 ……すんません。

 そのあたりから、勇樹の耳は次第に聞こえなくなっていった。
 普通の会話もままならず、アツコやバンドのメンバーとの会話も筆談で行われた。

「ユゥキ……実は私もユゥキみたいに、時々耳が聞こえなくなる時がある」

 温子が勇樹と同じ病気になり、順繰りにpan、登呂緒も耳が聞こえなくなった。
 その頃には、世界中のほとんどの人々の耳が、聞こえなくなっていた。

 それでも勇樹達は、音楽活動を止めなかった。
 メンバーの何かを伝えたい欲求は抑えることができず、存在すらしているのか分からない『音』を、勇樹達は身体全体を使って表現した。
 勇樹達の真摯な情熱は、人々に伝わった。
 その頃から固定ファンがそれまで以上に増え、大きなライブハウスでもイベントを行うようになった。

 そして、その日はやってきた。

 勇樹達のバンドの、初めての野外ライブの日。過去最多の観客動員を見込んだ、一大イベント。
 その日は、『皆既日食』がある日であった。

 一大天体ショー……日食がある中で、今までで最も大きなライブを行うことは、勇樹達にとって楽しみな挑戦であった。
 何か自然の大きな力で、この病気が少しはマシになるんじゃないか……そんな思いが無かったわけでもない。

 そしてライブが始まり、会場は熱狂に包まれた。
 そこにいる人達の、表情を見て欲しかった。
 こういう時に、人間はこういう表情をするのである。

 日食が始まった。
 あたりが薄暗くなる。それと同時に、皆の瞳から光が失われていった。
 そして、太陽が陰の後ろに完全に隠れたとき、その会場だけでなく、全、世界中の人々は光を失った。
 彼らの目は、何も見えなくなったのである。
 そうして我々人間は、音も光も失った。
 それは生きる術を失ったことと同義なのか。

 そして勇樹達のライブ会場。
 ステージの上。いや、もはやステージも客席もなにもない。
 そこにいた人は、音楽の中にいた。
 バンドのメンバーは演奏を続けていた。
 ユゥキは歌を叫んでいた。
「独りで一生懸命にならなくていいんだよ」
 何かが、手に触れた。
 それがなんなのかは分からない。でも、温かい。
 そして両方の手が、あたたかいものに触れた。
 それを握って、大きな歌を叫んだ。
 同じように、みんなが歌っていたのではないか。
 そのときわかった。
 俺は、世界中のヒトで出来ている。


      *


 この作品、もしかしたら『原作』をご存知の方もいらっしゃるかもしれません。
 これは、過去に確か「文章塾のゆりかご」というサイトで発表させていただいた、最近の作品群の中では、初期の頃に書いたお話です。

 『初演』の頃とは主人公の名前ですら変わっていて、テーマも正直言うとより深くなっています。
 いくつかの事件の流れはそのままです。

 よかったら、このブログ内の記事にも同じ題名の作品があると思うので(それが『原作』です)、読み比べていただけると、僕の約4年間の変遷の一部が見て取れて、もしかしたら興味深いかもしれません。

 そうです、あれが、今書くとこんな感じになるのです。

 よかったら感想をお願いします。

 ではでは~
 失礼します♪


      *


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『たいむりぃNEWS』用連載第3話

2010年05月05日 21時42分50秒 | 小説・短編つれづれ

お題:『「首輪」「ラーメン丼」「フライパン」「アンドロイド」「特殊部隊」「片道チケット」「ビーム」……以上すべての言葉を使って学園物の小説を書きなさい。』~第3話~


 ――国立アレグラント学園特殊部隊養成学校――
 それがこの学校の正式名称である。
 ハヤ美は馬車を降り、その門をくぐった。
 そこはアレグラント帝国の絶大な武力を支える、優秀な兵士の育成の為に設立された学校である。
 ハヤ美の足は早くも震えていた。
 私は、果たしてこの『任務』を成し遂げることができるのだろうか?
 そして私は、再びふるさとの土を踏むことができるのか?
 敷地に入ると、そこはまるで庭園だった。
 入り口が最も低い位置にあった。
 その周りのなだらかな傾斜の上に、芝生、樹木、土や石畳の路があり、ところどころに木製のベンチも配置されている。
 これは国立学校っていうより国立公園だ。
 ハヤ美は辺りを見回した。
 『庭園』を取り囲んで、いちばん高い位置に石造りやレンガ造りの建物がたっている。
 あそこが、私の入る学生寮かな?
 あっちは戦闘理論や戦術を学ぶ教室棟かな?
 そういえば、実戦を行うコロシアムがあるとも聞いている。それはどこだろう?
 おのぼりさんのようにウロチョロキョロキョロしているハヤ美の背後から、声を掛けてくる者があった。
『お前は誰だ!?』
 大きな声量でいきなりそう訊かれた。
 ハヤ美は本気で20センチほど跳び上がって驚き、そのあと恐れ慄きながらゆっくりと振り向いた。
「見ない顔だな。聞いていない。お前は誰だ」
「あなたは……?」
 堂々と言葉を続ける自分と同じ年頃の娘に向かって、ハヤ美はおずおずと弱気に訊き返した。


      *


 というわけで連載第3回目です。

 コメントをいただいた矢菱虎犇さんのアドバイスを受け、ちょっと形式を整えてみましたがいかがでしょうか?

 明日から仕事です。
 楽しみなような、面倒なような……
 ボチボチ頑張りまっす。

 まいど!

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 ではでは~