読書日記

いろいろな本のレビュー

ホロコースト  芝 健介  中公新書

2008-07-03 20:57:32 | Weblog

ホロコースト  芝 健介  中公新書 



 改めてユダヤ人虐殺の苛酷さを認識した。ワイマール共和国からナチスの政権獲得のプロセスについては「ワイマール最後の楽園」で紹介したが、本書はそれ以降のユダヤ人弾圧の諸相を克明に追っている。ポーランドやソ連に侵攻したドイツ軍はその地のユダヤ人を悉く虐殺して行った。侵攻の目的がまるでユダヤ人掃討と言っても良いぐらいの状況の中で、軍の負担が増して行き、その状況下でユダヤ人を大量に処分する方法が検討された。そこで強制収容所がその役割を担うべく絶滅収容所と化して行ったのである。ナチスの狂信的反ユダヤ主義に加えて、ヨーロッパ諸国の民衆の中に潜んでいた流浪の民ユダヤ人に対する差別意識がこの犯罪行為を助長して行ったのである。
 600万人の犠牲者とは何たることか。人間の理性はどこへ行ってしまったのだろう。戦争犯罪人はニュルンベルク国際軍事裁判で裁かれたが、最大の責任を問われるべきヒトラー、ヒムラー、ゲッペルスは自殺し、ハイドリッヒは暗殺されていた。600万人一人一人の無念を知らしむことなくあの世に行かれてしまったのでは、犠牲者は浮かばれない。ホロコーストの恐ろしさは個々の人間の死が実感されないことにある。歴史は思い出すことにあると小林秀雄は言ったが、至言である。