ブータンに魅せられて 今枝由郎 岩波新書
ブータンは大ヒマラヤ山脈東端近くの南斜面に、インドと中国のチベット自治区に挟まれた小さな王国である。九州よりやや小さく、人口は約60万。5人のうち4人が農業により生計を立てている。著者は1970年ごろからこの国と関わり現在に至っている。敬虔な仏教徒が多く、「国民皆幸福」を目指して独自の路線を歩んでいる。隣国の中国、インドは経済発展著しく、貧困からの脱出をスローガンに貨幣経済の波に呑み込まれているが、ブータンはそれとは一線を画している。お金を持つことと幸福であることは違うという考え方だ。これは国民が熱心な仏教徒であることと大いに関係がある。
中国のチベット自治区では西寧からラサ間の鉄道開通でチベットを経済発展させようとしたが、先ごろの暴動でその限界が露呈した。自然と仏教とつましい生活が中国人の拝金主義に汚されたことに対する、天罰が下ったのだ。なりふりかまわぬGDPかさ上げ政策は、チベット人を幸福にはしなかった。ブータンの人々はそれを他山の石として、肝に銘じてほしい。お金で幸福が買えるはずがないのだから。