読書日記

いろいろな本のレビュー

渇望  亀山早苗  中央公論新社

2011-01-01 10:01:52 | Weblog
 タイトルを見ると小説かなと思ったが、副題に「性、更年期、そして孤独感」とあり、目次を見て50歳前後の女性の生態のレポートだとわかった。目次のタイトルを見るだけで中身を読まなくても想像できるという趣向になっている。曰く「七年ぶりのセックス以来、奔放な性にふけった48歳の残照」「離婚後、放埓な性に身を委ねた女性部長が涙した老いの烙印」「夫に連れて行かれた性のけもの道で体験した不安と恍惚」等々通俗小説ばりのタイトルが続く。いずれも老年に差し掛かった女性の離婚後の男性との出会いや夫婦不仲の中での不倫の回想が赤裸々に語られる。「結婚生活の最後のほうは夫としていなかったから、男性に触れられたのはほぼ五年ぶり。キスしてお互いの舌を絡めたとき、膝から力が抜けました。あとは彼に身を委ねて云々」という描写が展開する。これが基本形で、あとはこれに色んなものがトッピングされる。『婦人公論』に連載されたもので、この雑誌が廃刊にならないのも固定客がいるからで、このような記事を愛読する読者が多いことを物語る。読者のどこまで本当かわからない「手記」というのも人気で、宇野鴻一郎も裸足で逃げるほどの真迫の描写にお目にかかることも多い。
 女性の生き方を毎回特集する出版文化は活字文化の中でしっかりと根付いており、女性読者を粗略に扱えないのが現状だ。人生最後の生命の燃焼を恋に賭けるという小説的人生を願望したり実践している女性(男性もそうだと思うが)多いことは、世俗社会では当然のことで、その感情を蒸留して恋愛小説にするのが作家の仕事であるから、これらのレポートはいわば蒸留されない原酒のようなものだ。飲みすぎると悪酔いしてしまうのも事実。形而下の世界にだけとどまるのではつまらないということか。