読書日記

いろいろな本のレビュー

河原ノ者・非人・秀吉  服部英雄  山川出版

2012-07-07 17:40:54 | Weblog
 最近読んだ日本史関係の本の中では出色だ。題の通り、被差別民の世界を描いているが、彼らの生活ぶりが生き生きと再現されている。第一章の「犬追者を演出した河原ノ者たち」では、競技の下支えをした彼らの働きぶりが再現される。競技用の犬の調達から、競技最中の犬の逃がし方まで、初めて聞く話で感動した。競技終了後の侍が放った矢で傷ついた犬は河原ノ者が処分したが、食べられた場合も多かった。食犬の文化があったとは驚きだ。
 第二章「大和北山宿をめぐる東大寺と興福寺」では奈良坂と般若坂の達が東大寺や興福寺の支配を受けて生き生きと活動していた様子が描かれる。癩者も被差別の対象であったが東大寺は彼等の風呂を設けて衆生済度の実践を行なっていたという。その他各地の被差別民の姿が豊富な資料とともに語られる。そして最後は秀吉。
 このタイトルだと、秀吉が非差別民出身だという文脈になるが、著者は果たして乞食が出自だと言っている。秀吉は猿と言われたが、まるで猿のように栗を食った記録が残されており、それが乞食として生きていた時の大道芸だった。秀吉の妻寧々も連雀商人という行商人の娘で、やはり被差別者だ。この出自から天下を取った男は彼しかいないと著者は言う。であればいろいろわかることがある。例えば、千利休との確執も出自をバカにされたことが、あるいは自分がそういう被害者意識を持ったことが原因になっている可能性がある。太閤秀吉になって最高権力を握ったあとの、腹いせに残虐な処刑を繰り返したことは尋常ではない。被差別の階層から成り上がった者のルサンチマンが発揮されたものと言えるだろう。
 今をときめく某市長は週刊誌等で次期首相と持ち上げられているが、以前その出自が話題になった。今後栄達の階段をのぼりつめて行くのだろうか。もし最高権力者になったとしたら今太閤として日本中を熱狂させるのだろうか。そのルサンチマンはどのように爆発するのだろうか。もう少し長生きして見届けるようにしよう。