読書日記

いろいろな本のレビュー

週末ちょっとディープな台湾旅 下川裕治 朝日文庫

2016-09-04 12:28:32 | Weblog
「週末」シリーズの第九冊目、『週末台湾でちょっと一息』の続編である。今回の旅は、台湾の街角に溢れるにおいの正体を探るところから始まる。著者は「どこかカビ臭いような湿気を帯びたにおい。漢方薬のにおいが混じっているような気もする」と言っているそのにおいの正体は、夜市にある「滷味」(ルーウェイ)であった。「滷味」とは、香料、醤油、酒などで作った「たれ」と鶏、あひる、肉塊などをまるのまま(大きいまま)煮て、薄く切って食べる料理だ。こちらの人はこれをおやつ代わりに食すと書いてある。台湾人のバイタリティーの源である。著者はこれをつまみにビールを楽しみたいと思うのだが、台湾には日本のように一杯飲み屋が無い。でも最近は海鮮料理屋の二階などで日本の居酒屋風の営業をやる店が増えたようだ。ある時、著者のテーブルの横で、数人の台湾人グループが、金門高粱酒を飲みながら大声で騒いでいた。隣にいた別の台湾人がぼそっとつぶやいた、「彼らは外省人ですね」と。続いて「言葉や態度でわかります。外省人二世ですよ。だいたい、こういう店で高粱酒を飲んでタバコを吸うのは外省人が多いんですよ」と。
 外省人とは国共内戦に敗れ、蒋介石と共に大陸から台湾に渡ってきた人やその子孫のこと。本省人は昔から台湾に暮らしてきた人。外省人、即ち国民党のメンバーは台湾を支配し、役人や公務員、警察官、医者などの要職を占めるようになっていった。そのことに対して本省人は批判のまなざしを送り続けてきたのである。大っぴらな批判は命取りになる故、飽くまでひとりごとのレベルであったと思われる。
 著者の知りあいの李さんはかつて外省人がのんだくれている様を見て「あれだけ酒を飲んだら、明日の午前中は仕事にならないよ。高粱酒は強いからねエ。まあ彼らは、午前中、休んでも大丈夫な仕事に就いているってことだよ。本省人はそうはいかない。朝からしっかり働かないと、金が稼げないからね。本省人はのんでも紹興酒。あれはアルコール度数が弱いから、翌日には残らない」と険のある言葉で述べた。先ほどの総裁選挙で国民党候補は敗れ、大陸と一線を画す蔡英文が当選した。前任の馬英九があまりに大陸よりであったため、このままでは大陸に政治的・経済的に呑み込まれてしまうという危機感が前面に出たためであった。酒場での情景がそのまま政治に投影した感じだ。
 下川氏の文章は、どの国に行ってもその国の抱えている問題を的確に押さえたもので、そこが人気になっているのだろう。また台湾に行きたくなった。