読書日記

いろいろな本のレビュー

日本人の9割が知らない遺伝の真実 安藤寿康 SB新書

2017-04-08 14:54:38 | Weblog
 この本で行動遺伝学の研究者である著者が一卵性双生児や二卵性双生児のデータをもとに次のように述べている。曰く「知能検査の結果であるIQは70%以上、学力は50~60%くらいの遺伝率があります。生まれた時点で配られた、子ども自身にはどうすることもできない手札によって、それだけの差が付いているわけです。残りは環境ということになるわけですが、学力の場合、更に20~30%程度、共有環境の影響が見られます。そして、共有環境というのは家族メンバーを似させるように働く環境のことですから、大部分は家庭、特に親の提供する物質的・人的資源によって構成されていると考えられます。親が与える家庭環境も子どもはどうすることもできません。つまり、学力の70~90%は、子ども自身にはどうしようもないところで決定されてしまっているのです。にもかかわらず、学校は子どもに向かって<頑張りなさい>というメッツセージを発信し、個人の力で何とかして学力を挙げることが強いられているのです。これは科学的に見て、極めて不条理な状況といえるのではないでしょうか?」と。少々長くなったが、本書の内容を端的に要約しているので引用した。
 前半のIQや学力は遺伝率が高いということと、学力は家庭環境との相関関係が高いというのも私自身の経験からしても間違ってはいないと思う。しかし後半の、学校が能力のない生徒に無理な頑張りを強いているのは科学的に見て不条理だというのはどうかなあと思う。学校とは小学校か中学校か高校かわからないけれど、そんなに学力を伸ばすために汲々としているとは思えない。特に義務教育では基本的なことを学ばせて国家の礎となる人材を担保するのが目的なのだから、反復練習で知識・技能を定着させるために教員は頑張っている。高校は義務教育ではないし、子どもの能力・学力に応じた学校が存在する。
 本書を読んで、頭の悪い者は勉強しても無駄だというメッセージとして受け取る人もいると思うが、頭が悪くてどこが悪いと居直ることもできる。だって世の中頭のいい奴だけが得をしているということもないのだから。秀才、凡才、鈍才それぞれ身の丈に応じて生きて行くだけの話である。著者によると、本書は2016年4月に出された橘玲氏の『言ってはいけない 残酷すぎる信実』(新潮新書)の出典として著者の本が引用されて、行動遺伝学のメッツセージが日の目を見たのを機に便乗出版したものだという。橘氏の本を私は読んでいないが、学力は遺伝するということを書いているのだろう。それで便乗は素早くとのことで、ライター一人を雇って編集者と3人で作ったと楽屋内の話を披露している。この点は正直でいい。道理で、これからの教育はどうあるべきかというまとめがもう一つだ。
 教員は子どもを教育する中でこどもの個性を理解し、その子に応じたアドバイスをするものである。誰彼なしに叱咤激励して勉強させるものではない。時には限界を指摘することもある。とにかく与えられた条件の中で前向きにガンバル子どもは多い。そういう子どもたちの努力に水を差す冷笑主義にならないように学問の成果を利用してもらいたいものだ。