読書日記

いろいろな本のレビュー

新疆ウイグル自治区 熊倉 潤 中公新書

2022-09-08 14:17:37 | Weblog
 副題は「中国共産党支配の70年」で、時系列で共産党のウイグル人に対する支配の実相が述べられている。1955年に自治区が成立したとき、共産党は少数民族の「解放」を謳ったが、最近はウイグル人に対する人権侵害が深刻さを増しており、西側諸国からは「ジェノサイド」という言葉で語られることが多い。新疆ウイグル自治区は中国全体の六分の一ほどの面積で、人口は約2500万人。そのうちウイグル族は1162万人、漢族は1092万人と拮抗している。ウイグル族は他の少数民族と違い、顔立ちや宗教からして、明らかにアジア人とは違っている。その民族を支配して、同化しようとするところに共産党の課題がある。

 そもそもこの地に漢族が進出を始めたのは、紀元前二世紀、前漢の時代である。以来王朝はここを「西域」として、中央から役人を派遣して統治してきた。唐の詩人王維の詩にも、「元二の安西に行くを送る」という有名な七言絶句がある。「西域」はシルクロードとも言われ、平山画伯の作品で一躍有名になった。今から40年ほど前の話である。当時はこの地に旅行することがブームになっていたと記憶するが、ということは、今のようなウイグル人に対する弾圧はあまりなかったのであろう。ところが最近の為政者の領土拡大主義と中華民族の復興というようなナショナリズムの鼓吹によって、状況はどんどん厳しくなっている。チベット、内モンゴル、そしてウイグル。これらが三大弾圧自治区だ。この地の共産党の書記は、「弾圧と支配」という汚れ仕事をうまくやることが、中央の政治局委員になるための必要条件になっている。

 ウイグルにおいてはテロ防止という名目で、監視カメラによる厳しい統制が日常化して、市民は窮屈な生活を強いられている。当初ウイグルの漢族の数は少なかったが、経済発展をさせるという名目でどんどん入植してきて今に至っている。そして監視強化の中、観光客がウイグル人のバザールに入るのも簡単ではない。これらはこの自治区の共産党書記が自分の点数稼ぎのためにやり始めたのだ。その新疆政策について著者は五項目にまとめているので紹介する。①産児制限の厳格化、不妊手術の奨励など、いわば次の世代を殺す措置。②「職業訓練センター」への収容、教育改造、労働者育成。③綿花畑での綿摘みへの動員、内地への集団就職の斡旋など、労働力を活用する措置。④先端技術、親戚制度などによる徹底的管理。⑤中国語(漢語)教育の普及、「中華民族共同体意識」の鋳造(確立)イスラームの中国化といった同化。

 おぞましい項目が並んでいるが、実際に行われているのだから寒気がする。私は④の「親戚制度」というのを、本書を読んで初めて知ったが、ウイグル人の家族に漢人が突然親戚になろうと言って突然やってきて、その家族と交流して相談に乗るという制度らしい。本当に支配のためには何でも考えるという、中央を「忖度」した制度を沢山作り出したようだ。これらの政策を実行した人物として有名なのが陳全国である。彼は習近平のご機嫌を取って出世しようとしていたが、そのあまりに過酷な統治が西側諸国から批判されて、結局政治局員になれず、閑職に追いやられた。過ぎたるはなお及ばざるがごとしとはこのことである。この中国共産党の成果主義というのも問題ありである。人治主義の極みというか、わかりやすいが、前時代的である。⑤の中国語の普及というのも、最近内モンゴル自治区でお触れが出て、モンゴル語の追放として批判されている。この①~⑤については本書で具体的に確認してもらえばと思う。とにかくひどい。習近平はあと五年居座ってウイグル同化と台湾併合をやるのだろうか。ちょっと目が離せない。