読書日記

いろいろな本のレビュー

マりー・アントワネット運命の24時間 中野京子 朝日新聞出版

2012-05-13 08:21:32 | Weblog
 1789年にフランス革命が起こり、たちまち王政は瓦解して、国王ルイ16世と王妃マリー・アントワネットはギロチンにかけられたと思われているが、そうではない。君主制と共和制の二重構造が出来ていたが、ヴェルサイユでの宮廷生活自体は変わらず、王は連日狩猟を楽しんでいたし、王妃はプチ・トリアノンでこれまで通り息抜きができた。しかし庶民の生活は依然として苦しいままだった。革命から三ヶ月後、この奇妙な沈静化に怒ったパリ下町の女たちが、パンをよこせとヴェルサイユまで大挙して押しかけたのがきっかけで、これに反王党派が呼応してアントワネットの命まで狙うという大騒動へと発展。国民衛兵隊指揮官ラフアイエット侯爵が事態を収拾したが、人々はもはや王侯がヴェルサイユ宮殿に留まることを許さず、パリ中心部のかつての王宮チュイルリーへ彼らを移して監視した。その後、1791年、スエーデン侯フエルゼンに助けられ、重警備のチュイルリー宮殿から変装して逃亡するが、目的地のモメンディまであとわずかの僻村ヴアレンヌで見破られ、屈辱の逮捕、そして憎悪の中パリへの護送という最悪の結末を迎えた。これが「ヴアレンヌ事件」である。
 本書はアントワネットの王宮脱出から逮捕されるまでの一日を記したもの。彼女はオーストリアのハプスブルク家から嫁いで贅沢三昧の生活、民の苦しみを理解しない王妃というイメージが醸成され、革命を機にそれが民の憎しみの標的になり、最後はパリ市中引き回しのうえ、夫のルイ16世とギロチンの露と消えた。高貴に生まれた者の宿命というか、世の中がうまく行っていれば、国の華ともてはやされるのだろうが、夫の無能によって悪政の象徴となったことは、残念至極であったろう。しかし、この不幸な結末が、アントワネットの名を不朽のものにしたことは確かで、この意味では幸せ者だ。
 王侯貴族の逃避行は庶民の夜逃げみたいに行かないところが難である。特にルイ16世の優柔不断さが決定的だ。読んでいてイライラするが、逆にこれは著者の力量が発揮されたものと言える。アントワネットとスエーデン侯フエルゼンとの恋愛問題も織り交ぜて小説仕立てにした文章は読みやすく面白い。
 この逃避行を読んで、イタリアのフアシスト、ムッソリーニが愛人ペタッチと逃亡して最後はパルチザンによって処刑され、ミラノの広場で逆さ吊りにされた話を思い出した。革命とはかくも厳しい結末をもたらすのかと言う思いだ。多くの血が流される。政権交代が無血でなされる日本は幸せというべきか。
 中野氏の本は『怖い絵』以来、欠かさず読んでいるが、『名画の謎(ギリシャ神話篇)』もお勧めだ。一枚の絵に託されたギリシャ神話を堪能できる。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。