竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
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花こぶし汽笛はムンクの叫びかな 大木あまり

2019-04-01 | 今日の季語


花こぶし汽笛はムンクの叫びかな 大木あまり

辛夷の花は、どことなく人を寄せつけないようなところがある。辛夷命名の由来は、赤子の拳の形に似ているからだそうだが、赤ん坊の可愛い拳というよりも、不機嫌な赤子のそれを感じてしまう。大味で、ぶっきらぼうなのだ。そんな辛夷の盛りの道で、作者は汽笛を聞いた。まるでムンクの「叫び」のように切羽詰まった汽笛の音だった。おだやかな春の日の一齣。だが、辛夷と汽笛の取り合わせで、あたりの様相は一変してしまっている。大原富枝が作者について書いた一文に、こうある。「人の才能の質とその表現は、本人にもいかんともしがたいものだということを想わずにはいられない。……」。この句などはその典型で、大木あまりとしては「そう感じたから、こう書いた」というのが正直なところであろう。本人がどうにもならない感受性については、萩原朔太郎の「われも桜の木の下に立ちてみたれども/わがこころはつめたくして/花びらの散りておつるにも涙こぼるるのみ」(「桜」部分)にも見られるように、どうにもならないのである。春爛漫。誰もが自分の感じるように花を見ているわけではない。『火のいろに』(1985)所収。(清水哲男)

【辛夷】 こぶし
◇「木筆」(こぶし) ◇「花辛夷」 ◇「辛夷の花」 ◇「辛夷咲く」 ◇「やまあららぎ」 ◇「こぶしはじかみ」 ◇「幣辛夷」(しでこぶし) ◇「田打桜」(たうちざくら)
モクレン科の落葉高木。山野に自生する。また観賞用に庭園、公園に植えられる。高さは普通5~10メートル。日本の特産。早春、葉に先だって芳香ある白色六弁の大花を開く。地方によっては田打桜と呼んで、この頃から田打ちを始める。古名やまあららぎ。
例句 作者
辛夷咲き日暮のこころ永くせり 細見綾子
夜陰にも辛夷散華の温みあり 千代田葛彦
わが山河まだ見尽さず花辛夷 相馬遷子
雉子一羽起ちてこぶしの夜明かな 白雄
青空ゆ辛夷の傷みたる匂ひ 大野林火
花辛夷川が光つてきたりけり 成田智世子
辛夷咲く村に一人の万医者 水原春郎
風摶つや辛夷もろとも雑木山 石田波郷
花辛夷空青きまま冷えてきし 長谷川 櫂
降りしきる雪をとゞめず辛夷咲く 渡辺水巴


白辛夷来ぬ人待つや雨の闇 たけし

くらやみを余白に仕立つ花辛夷 たけし

凛とかたくな真夜の白辛夷 たけし

夕しぐれ人待ち灯る花辛夷 たけし


花辛夷闇を余白に使い切る たけし