竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
自得の100句が生涯目標です

朧夜の四十というはさびしかり  黒田杏子

2019-04-17 | 今日の季語


朧夜の四十というはさびしかり  黒田杏子

年齢を詠みこんだ春の句で有名なのは、なんといっても石田波郷の「初蝶やわが三十の袖袂」だろう。三十歳、颯爽の気合いが込められている名句だ。ひるがえってこの句では、もはや若くはないし、さりとて老年でもない四十歳という年齢をひとり噛みしめている。朧夜(朧月夜の略)はまま人を感傷的にさせるので、作者は「さびし」と呟いているが、その寂しさはおぼろにかすんだ春の月のように甘く切ないのである。きりきりと揉み込むような寂しさではなく、むしろ男から見れば色っぽいそれに写る。昔の文部省唱歌の文句ではないけれど、女性の四十歳は「さながらかすめる」年齢なのであり、私の観察によれば、やがてこの寂しい霞が晴れたとき、再び女性は颯爽と歩きはじめるのである。『一木一草』(1995)所収。(清水哲男)



朧】 おぼろ
◇「朧夜」(おぼろよ) ◇「草朧」 ◇「鐘朧」 ◇「影朧」 ◇「家朧」 ◇「谷朧」 ◇「橋朧」 ◇「庭朧」 ◇「灯朧」(ひおぼろ) ◇「朧めく」
春は大気中に水分が多いので、物の姿が朦朧とかすんで見える。朧は霞の夜の現象である。ほのかなさま。薄く曇るさま。

例句          作者

燈明に離れて坐る朧かな 斎藤梅子
辛崎の松は花より朧にて 芭蕉
能舞台朽ちて朧のものの影 鷲谷七菜子
朧夜や殺して見ろといふ声も 高浜虚子
おぼろ夜の昔はありし箱まくら 能村登四郎
朧夜の蛇屋の前を通りける 山口青邨
葛の桶朧の生れゐるところ 長谷川 櫂
灯ともせば外の面影なき朧かな 富田木歩
草おぼろ生涯に賭まだのこる 藤田あけ烏
おぼろ夜のうどんにきつねたぬきかな 木田千女