竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
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臍の緒を家のどこかに春惜しむ  矢島渚男

2019-04-28 | 今日の季語


臍の緒を家のどこかに春惜しむ  矢島渚男

自句自解で、作者はこう書いている。「小さな桐の箱に入った自分の臍の緒を見たことがあった。たしかここだったと思って、もう一度探したが出てこない。どこかへいってしまったらしい。どうしたのだろう。そんな思いがあって浮んだ句だった」。私も、まったく同じ体験をしたことがある。母から臍の緒を見せられたのは、小学生のころだったが、その桐の箱は母が嫁入りのときに持ってきた桐の箪笥の小さな引き出しにしまわれていた。その箪笥は数度の引越しのたびに新居に納められ、いまでも実家の六畳間に健在だ。しかし、箪笥は健在だが、引き出しの臍の緒は忽然と姿を消していた。まるで春の霞か靄のように、いつしか霧消していたのだった。この句の「春惜しむ」も、そんな気分の表現なのだろう。『木蘭』所収。(清水哲男)

【春惜しむ】 はるおしむ(・・ヲシム)
◇「惜春」(せきしゅん)
春が過ぎて行くのを惜しむ心である。一種物淋しい。惜春。

例句 作者

九品仏迄てくてくと春惜む 川端茅舎
春惜しみつつ地球儀をまはしけり 長谷川双魚
臍の緒を家のどこかに春惜しむ 矢島渚男
春惜しむ食卓をもて机とし 安住 敦
パンにバタたつぷりつけて春惜しむ 久保田万太郎
赴任地に降りたちて春惜しむ日よ 酒井十八歩
惜春の道うしろにも続きけり 倉田紘文
名を惜しむこと忘れ春惜しむかな 上井正司
春惜しむ己の酒を盗んでは 河西みつる
春惜しむおんすがたこそとこしなへ 水原秋櫻子