野遊びの皆伏し彼等兵たりき 西東三鬼
心地よい春の日差しを浴びて、のんびりと野に憩う仲間たち。楽しい一時だ。吟行の途次であるのかもしれない。そのうちに、一人二人と芳しい草の上に身を横たえはじめた。が、気がつくと、彼等はみな腹ばいになっている。一人の例外もなく、地に伏せている。偶然かもしれないが、仰向けになっている者は一人もいないのだ。その姿に、三鬼は鋭くも戦争の影を認めた。彼らは、かつてみな兵士であった。だから、こうして平和な時代の野にあるときでも、無意識に匍匐の姿勢、身構えるスタイルをとってしまうのである。兵士の休息そのものだ。習い性とは言うけれど、これはあまりにも哀しい姿ではないか。明るい陽光の下であるだけに、こみあげてくる作者の暗い思いは強い。「兵たりき」読者がおられたら、一読、たちどころに賛意を表される句だろう。明暗を対比させる手法は俳句のいわば常道とはいえ、ここまでの奥深さを持たせた句は、そうザラにあるものではない。『新改訂版 俳句歳時記・春』(1958・新潮文庫)所載。(清水哲男
)【野遊】 のあそび
◇「山遊び」 ◇「野かけ」 ◇「春遊び」 ◇「ピクニック」
暖かい春の日を浴びて、野山で草摘みなどして遊ぶこと。
例句 作者
貫之のあそびたる野に遊びけり 稲荷島人
野遊びの皆伏し彼等兵たりき 西東三鬼
野遊びのひとの見てゐる水たまり 鳥居三郎
野に遊びたるだけのこと誕生日 大橋敦子
野遊びの逢魔が時の橋こつ 牧瀬千恵
野遊びの児等の一人が飛翔せり 永田耕衣
野遊びの橋渡るとき川覗く 小杉風子
野遊びの籠よ湿りし草の香よ 長谷川久々子
野遊びに足らひし妻か夕支度 中島斌雄
人と灯を恋うて戻るや野に遊び 森 澄雄