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メカニズム(24)

2016年09月11日 | メカニズム
メカニズム(24)

 ノートの最後のページ。学生時代にも使い切ったことがない。もちろん、手元にもうない。学んだことは脳のどこかにある。楽観論や性善説にむりやり結びつければ。引き出しのレールは錆びて、かなり開けづらいが。

 区切りとなるようなもの。ひとは節目とかゴールとかが大好きだ。いったん終わらせて再出発。しかし、転職をよしとしない社会でもある。奉公は一社のみ。大家族。生き様としての第三セクター。

 みなしご。最後の打席をホームランで飾るという誘惑にかられる。毎日行っていたことを確実に今日もするというのが、正式なプロだった。身だしなみ程度の熱量で。アマチュアの分際での大風呂敷。その確実さが失われたら引退だ。引退もなにも、まだ何事もはじまってもいない。

 なんとなくひとみのワードローブを見る。知り合ったころといささか違う。職業があるひとの振る舞いや容姿を規定する。柔道家は柔道家のように。警察官は警察官のように。ひとみはひとみのように。ぼくはぼくのように。

 腹が減ったので、インスタント麺に湯を適量だけ注ぐ。もっとましな生活を望んでいたが、三分ではその希望も叶わない。これが高望みを許さない社会だ。

 満腹になってペンを握る。チェーホフ。トーマス・マン。ひとの名前が何かしらの意味をもつ。自分の名前を筆圧を込めて書いてみる。これに意味はない。ただの四つの漢字。森鴎外。下呂温泉。

 ホームランを狙うというこれ見よがしの態度が悪かった。こつこつと塁を埋め、こつこつと点を入れる。義務的に投げ、義務的に抑える。プロの責任の終局の歓喜と報いの対価として得られる証しは、ただ陽気でいられないという事実で、まさしくこれが人生のようだった。

 初恋。という最後の缶詰を開ける。その用意をする。どこの時点の? という客観的な視点の問題が起こる。寝る前に必ず考えた異性(あるいは同性。差別撤廃)に決める。自分には見当たらなかった。缶詰の賞味期限は切れていたのか。

 いや、これは隠そうという秘めたる思いからであった。ひとつやふたつという大まかな愛のかけらがある。ふたを開ける。みずみずしい桃のようなものがある。別れが来ないように願っているが、新しい恋は苦しい走者の息切れのあとに訪れる。


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